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声の主は、もちろん坪井だ。
彼はニコニコと明るい笑顔を浮かべ、フロア内を真っ直ぐに真衣香のもとへと進み、正面に立った。
これから休憩なのか手には缶コーヒーが見える。
「おっつかれ〜、立花。って、小野原さんここにいたんですか、珍しい」
チラリと隣に立つ小野原を見て、今気がついたかの様な、驚きの声をあげた。
「え!? そ、そうそう。森野さんが忙しいからね、代わりに来てたんだよ」
「あー、森野といえばさっきからずっと小野原さんのこと探してましたけど」
「森野さんが?」と、慌てた様子の小野原。
その視線は真衣香から坪井へと移った。
まさかの本人登場で、真衣香は小野原の追究から逃げることができたのだ。
しかし。
「じゃ、じゃあ立花さん備品の件よろしくね!」
バシ!っと、渡される寸前で貰えていなかった発注書を渡され、それに目をやる。
クリアファイル100枚。
リングファイル20冊。
どれも、つい先週営業部の女子社員が発注書を持ってきてくれていた。
小野原や坪井が在籍する営業一課の消費ペースを考えれば、今はどう考えても在庫は足りてるだろう。
(総務に、来ることが目的だったのかな、まあそうだよね普通に考えて)
目的とまでは言わないにしても、この発注書を真衣香に渡すことよりも……。
小野原の本題は坪井のことだったに違いない。
「立花。今日俺、残業ない予定だから一緒に帰らない?」
「……へ?」
予想していなかった言葉に、真衣香の口から気の抜けた声が出た。
小野原の登場がなかったのなら、もっと素直に舞い上がっていたかもしれない。
「って送ったけどさぁ、お前全然既読にならないんだもん。基本見ないの?仕事中」
「え……、あ!スマホ?ごめん、そういえば会社ではあんまり見ないかも」
真衣香が答えたなら、「見ないんだ!えらいな」と、大袈裟な反応を見せる。
それを言うならば、営業部の坪井の方がそんな暇はないのではないかと真衣香は思ったけれど。
それよりも今は気になることがある。
坪井が発した言葉たちは、この部屋を後にした小野原にも聞こえていたのだろう。
ドアの閉まる音がしなかったから。
坪井を通り越し出入り口を見ると、閉じかけたドアの隙間からやはり小野原と目が合った。
(わざわざ、付き合ってるのって聞いたりこうして立ち聞きしたり……こんなの)
どう考えても小野原は、坪井に少なからず好意を抱いているのではないか。
……と、確信に変わっていく思い。