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白山小梅
白山小梅
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……やってしまった。
昼下がり、大学の校舎内。フリースペースのソファーで頭を抱え込む。
柴崎ほとり、痛恨の極みだ。柊と……あの柊と寝るなんて、ありえない。
身体中に残されたキスマークや噛み跡は、柊の余熱を残している。最中は全然気付かなかったけれど……人のこと凶暴って言っておいて、どっちがよ。
でも……超良かった……。
セックスの途中で寝落ちするなんて都市伝説だと思っていた。事後は身体がだるくて動けないって現象もあたしは知らない女だった。毎回即立ち上がって水分補給してたもん。
でも、柊との一夜のおかげで、不可思議現象は立証された。
昨夜の情事を思い出せば、簡単に頬に熱が通う。それと同時に後悔の波がざぶんと押し寄せる。
曲がりなりにも、好きだった相手。本気になれないどころか、超本気に好きだった。
そんな人とワンナイトなんて、終わった……。
二回…いや、三回目?の途中、呆気なく寝落ちしたあたしは、物音に気づき目が覚めると、しっかりと朝で、柊は着替えの最中だった。
『一限、必修だったわ。やば』
しかし柊はあたしとの目覚めよりも、授業の方が大事らしい。連絡先交換しよ、とか、言われるかなってほんの少し期待したけどそれもなかった。
夢の狭間も一瞬で醒めるような幕引きに、柊との恋愛はやはり無いのだと、虚しさが残った。
ちょっとは夢の余韻を残して欲しかった。こんなに後悔するくらいであれば、本気で抵抗すべきだった。全部、後の祭りである。
ぱんぱんに膨れ上がった想いは、伝えることでしか軽くならない。伝えられない想いは重すぎて、別の誰かにぶつけようとした。でも、形を変えて、歪んでいくばかり。本気になれない恋愛ごっこを繰り返すあたしは、あの頃の思い出に今も囚われている。
もう終わったことだし、考えるのやめよ。そうだ、” 次こそは!”精神!
心の奥で呪文を唱えると、パチン、と頬を両手で思い切り叩いた。
芽依にもなにか言われるよね。あのLINEだけで納得するはずが無いもん。
虫の報せってやつだろうか「ほとり〜!」と可愛い声が届いたと共に、ふわりと軽い衝撃がはしる。
「ちょっと!昨日柊くんと消えたよね?ねえ、消えたよね!?」
「消えたけど、すぐに解散したよ。二次会楽しかった?」
「うん。長谷川くんと話してたけど、普通に楽しかったからまたみんなで飲もうって。ほとりも行こ?」
みんなで、ってことは、柊も漏れなく含まれているよね。
「……ごめん、いかない」
蚊みたいな声を出すと芽依は「えっ!?」と大袈裟に驚いてくれる。大きなおめめが飛び出してしまいそうで、申し訳ない。
「どーして!?つまんなかった!?」
「んーん、楽しかった。エミちゃんとリサちゃんも楽しい子たちで、芽依のお誘いにハズレってないなーって再確認した。でも、あの中に恋愛に発展しそうなひと、居なかったなって」
「そうかなー。ルイくんと良い感じじゃなかった?あ、でもルイくんはリサと消えてたなー」
ふーん。彼氏がいるルイくんは、リサちゃんを持ち帰ったんだ。
ていうか、ルイくんに彼氏がいるのって嘘じゃない?あれも、柊が適当についた嘘な気がしてきた。
見る目ないって、あたしのこと、馬鹿にしたかっただけだろう。そんなことでさえ、腹が立つ。
「まあでも、柊くんが一番やばそうな感じはしたよね」
後ろ手をついた芽依は、ころんとした声を出す。どうやら、芽依の意見とあたしの意見は違うようだ。
「ルイくんじゃなくて?」
「ルイくんはこなれてる感じだったけど、それだけじゃない?てか、なんでルイくん?」
「ごめん忘れて。で、なんで柊くんがやばそうって思ったの?」
「だってさ、あーんなにイケメンくんなのに、彼女作らないスタンスらしいのよ。ヤリチンっていうか、女の子が執着みせてきたらフェードアウトするとか、クソじゃん。まあ、その気持ちも分かるんだけどさ」
三年も経てばかわるって思ってたけど、彼女を作らない主義の男は、どうやら今も健在らしい。
「芽依子ちゃん、自分で自分のことクソって言ってるけど大丈夫?」
「それに、バイトでバーテンダーやってるらしいじゃん?タチ悪そう」
華麗にスルーしておいて、新たな情報をくれた。今の柊はバーテンダーなのか。
ふーん。バスケットボール弾ませた手で、お酒をシャカシャカ(注・勝手なイメージ)してるのね。
ふーん。……似合うじゃんか。
勝手に切り替わる柊脳に辟易しつつ、自分で自分の鼻をぎゅっと摘んだ。