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新学年が始まって、少し経った四月のある朝。
春の柔らかな日差しが、寮のカーテン越しに差し込んでいる。
2年生になっても部屋割りは変わらず、太智と仁人は同じ部屋で過ごしていた。
「……だいちゃん、起きて。もう朝だよ」
「んー……あと5分だけ……」
「それ、昨日も言ってた」
仁人は呆れつつも、太智の寝ぐせをそっと撫でながら笑う。
こうして声をかけるのも、もう自然になっていた。
春休みの間も、ふたりはよく連絡を取り合っていた。
離れていた時間さえも、関係が深まるきっかけになったように思えた。
「なぁ、じんちゃん」
「うん?」
「2年生になって、なんか変わったと思う?」
仁人は少し考えてから答える。
「……去年より、“好き”が増えた気がする」
太智は一瞬きょとんとして、それから照れくさそうに笑った。
「なんやそれ、反則やん……」
「ほんとのことだから」
太智は身体を起こし、ベッドの端に腰掛ける仁人の隣に座る。
彼の肩に頭を預けるようにして、少しだけ目を閉じた。
「……俺も、もっと好きになってる」
2年生になったふたりには、去年とは違う「余裕」と「実感」があった。
たとえば文化祭での出来事は、今も校内で語り草になっている。
「今年の文化祭、実行委員どうする?」
「また一緒にやろうか?」
「……うん」
それだけで、自然に「ふたりで進んでいく未来」が想像できるようになっていた。
制服の襟を整えながら、仁人がぽつりと呟く。
「2年生も、いろいろあると思うけど……だいちゃんと一緒なら、大丈夫って思えるよ」
太智は笑って、仁人の手を取る。
「俺もそう思ってる」
春の光の中、ふたりは静かに笑い合った。
どこまでも続くような時間に身を委ねながら──また、新しい一年が始まった。