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明るい路地裏
視線を向ければ、小柄な女の子がガラの悪い数人の男たちに囲まれている。
一人が彼女のバッグを乱暴に奪い取り、獲物をいたぶるような卑俗な冷笑を浮かべていた。
「無粋ですね。朝の散歩が汚される」
アルベルトの纏う殺気が、一瞬で鋭利な刃となる。
彼が動くより早く、私はドレスの腰辺りにある両ポケットに忍ばせた
特注の魔道具である二丁のリボルバーに手をかけた。
けれど、彼の方が一瞬早かった。
彼はまるで影が滑るような動作で男たちの懐へ音もなく飛び込み、一切の無駄なくその手首の関節を極める。
鈍い音が響き、男たちが悲鳴を上げる間もなく、奪われたバッグは宙を舞った。
私はそれを鮮やかに受け止め、逃げ出そうとした一人の足を、ドレスの裾を翻しながら容赦なく蹴り飛ばして地に這わせた。
私は念の為にと、一丁のリボルバーを流れるような動作で取り出し、その銃口を男たちに向けた。
引き金を引くと、銃声の代わりに蛍光色の線が発射される。
それは生き物のようにうねり、軌道に任せて男たちの体をグルグルと、逃げられぬよう強固に拘束した。
すぐにリボルバーをポケットの闇にしまうと、私は表情を整え、少女に歩み寄った。
「……大丈夫?」
私はバッグを差し出しながら、怯える女の子を覗き込む。
成長してはいるが、あの写真の面影がはっきりと残っている。
資料に写っていた、あのダイキリという娘だ。
「あ……ありがとうございます! あの、お礼をしたいんですけど……」
必死に頭を下げる彼女に、私は冷ややかに、けれど確実な獲物を捉えた確信を持って問いかけた。
「貴方、ここの酒場の店員さんかしら? ダイキリって女の子を探しているのだけれど」
「あ、私のことですか?!」
分かりやすい反応。
私はアルベルトと視線を交わし、口角を僅かに吊り上げた。
「実は貴方に尋ねたいことがあって。お店でじっくり話したいことなの……貴方のお母様に関する話と言ったら、分かりやすいかしら?」
『お母様』という言葉を出した瞬間、ダイキリの瞳の色が変わった。
切実さと、消えかかっていた希望。
それはまさに、餌に飛びつく獲物の目だった。
「母のことを知っているんですか?! ……あ、それならお店で。今夜、また来てくれますか?」
「あら、それは助かるわ」
「はい、お店はCLOSEにしますけど、ノックしてもらえればすぐに開けますから。美味しいお酒を用意してお待ちしてますね!」
彼女は何度も礼を言いながら、縋るような想いを瞳に宿して、自分の店へと駆けていった。
その小さな背中を見送りながら、私は指先に残る冷たい朝気の感触を確かめる。
「順調すぎるわね、アルベルト」
「ええ。狙い通り、入り口は開かれました」
アルベルトの瞳に、太陽の光さえ届かない深海の底のような闇が宿る。
自分の母親を植物状態に追い込んだ男の娘──
すなわち仇の娘を、知らずに「救世主」だと思って招き入れる無知な少女。
その歪な構図に、私は言い知れぬ愉悦を覚えていた。
父様…貴方が用済みだとゴミのように捨てた過去の残骸が
今、貴方の喉元を食い破るための鋭利なナイフに変わろうとしているわ。
今夜、その酒場が私たちの新しい「戦場」になる。