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「水割りでいいかな?」
「ええ、それで」と、頷いて返す。
彼の書斎を兼ねた広い私室には、来客用の応接セットとコーナー仕様のバーカウンターがあり、カウンターの奥にはアルコールのボトルが並ぶ吊り棚と、簡易的な冷蔵庫が備え付けられていて、さながら洒落たミニバーのような雰囲気があった。
「たいして飲めはしないんだが、つい集めてしまってな」
棚に置かれた幾つものボトルは、あまりお酒には詳しくはない私でもよく知っているような、名の知れた銘柄のものばかりだった。
「濃さは、これぐらいでいいだろうか?」
作ってもらった水割りを、「ありがとうございます」と、受け取って、彼のグラスと軽く合わせた。
「君との同居に、乾杯をしようか」
「はい、乾杯を」
あのHASUMIのトップでもある彼と、こんな風に二人きりの夜を過ごすことになるなんて、初めて会った時には夢にも思わなかった──。
「いい夜だな」
黙って、こくりと頷く。窓の外から聴こえてくるのは、広い庭園に植えられた樹々が風にそよいで梢がさわさわと揺らぐ、涼やかな音だけだった……。