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おばあちゃんちに帰れば、ちょうど犬の散歩に出かけようとするおじいちゃんとすれ違った。わんわんっ!と吠えるココを撫でると、あることに気づいた。靴がひとつ多い。見覚えのある革靴がひとつ。嫌な予感を覚えながら居間に入ると、想像通りの人物がいた。
みく「お、お父さん…?なんで…」
父「美紅、おかえり」
ソファに座ったまま、いつものような優しい笑顔で言うお父さんに、今日は正直にただいまという気持ちが湧かなかった。どうしてここにいるんだろう。
みく「た、ただいま。おばあちゃんは?」
父「買い物行ったんじゃないかな」
みく「そっか。」
ココの散歩に行ったおじいちゃん、買い物に行ったおばあちゃん、仕事中のお母さん。2人きりじゃん気まず…。
とりあえず気まずいので、ダイニングに移動して課題を開く。お父さんも私と話すことはなく、居間でテレビを見ていた。
――
婆「ただいまぁ」
無心になって課題を解き続けていた頃、玄関からおばあちゃんの声が聞こえた。居間を通らないようにしながら玄関に向かうと、大量の買い物袋を抱えたおばあちゃんが靴を脱いでいた。
みく「おかえり、手伝うよ」
婆「あぁ、ありがとう」
私の方を見て微笑んだおばあちゃんは、改めて足元を見て少し顔をゆがませる。ひとつ、ため息をついたあともう一度私の方を向いた。
婆「お父さん、来てるわね」
みく「あ〜、私が帰ってきた頃にはもう居たんだよね。おじいちゃんが入れたってことだと思うけど」
婆「そうね…何しに…?これ、任してもいい?ちょっと話してくるから」
みく「え、うん…」
よいしょ、と声を出しながら家にあがり、居間への扉を開くおばあちゃんを見送って、玄関に置いていかれた大量の買い物袋を持ち上げる。
みく「う”…おっも゙ぉ。よく持ってきたなこんなの……」
居間からはおばあちゃんの苦しそうな声が聞こえる。すりガラスには、立ちすくむおばあちゃんと思しき人と、その前でうずくまるお父さんと思しき人が映っていた。
何を話しているかは何となくしか分からないけど、お母さんはもうすぐ帰ってくるだろうから、それまでに帰ってくれるといいな……。
みく「ん、しょ…っと。はぁ……」
おばあちゃんは、お母さんの味方。お母さんは、私の味方でいてくれるのかな。でも、今お母さんは自分のことでいっぱいいっぱいだろうし、私のわがままを聞いている余裕なんてないだろう。はてなは味方でいてくれる、と言った。相談ははてなにしたし、自分で何ができるか、考えた方がいいなぁ……。
お父さんは、帰ってきたおじいちゃんとおばあちゃんによって追い返されたらしく、お母さんが帰ってきた時には居なくなっていた。追い返されたのを見るに、もう3人で暮らすことはないんだろうな。
布団に入り、『居場所』とはなんなのか考えてみる。この家は私の『居場所』なのか、はてなのそばは私の『居場所』なのか。家庭のことはもう、私が考えたってどうしようもない問題だろうし、今は自分のことだけを考える。朝、自分の存在価値について不安になっていたことを思い出すと、もう何がなんなのか分からなくなってくる。味方でいてくれると言ったはてなと藍ちゃんのことは信じたい。というか信じる以外の選択肢がない。瀬戸くんの噂については正直私から真相を知ることはできないし、勘違いだと思いたい。違ったらまだこの悪夢が続く気がしてならないから、勘違いであって欲しい。仮病云々の話、どうやったら否定できるんだろう。もう諦めるって選択肢もあるかもしれないけれど、あいにく私にそんなメンタルは無い。ずっとありもしないことを言われ続けるのはさすがに壊れてしまう。吉野先生がどうにかしてくれるかもしれないし、何もしてくれないかもしれない。それは私には分からない。
ぐるぐると色んなことを考えていたからか、眠りにつくのがかなり遅くなった。
朝、起きた瞬間からどう考えても体調が悪かった。頭は痛くて、視界もぼやけている。でも熱はない。休んでまた噂が変な方向に行っても嫌だし、お母さんやおばあちゃんに迷惑がかかる。昨日お父さん押しかけ事件があったし、今不安定なのはお母さんもだ。おばあちゃんちから学校迄は遠くないので歩いて学校に向かう。朝日を浴びたことによって少し気分が楽になった。寝不足気味だったのかな。
みく「おはよう……」
らん「おはよ〜みくちゃーん!」
藍ちゃんの高い声が頭に響く。席に着くと、もう一度立つ気力が出てこなくなった。もしかしたら相当体調が悪いのかもしれない。
せと「はよ。」
みく「おはよう瀬戸くん」
妙に体調不良に敏感な瀬戸くんにできる限り悟られないよう、笑顔で挨拶をする。瀬戸くんはピタッと動きを止めると、はぁぁ〜〜と大きなため息をついて机に突っ伏した。もしかして、強がってるのバレた……?
みく「えーっと……」
せと「うん、うん、待って、落ち着かせてお願い」
みく「?」
よくわかんないけど、とりあえずバレてなさそう?ならいっか。