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コメント
2件
赤くんの病気とか過去が気になる… 続きが楽しみです!
続き楽しみです☺️
内臓に悪性の腫瘍が発見されたので、そういういきさつで俺は彼と出会った。
病衣からのぞく腕は真っ白、鮮やかな赤髪が綺麗で、唇が薔薇色の、天使。
涙がサファイヤになるのだと思う。
「見て。桃くん。いいお天気」
朝。
カーテンを全部開けて、少しだけ窓から風を運んで、莉犬は笑う。
朝日が彼を照らす。
何だか遠くへ行ってしまいそうだったので、俺は彼に歩み寄り、その手を掴んだ。
「ご飯」
「そうだね」
「外、散歩するの?」
「それもいい」
赤が俺を否定するところを見たことがなかった。
赤とは同い年で、話も合ったから、俺も否定はしなかった。
でも、赤の肯定は何だかむず痒い。
「桃くんが車椅子を押してくれるの?」
「うん。俺がやるよ」
「ほんとう? 嬉しいなあ」
能天気な天使だ。
地上に落ちてしまったのに、地上を満喫している。
二人で朝ご飯を食べる。
時折、赤が好き嫌いをしているところを見かける。
彼と一緒に過ごして一か月、少しの悪事には目を瞑ることを覚えた。
天使にも悪知恵は働くものだ。
「もっと、もっとたくさんさとみくんのこと知りたいな」
本当に優しいひとだった。
赤は優しさの形をしているのだ。
そうに違いない、と、ほとんど確信的に思う。
お昼は二人で勉強して、おやつを食べる。
赤はたくさん食べないと死んでしまうのかもしれない。
間食が多いし、ばくばくごくごくたくさん食べたり飲んだりしている。
恐らく、いくらか食事制限のある俺の三倍は食べている。
「散歩に行こう!」
俺たちは十七歳だ。
車いすを引く担当者が決まれば、二人でのお出かけは許された。
つまり、俺はまだ健常者のうちに入る人間ということらしい。
そのうち外には出られなくなるだろうけど。
赤はこんにゃくゼリーの袋を持って車いすに座った。
食べるらしい。
「近くに公園があるんだ。夏が来たら、お祭りを」
「知ってるよ。俺、隣町に住んでるし」
「ふぅん。じゃあ、退院しても会えるね」
「どっちが?」
「え?」
「……何でもない」
赤とは仲良くしているつもりだ。
だけどどうしても、溝がある。
お互いにお互いの大事なところを知りえないように壁を作っているから。
知っちゃいけないのだ。
赤の病状とか、赤の生い立ちとか、赤の可哀そうなところとか。
知っちゃいけないんだ。
赤の車いすを押した。
青葉が茂った木が増えた、夏が来た。
そよ風が頬を撫でる。
赤はさっきから手持ちのおやつを食べまくっている。
「桃くんも食べる?」
「あー、うん。ありがと」
赤がブドウ味をくれた。
天使はいくら食べても太らないのだと、俺は笑う。
本当は?
本当は、そんなんじゃなくて。
赤は心配になるほど細くて。
それは病気の所為って知ってて。
だから彼はこんな車いすひとつなければ碌に歩けなくて。
「休憩しよう。熱中症になったら大変だよ」
「赤が帰れなくなっちゃうね」
公園のベンチで一休み。
赤は汗をかかない。
なのに顔が真っ赤だった。
「桃くんはさ」
水筒を飲む速さも、俺よりずっと早い。
赤の身体は俺よりもずっと栄養を欲してるんだ。
いやでも気づいてしまうこと。
いやだから目を逸らすこと。
「友だちとか、お見舞いに来ないの?」
「残念だけど。俺、友だち多いわけじゃないし」
「そっか。俺もおんなじだよ」
赤が自身を指さしてへへへ、と笑った。
どうでもいいことを笑うひとだと思った。
だからこそ、どうでもよくないことは笑わない誠実なひとだった。
その日は、日が暮れ始めたころに帰った。
赤という人間をまた一人知った。
「今日、めちゃくちゃ楽しかった! また行こうね!」
天使が、瞳を輝かせて、俺を見てる。
これは長い長い夢なんじゃないかと思ったりする。
「……また明日。かもね」
こちらを見た赤が笑った。
夢でもいいや、と思った。