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その日の夜。
寝室。
阿部は、目黒の腕の中で横になっていた。
部屋の明かりは落としてある。
眠るにはまだ少し早い。
なんとなく眠る気になれず。
今日の上映会のことを話していた。
阿部が小さく笑う。
「撮影、楽しかったね」
目黒も。
「うん」
と笑った。
「大変だったけど」
「めめ、結構大変そうだったもんね」
「俺?」
「魔法」
「ああ」
目黒は少し遠い目をする。
「俺、闇魔法以外」
少し間。
「調節難しいんだよね」
阿部が。
「そうなの?」
と顔を上げる。
「うん」
「氷とか」
「使えないわけじゃないけど」
「弱く出すのが難しい」
阿部は思い出す。
Thawの撮影。
目黒が放った氷。
村。
王城。
戦闘。
全部。
ちゃんと相手を傷つけないように。
かなり威力を落としていた。
「だから」
目黒は笑う。
「あべちゃんに当たらないようにするの、結構集中してた」
「俺、当たっても平気だったけどね」
「魔王だから?」
「うん」
「それでも嫌だよ」
「めめらしい」
阿部は少し笑った。
それから。
「でも俺も」
「何?」
「調節大変だった」
目黒が少し驚く。
「あべちゃんも?」
「うん」
「光魔法」
「本当は得意じゃないし」
阿部は自分の手を見る。
「闇ならもっと簡単だったんだけど」
「強すぎないように」
「周り壊さないように」
「人に当てないように」
「ずっと考えてた」
目黒が少し笑う。
「二人とも向いてなかったんだ」
「映画用の弱い魔法がね」
「本気なら?」
阿部が少し黙る。
その言葉で。
何かを思いついたように目黒を見る。
「……ねえ、めめ」
「何?」
「俺さ」
少し間。
「一回」
目黒の胸元へ置いていた手を。
少し動かす。
「調節しないで」
「思いっきり魔法使ってみたい」
目黒の眉が僅かに上がる。
阿部はだんだん楽しそうな顔になる。
「誰かに当てるとかじゃなくて」
「壊していい場所で」
「本当に全力」
「魔王の力も」
「賢者の力も」
「全部使ってみたい」
目黒が阿部を見る。
「結構強欲だね」
「めめに言われたくない」
二人で少し笑う。
阿部はそのまま続けた。
「あと」
「うん」
「めめと手合わせしたい」
今度は目黒が止まった。
「俺と?」
「うん」
阿部の目が少し輝いている。
「めめ、剣めちゃくちゃ強いじゃん」
「まあ」
「俺は魔法なら多分負けないし」
「うん」
「本気でやったら」
少し笑う。
「どっちが勝つんだろ」
目黒も想像した。
レベルをカンストした魔王であり。
賢者でもある阿部。
全属性を使える。
その中でも。
闇魔法は特に強い。
対する自分は。
闇落ち勇者。
剣ならかなり自信がある。
「……それ」
目黒が少し笑った。
「やってみたい」
「でしょ?」
「うん」
「絶対楽しいよね」
「でも」
目黒はすぐに現実的なことを言う。
「あの世界壊れちゃうね」
阿部が。
「……あ」
と止まる。
「確かに」
「あべちゃん本気で魔法使ったら」
「山一個くらいなくなるんじゃない?」
「そこまで?」
「魔王レベルカンストでしょ」
「めめだって闇落ち勇者レベルカンストじゃん」
「俺、剣だから」
「地面割れそう」
「割れるかも」
二人で顔を見合わせる。
「無理か」
阿部が少し残念そうに言う。
目黒も。
「やりたいけどね」
と笑った。
少し、静かな時間。
阿部は。
また目黒へ身体を寄せる。
「まあ」
「何?」
「いつかできたらいいね」
目黒が阿部を見る。
その言葉で。
ふと。
壁に貼ってある紙を思い出した。
『これから二人でやりたいこと』
目黒はベッドから起き上がった。
阿部が。
「どこ行くの?」
と聞く。
「書いとく」
「何を?」
目黒は壁の紙の前へ立つ。
近くに置いてあるペンを取った。
阿部もベッドの上から見ている。
目黒は空いている場所にゆっくり書いた。
『異世界で思いっきり手合わせしたい』
阿部が声を上げて笑った。
「本当に書いたの?」
「やりたいことでしょ?」
「まあ」
「書くのは自由だから」
目黒は前にも同じことを思った。
簡単に叶うもの。
時間がかかるもの。
現実では難しいもの。
全部書いておけばいい。
いつか叶うかもしれない。
目黒は紙を見て満足そうに頷く。
「これでよし」
ベッドへ戻る。
阿部がすぐに目黒へ寄る。
「めめ」
「何?」
「負けても怒らないでね」
「まだやるって決まってないのに?」
「もしできたら」
目黒は少し考える。
「負けないから大丈夫」
阿部が。
「言ったね?」
と笑う。
「うん」
「俺、本気出すよ」
「俺も」
二人はしばらく。
くだらない勝敗予想をしていた。
そのうち言葉が少なくなり。
阿部の目がゆっくり閉じていく。
目黒も阿部を抱きしめたまま。
目を閉じた。
次に目を開ける。
「……」
目の前。
テーブル。
ティーカップ。
そして。
今日は大量のアイス。
天使は大きなカップのアイスを食べている。
魔王も隣で。
別の味を食べながら紙へ何かを書いていた。
目黒はしばらく黙って見る。
阿部も隣にいる。
「あ」
天使が二人に気づいた。
「来た」
魔王も顔を上げる。
「あべちゃん」
「目黒くん」
阿部がテーブルを見る。
「何してんの?」
魔王は紙を見せた。
そこには。
大きく。
『修行用ゴーレム』
と書いてある。
その下に。
『壊れても直る』
『初心者用』
『佐久間くん』
『康二』
『逃げない』
『強すぎない』
いろいろ書き込まれている。
阿部が。
「……ゴーレム?」
と聞く。
天使がアイスを食べながら頷く。
「佐久間くんと康二くんの修行用」
魔王も。
「今、魔物いないから」
「レベル上げできないでしょ?」
阿部が。
「ああ」
と納得する。
「だから作るんだ」
「うん」
魔王は楽しそうに紙へ書き足す。
『何回でも復活』
目黒が。
「それいいね」
と覗き込む。
「二人レベル1だもんね」
阿部も。
「最初は弱い方がいいよ」
「佐久間は絶対派手なのやりたがるし」
「康二も」
魔王が。
「分かってるよ」
と笑う。
「最初は小さいゴーレム」
「慣れたら」
少し間。
「大きくする」
阿部が。
「どれくらい?」
魔王は両手を大きく広げる。
「これくらい」
「雑」
目黒が笑う。
その横。
天使は、さっきから二人を見ていた。
妙に楽しそうな顔。
目黒が気づく。
「何?」
天使は、アイスのスプーンを口から抜く。
「別に」
「絶対なんかあるじゃん」
「ないよ」
阿部も天使を見る。
「その顔の時、絶対ある」
天使は少しだけ笑った。
それから。
何気ない声で。
「ねえ」
「何?」
目黒が答える。
天使は二人を交互に見る。
「強欲目黒くんと」
目黒の眉が動く。
「あべちゃん」
阿部も。
「何その呼び方」
と笑う。
天使は気にせず続ける。
「手合わせできる結界魔法」
少し間。
「教えてほしい?」
二人が同時に止まった。
「……え?」
阿部が聞き返す。
目黒も天使を見る。
天使はアイスを一口食べる。
「だから」
「全力で魔法使っても」
「剣振っても」
「周り壊れない結界」
阿部の目が明らかに変わる。
「あるの?」
「あるよ」
「何で今まで言わなかったの?」
「聞かれなかったから」
「そういう問題?」
目黒も少し身を乗り出す。
「それ」
「本当にあの世界でも使える?」
「使える」
「山壊れない?」
「壊れない」
「町は?」
「大丈夫」
「地面は?」
「結界の中なら、壊れても戻る」
阿部が目黒を見る。
目黒も阿部を見る。
さっき。
現実で。
無理か、と諦めたばかり。
壁の紙に書いたばかり。
『異世界で思いっきり手合わせしたい』
阿部がゆっくり天使へ戻る。
「……教えて」
目黒もすぐに。
「俺も」
天使がにこっと笑った。
「やっぱり」
魔王もアイスを食べながら。
楽しそうに二人を見る。
「強欲」
目黒が。
「これは強欲じゃないでしょ」
と返す。
阿部は。
もう完全に手合わせする気だった。
「めめ」
「何?」
「これ」
少し笑う。
「叶うじゃん」
目黒も同じように笑う。
「うん」
天使はそんな二人を見ながら。
さらに一言。
「ちなみに」
二人が見る。
「その結界」
少し間。
「佐久間くんと康二の修行にも使えるよ」
魔王の顔がぱっと明るくなる。
「それいい!」
阿部が嫌な予感のする顔になる。
「……俺たちの手合わせと」
「二人の修行」
「同じ場所でやる気?」
魔王は嬉しそうに頷いた。
「効率いいよ」
目黒が少し考える。
「佐久間くんたち、大丈夫かな」
天使が笑う。
「結界あるから」
阿部が。
「そういう意味じゃない」
と呟く。
レベル1の魔法使い二人。
その隣で。
魔王レベルカンスト。
賢者レベルカンスト。
闇落ち勇者レベルカンスト。
全力の手合わせ。
阿部は少し想像した。
そして。
「……絶対見せない方がいい気がする」
目黒が。
「俺も思う」
と頷いた。
魔王だけが楽しそうに。
「見せようよ」
と言った。
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みら

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コメント
1件
みらさん、お邪魔します〜!美月ゆめかです🌸 第2話も尊すぎて鼻血出るかと思ったよ😭💕 阿部くんと目黒くんが「本気の手合わせしたいな…でも世界壊れるな…」って諦めてたのに、天使ちゃんがサラッと「結界魔法あるよ?」って教えてくれる流れ、めっちゃエモかった〜! しかも修行中の佐久間くん&康二くん視聴者になる未来が見えて面白い🤣「強欲目黒くん」って呼ばれてるのもツボ。 「叶うじゃん」って阿部くんが嬉しそうに言うシーン、こっちまでにやけちゃったよ…次の展開が待ち遠しすぎる⋆♡