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早々と過ぎて行く人混みの中に彼女を探していた。

いくら探しても彼女はいない。

だからだろうか。

いつも以上に暑くて苦しい。

「すいません、たこ焼きふたつ」

前を見るといた。彼女だ。

古川と一緒にいる。

「あ、はい」

彼女の隣にいるのは俺がいい。

そう、思い始めてしまった。

「はい、これたこ焼きふたつ」

「あと、浴衣似合ってる。綺麗だ」

「え、あ、ありがとう」

段々と顔が赤くなってくる。

そして前に増して暑くて仕方がない。

「行こう、瑠那さん」

古川がそう言い歩いて行く。

彼女は返事をして俺の方に向いて言った。

「またね、酒井」

手を振って去ってしまった。

やはり、胸の奥が苦しい。

会いたかったのに会わなければ良かったとすら思う。

好きだ。好きだ。好きだ。

はやくそう言いたかっただけなのに。

俺の好きはまだ届かない。




あの日から数日が経った。

彼は普通に連絡もするし話してもくれる。

あの日は本当に夏のせいだからだとでも思っているのだろうか。

もうすぐ夏休みが終わる。

これで夏のせいには出来なくなる。

少し、自分に自信が持ちたい。

それだけの理由だった。

髪を切りに美容室へ行った。

「いらっしゃいませ」

「予約していた蒼井です」

美容室は苦手だから余り行きたくなくて髪は伸ばしていた。

けれど少しでも佐藤先輩に似た見た目にして彼の目に映りたい。

「今日はどうしますか?」

「ボブで、お願いします」

「分かりました」

美容師さんは無言で髪を切っていく。

私が会話をするのが苦手と察したのだろうか。

「なぜ、綺麗に伸ばした髪を切ることにしたんですか?」

「え?あぁ、好きな人が短い髪の毛が好きだって言ってたから 」

「いい理由ですね。その人とは順調?」

「いえ、その人には好きな人がいます。私以外の」

「でも諦めきれなくて苦しいのにずっと想ってしまう。好きを言葉にできません」

ものすごく苦しい。

恋なんてそれだけなのに諦められない。終われない。

無意識に涙が溢れていた。

「すいません」

「いえ、大丈夫です」

「私も、その年頃に大恋愛をしました。相手は同じクラスの人気者の男の子。ずっと想い続けてるだけでした。何も行動に移さない私に神様は呆れたんですかね、その人に彼女が出来たんです」

「隣のクラスの女の子でした。私はその当時何年も片思いしていたんです。それを知っていた私の友人はその人の彼女に文句を言いに行ったんです」

「この子が先に好きだったとか、それを知っててなんでとか。でもその女の子は好きを回りくどい言葉でしか言えないから振り向いて貰えなかったんだって私に言ったんです。その時、気がついて、私は一度も好きだなんて言ったこと無かったって。いつか気づいて貰えるじゃなくて言わなければ気づいて貰えないんです」

「お客様もきっと好きと言葉にしてみると見てくれると思います」

行動、言動全て回りくどかったのかもしれない。

私は彼に好きだと一言でも言えていない。

察して貰えるじゃなくて、聞いてもらうでないと意味が無い。

好きだから、知って欲しい。

私の気持ちを。


「終わりました」

頭が軽くて涼しい。

「とてもお似合いです」

「あ、ありがとうございます」

「きっと大丈夫」

「頑張っください」

「頑張ります!」

初めて美容室に来て良かったと思った。

少し勇気を出して良かったと思う。




綺麗だと言われた。

私の浴衣姿を愛おしそうに見つめていた。

もしかしたら私のことを本当に好きなのかもしれない。

胸の奥が掴まれるような感覚に陥る。

私を見るあの眼差しをもう一度見たいと思ってしまった。

私には古川くんがいるのに、酒井が私の特別になって欲しい。

あの日のヒーローに憧れていた。

だからこそ、私を見て欲しい。

好きだと言って欲しい。

好きを止められるほど私は大人じゃないから。

風が吹いてくる。

ベランダから見る空はまだ青い。

夕暮れ時になるはずもない正午の時間が好きだ。

「水野!」

声をかけられた。

下を見ると彼がいた。

「酒井!」

会いたかったから。

見た瞬間駆け出していた。

階段を駆け下り玄関の戸を開ける。

彼がいた。

いつも通りの彼が。

「はぁ、酒井、!」

「水野、行こう」

涙が溢れそうになる。

泣いたらだめだと分かっているのに、会えたことが嬉しくて仕方がない。

私はきっと、古川くんを裏切る事になるのだと思う。

だけれど、好きは止まらない。

私の気持ちを聞いて欲しい。

「よし、ここ座ろう」

酒井はやはり、ここを選ぶ。

いつもの河川敷にいつもと同じように腰掛けた。

「ねぇ、酒井。やっぱり好き。諦められない」

「唐突だなぁ水野はいつも」

「俺も好きだよ。知ってるだろ?」

「でも、古川といるべきだと思う」

思ってもみない返答だった。

苦しいし、悔しい。

「私が一緒にいたいのは酒井だよ」

「だからこそ、水野が悪者になるのは耐えられない」

真剣な目をしてこちらを見る彼がなんだか苦しかった。

「でも、回りくどい話を省くなら瑠那が好き」

私は幸せになれないのだろうか。

私の幸せは貴方だと上手く伝えられない。

いつになったら伝えられるの。

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