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時間を巻き戻しましょう、とリュゼは言った。

もちろん、ゲームで時間を戻そうなどというイベントはなかった。それも当然、ヒロインのメアリー側の視点では見られないところで起きているからだろう。


私はこの世界に転生し、すでに半年間を何十回もループさせられている。その原因を探り、しかし突き止められずにいた。

だがここで、そのループの原因が判明するかもしれない!


「リュゼ、どういうこと?」

「お姉様は時空石という魔法の石をご存じですか?」

「……いいえ」


ゲームでのそれなら知っているわ。確か、行動を1回のみやり直せるというアイテムで、選択を間違えた時のお助けアイテムだった。

だが、この世界での時空石がどういうものかは知らない。


「その時空石とは?」

「時を戻す魔法石です」


リュゼは答えた。


「わたくしの家の書庫に、その時空石について書かれた本がありました。それを使えば、望みの時間に戻ることができる、と」


時間を戻る――つまりはループ。気づけば眉間にしわがよっていた。


「そうです、お姉様。この魔法の石を使えば、王子とメアリーが会う前に戻って、二人が仲良くならないようにすることも可能です!」

「……」


ループの原因は、この時空石にあるのかしら。

卒業式の前日に毎回ループしているのは、この世界で誰かが、そのタイミングで時空石を使っているから?

だとすれば、それを阻止すれば、私を苦しめてきた呪いのループを終わらせることができる!


「リュゼ、その時空石はどこにあるの?」

「本には、聖女の泉のある湖にあるとありましたわ。聖女の祠の反対側に岸に、隠された祠があるとか……」

「行きましょう!」


私は即断した。ループが実行されるのは卒業式の前日。

何が原因でループが発動しているかわからないが、それが発動する前に時空石を押さえられれば、このループ地獄から逃れられるかもしれない!

ループの原因が時空石でなかったなら、その時はまたループしてしまうだけ。可能性があるならそれを潰す。検討するのはループした後でもできるから。






ということで、私とリュゼはケーニライヒ王都学校を抜け出した。

舞踏会の後から、何故か門などに見張りが増員されていたけれど、こちとら闇夜の魔女。魔法で身体能力を強化して、屋根の上を駆けて敷地を囲む巨大壁も飛び越えたわ。


「わ、わたくし、お姉様にお姫様抱っこされてるー!」

「舌を噛むわよ、リュゼ!」


普通にやったらリュゼに屋根の上に上がったり飛び越えたりなんてできないので、ずっと私がお姫様抱っこしてあげている。

敷地外に出て、城下町へ。すっかり夜だけれど、貸し馬屋という馬のレンタルをしている店に行き、馬を借りた。


ここはゲームの仕様と同じなのよね。本当は商業ギルドと契約していないと断られるのだけれど、マークス侯爵家のご威光に加えて、こういうこともあろうかと私個人で予め金を払っていたからスムーズに借りられた。

実際に役に立ったことは数えるほどしかないけれど。


夜道は危ない。けれど、煌々と光の魔法で照らしまくって、私たちは聖女の泉へと向かった。遠くからでも目立ったでしょうけど、あまりに明るすぎて、周りが怖がって近づかない。

実際、光を浴びせられる格好になるから、魔獣たちも眩しくて近づけないわ。


「お姉様は、何でもできてしまうのですね!」

「何でも、何?」


馬を走らせているので、ちょっと聞き取りにくかった。

とまあ、大した話もなく、聖女の泉のある祠がある湖に到着。反対側ということだから、湖に沿って移動する。


「あ、きっとあれですわ、お姉様!」


リュゼが草木の中にある岩山を指さした。湖が前にあって、後ろがちょっとした断崖になっている場所だ。周りには木々が生い茂り、馬を下りてもちょっと行きづらい。


「特に祠とかなさそうだけれど……」

「あの岩の形は、本に書かれていた通りですわ。あ、ほら近くに行くと――」

「なるほど、景色で錯覚するように見えていたのね……」


近づけば、そこには小さな洞窟の入り口が見えた。私たちは馬を置いて中へと入った。真っ暗な洞窟内を照明魔法で照らして進む。

一本道だったが、なかなか長い道のりだった。リュゼが長い距離を歩き慣れていないのか、ぜぇぜぇと肩で息をしていたが、ようやくにして最深部に到着した。


光が見えた。


「あれが……」

「ええ、時空石、ですわ……!」


ふぅ、とリュゼが膝に手を当てて息をついた。

ゲームでの時空石はアイコン状でしか見たことがなかったが、黄色いクリスタルのような形をしていた。

淡く光を放っている時空石。これが……ループの原因。


私は歩き出す。ようやく、会えたわね。この呪いのアイテムが!


「お姉様、これで時間を戻せば――」


言いかけたリュゼが言葉を失う。私が護身用の剣を抜いて、一撃を叩き込んだ!


「お姉様っ!?」


キィイインと音がして時空石が倒れた。だが壊れない。さすが石だけあって、なかなか硬い。これはハンマーなどで砕いたほうがいいかもしれない。

しかしハンマーは持ち合わせていないので、異空間収納にしまった。リュゼからは消えてしまったように見えた。


「き、消えた!? 時空石が!?」


へたり込むリュゼ。私はすっとぼけることにした。


「どうやら攻撃を当てたから、どこか別の時空へ飛んでいってしまったかもしれないわね」


少なくとも、ここに時空石がなければ、卒業式前日に、ここで時空石を使おうとした者が使うことができず、ループも起こらないだろう。

石がここになければ、結果として壊したのと同じだ。


「どうしてです、お姉様!? 何故、時空石を……!?」

「どうしてかしらね。……無意識のうちに危険を感じたから、かな?」

「危険……?」

「直感。この時空石、何か危険な予感がしたわ。時間を戻すではなく、消滅させる石かもしれない」


適当なことを言う。時間を戻すなんて、どうして証明できるのか? 使ってみればわかる? あー、やめやめ、このお話はことまでにしましょう。

リュゼは不満そうではあった。しかし――


「お姉様、何だかとても嬉しそうですね」

「え? そうかしら?」


嬉しいに決まっているわ。だって、あれだけ悩ましてきたループ問題が解決したかもしれないのだ。

もちろん確証はない。また戻されてしまうかもしれない。

でも、今度こそループを抜け出させるかもしれない。希望がわいてきたの。嬉しくないはずがないわ!

悪役令嬢に私はなる!

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