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目の前で起きる現象は物語という名の世界が崩壊しているという言葉がしっくり来ていた。

強烈な地響きの中、貴族青年Dの意識はフワフワとした真っ暗闇の中にあった。

さっきまで城の中で謎のモンスターに追い回されていたというのに今は居場所のない空間を漂っている気分だ。

実際に崩れ去る自分の世界を見ているわけだが…。

というより、その残骸がまるで海の底に沈んでいるような光景だ。

今いる場所だって、海水の中にいるような気すらしてくる。


ああ、なるほど…。ここがかの有名な底なしの海か。


何らかの要因によって捨てられた物語が放り込まれる場所。

話には聞いたことはあったが、自分が来ることになるとは思わなかった。

そして埋もれる物語たちの中には俺の世界…故郷も含まれている。

見上げれば、波に揺られるように無数の物語が星座のように浮かんでいた。


「やはり、世界を維持するのは難しかったか」


一人納得するようにつぶやくセイにイライラが募っていった。

不気味さの漂うこの場所に放り出されて貴族青年Dはパニック寸前だった。


「説明しろ!」


今日は最悪な日だ。いつもと同じようにヒロイン達の晴れの舞台を見届けて、美味しい食事を堪能できると思っていたのに見慣れないモンスターに追い回されたかと思ったら変な男に遭遇し、絡まれる。

正直、モブにはキャパオーバーだ。


「あのモンスターはワームドだ。世界を喰らう虫だよ」

「虫?」

虫にしてはでかすぎだろ。ただれた皮膚は異様にリアルで俺の住む世界には合わない。青色の光沢を帯びる見た目は一層気持ち悪さを感じる。思い出しただけで背筋がゾワゾワした。

「君が見た通り、奴らは様々な物語を食べつくすんだ。特に主人公や主要キャラが大好物でね。僕の世界も…」


こいつの世界も喰われたのか…。


徐々に言葉を濁すセイに貴族青年Dは居たたまれなさを感じる。


あまり突っ込んだ事を聞ける雰囲気じゃねえよな…。


「そのワームドっていうのはどこから現れたんだ?」

「それが分からないんだよね」

「はあ?じゃあ、どうするんだよ」

「うん。悩ましいところなんだよね。確かな事はワームドがあらゆる世界に出現しては物語を喰らってるってことだけだ。それだけは確実…」


なんか、淡々と話しているせいで忘れそうだが、これってすごくまずい状況なんじゃねえか?


「俺の世界は元に戻るのか?」

「現状では無理だね」

「やっぱりか。すっげえ困る!」

こんなことならビーフステーキだけでも食べときゃよかった。


帰る場所がなくなったにしては呑気な考えばかりがわいてくる。


「気持ちは分かるよ。ショックだよね。せめて主人公達が無事ならよかったんだけど…」

「どういう意味だ?」

「イマジエイトが創造主方々が作られた世界だという事は君だって知っているだろ?」

「当然だ」


高次元からアクセスしてくる姿の見えない創造主達。彼らの意識によってイマジエイトは創造されている。

その創造主方々が生み出した意識の集合体は様々な世界を構成し、物語は展開されているのだ。


「俺としてはイマジエイトは創造主様方を楽しませるために作られた場所だって認識している」

貴族青年Dはごく当たり前の知識を披露した。

「その通り。特に主人公達は特別だ。彼らは創造主達に共感を生み出し、感情移入するために作られた物語の格…いわば世界の中心だ。主人公がいれば、その周りに物語は出来上がる」


なるほどな。俺のようなモブとは存在自体が違うってわけだ。


「ワームドは世界の成り立ちを心得ているかは謎だが、主人公をかぎ分ける能力は極めて高い」

「俺を無視して、ヒロイン達の所に真っ先に向かってたもんな」


頼みの綱だったヒロインや王子があっさり消滅された光景を思い出し、ますます絶望感が募っていく。


「ということは、俺の世界は消えたままなのか?」


クソ!せめてごちそう食べた後に消滅してほしかったぜ。

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