テラーノベル
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「……へぇ、ふーん」
自分でも驚くほど、低くて冷え切った不機嫌な声が漏れ出していた。
直哉がハッとしたように、慌ててこちらを振り返る。
「兄さん?」
「別に。モテモテで良かったな。邪魔者は消えるから、二人で仲良くクッキーでも食えば?」
「え、ちょ、兄さん、待って───」
女の子が呆然と立ち尽くすのも無視して、俺はパイプ椅子を抱えたまま、もの凄い勢いで歩き出した。
心臓がバクバクと嫌な音を立てて警鐘を鳴らしている。胸の奥が、焼け付くように熱くて痛い。
背後から、焦ったような激しい足音が追いかけてくる。
「兄さん、待って!!」
「来るなよ」
「なんで、待ってってば!」
「知らねぇよ、お前なんか嫌いだ!」
半ばパニックになりながら、人がいない体育館の裏手の狭い敷地まで逃げ込んだところで
背後から強引に腕を掴まれた。
「兄さん!」
「離せって言ってんだろ!」
「怒ってる。絶対に怒ってるじゃん!」
「怒ってねぇ!!」
「じゃあなんでそんなに、泣きそうな顔してるの」
「……は?」
直哉の切羽詰まったその言葉に
俺は全身の血が凍りついたように、その場で完全に固まってしまった。
泣きそう?
この俺が?
たかがクッキーを貰ったくらいで、今にも泣き出しそうな顔をしてる?
直哉は、胸元にクッキーの袋を抱えたまま
今にも消えてしまいそうなほど不安で、ひどく困った顔をして俺を見つめていた。
「兄さん……最近、嫉妬を隠さなくなったよね。俺、すっごく嬉しいんだけど、そんな顔されると胸が痛いよ」
「っ……」
違う。
違うと否定したかった。
だけど、視界がじんわりと熱く滲んでいることに気づいてしまい、言葉が出てこない。
最悪だ。本当に、みっともなさすぎる。
「……お前が、悪いんだろ」
「え?俺?」
「誰にでも、そうやって思わせぶりな態度で優しくするから……っ」
「だから、俺は兄さん以外の人間には、これっぽっちも興味ないって────」
「口では何とでも言えるだろ…現に今、そのクッキー受け取ったじゃねぇか…いつも受け取らないのに!」
涙目で言い返した瞬間
直哉がハッとしたように静かに目を細めた。
その瞳の奥に、いつもとは違う、暗く熱い激情が灯る。
「兄さん…っ」
一段と低くなった声。
冗談も悪戯っ気もすべて削ぎ落とされた、本気の時のトーンだ。
直哉は一歩、俺との距離をゼロにするまで近づくと、俺の目を真っ直ぐに見据えた。
「俺が、あのクッキーを受け取ったのはね、中にメッセージカードが入ってるのが見えたから。後で兄さんに見られないように、その場で回収して、速攻で捨てるためだよ。外面よくしておけば、余計なトラブルにならないからそうしただけ」
「……え」
「俺、兄さん以外に本当に興味ないんだよ……?兄さんだけが、俺にとって特別なんだよ」
至近距離から、逃げ場のない真っ直ぐな瞳で見つめられる。
その瞳に嘘がないことなんて、誰よりも俺が一番よく知っていた。
あまりの気恥ずかしさと
自分の勘違いの痛さに耐えきれなくなって、俺はフイッと視線を斜め下へと逸らした。