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世間じゃ俺のことを、闇の発明家と呼ぶ者もいれば、復讐に駆られた狂乱者と呼ぶ者もいれば、ただの薄ら禿げたジジイだと呼ぶ者もいる。 人間ってのは生きていたら、相手方の見方で、どんな風にもなりやがるモンで、発明家の俺なんてのは、戦争の道具を作るだの、時代の進歩の先駆者だの、その時その時で世間様の見方はコロコロと変わる。
でも、ンなことはどうでもいい。
俺は、目の前にある錆びた工具をぶん回す。
それしかやってこなかったからだ。
しかし、そんな俺でも、通す意地ってのはある。
使われた後の動画の見られ方まで関与してたらキリがねぇが、使う相手は選ぶことができるって話だ。
だから俺は問う、お前は”正義か?”ってな。
――
こんな老いぼれたジジイにも、まだお得意様っつー相手がいた。
政府の役人で、古き良きを重んじる奴だった。
「また来たのかい、兄ちゃん。こんな古ぼけた老人の発明なんざ、役人には要らねぇだろ」
「そんなことはないですよ、忠作さん。貴方の発明で救われる命は、まだまだあるのです」
ソイツは、いつもそう言って俺を訪ねる。
だから俺も、いつもの言葉を尋ねる。
「ソイツが、アンタの”正義”なんだな?」
「当然です。UT技術が発展した今だからこそ、そこには触れられない貴方の技術が必要なんです」
そうして役人は、二つの品を購入して行った。
――
ピンポーン。
「宅配でーす」
「んあ? ババアじゃなくて俺宛て……? 差出人……不明……。なんだ……? 珍しいな……」
ある日、俺宛てへの宅配が届く。
ないこともないが、俺宛ての宅配物は滅多にない。
だが、思い当たることも最近では多い。
何故なら、ニューヒーローと噂され、遂には表彰すらされたのだから、俺宛てに荷物が来てもおかしくはない。
俺は、以前なら抱いていたであろう疑念も不安もなく、真四角に梱包された段ボールをウキウキに開く。
「おおっ!!」
中からは、鉢植えと綺麗な花が包まれていた。
「やっぱり誰かからの贈り物だ! いつもありがとう的なプレゼントだろコレ!!」
俺はその鉢植えを、ニコニコと窓際に飾った。
翌日。
「ん……? 気のせいだよな……? 気のせいだと思う。いや、植物ってこんなもんだよな。俺があまり植物とかを気にしなかっただけだよな……?」
鉢植えの花は、少し人の顔になっている気がした。
いや、光合成をしたか、もしくは枯れ行く過程で、たまたまこんな感じになってるだけで、考え過ぎだ。つまり、天井のシミとかが人の顔に見えるアレと同じだ。
翌日から三日間、俺たちは山田さんからの再びの依頼で連勤を強いられたが、ご飯、温泉付きで珍しく報酬もサクサクと、三人笑顔で帰宅した。
「げげーっ!! な、なんですか、コレ!?」
学が俺の部屋に入ると、突如大きな声を上げる。
「なんだよ、別にババア厳しいから、エッチ系の雑誌とかは俺の部屋にはないけ……」
小言を言いながら俺も部屋に入ると、そこには、
「は、花が人の顔になってる……!?」
「えぇ!? これ、花だったんですか!?」
最早、鉢植えに入っていた花とは思えない程、人体も形成され、今にも動き出しそうな人の形に成していた。
「な、なんだコレ……。変な物を送られたってことか……?」
「お、贈り物だったんですか……? 直ぐに捨てる……と言っても……既に人型ですし……。いや、ギリギリ人形に見えなくもないですかね……?」
そこに、ルリが慌てて飛び入ってくる。
「二人とも離れろ!! ソイツから”魔の気”を感じるぞ……!!」
ルリが言う”魔の気”とは、異世界の魔力。
それが意味することは……”侵略者”。
「なら……すぐに始末しねぇと……!」
しかし、俺が刀を抜く前に、学は青褪めた顔で、俺のことを止めた。
「待ってください……。コイツ……侵略者と言っても、”人の形”なんですよ……?」
その言葉に、嫌でも思い出す。
「もしかして……侵略者と融合させられた人間……!? だ、だとしたら、殺しちまったら人殺しか……!?」
「先日の侵略者も、侵略者の核を破壊できた場合、人命の方は無事でした……。もし、何も考えずにこの人ごと殺してしまったら……恐らく……」
先日にも増して、じわじわと人型になっていくソレを、ただ眺めることしか出来ず、ジワジワと額に汗が垂れる。
「可能性は薄いけど……」
緊迫した空気の中で、ルリは一言漏らす。
その声に、俺と学は静かに振り向く。
「私とクロの力を合わせれば……発明者の居場所を特定できるかも知れない……」
「……!? 逆探知……みたいなことか……?」
「そう……。この人……改造されてからまだ浅い……。だから私たちを前にしても、何もしてこない……。クロ……龍族の特性は覚えてる……?」
「魔力を吸い取る……ってことか……?」
「龍族のことはあまり知らないけど、吸い取ることができるなら、与えることもできるはず。コイツの魔力を吸い取って私に与えてくれれば、母体となった侵略者の場所を探せるかも知れない……!」
「そうか! そんで開発者のところに連れて行けば、問題解決って訳だな! なんなら前回の事件の件もあるし、UT刑務局にとっ捕まえてもらおうぜ!」
一気に話は固まり、俺たちはクロを呼び出す。
クロは二つ返事で『魔力の吸い取り』と、『その吸い取った魔力を与える』ことを承諾した。
そして、謎の侵略者の魔力がルリに与えられる。
ルリは普段、詠唱も短く魔法を唱えられるのだが、地面に何やら陣を描き、今までとやっていたこととは規模が違うことを、肌で感じてわかった。
「それじゃあ……始めるわ……」
ガガッ!!
陣の中に手を入れ、ルリが魔力を注ぎ始めると、大きな音を立てて陣の中が光り出す。
暫くして、ルリは息を吐きながら光は消えた。
どうやら、逆探知の魔法は終了したらしい。
「ど……どうだ……?」
「無理ね……。やっぱり遠いみたい……」
そう言うと、ルリは悔しい顔を浮かべさせた。
「遠くの奴か……。ちなみに、その逆探知の魔法? ってのは、どれくらいの範囲を探せるんだ?」
「1kmよ」
「は……? 1km……?」
「そう、半径1kmに同じ魔力があれば、共鳴してどこか分かるって仕組みなの。子供探しや迷い犬探しには重宝したんだけどな……」
「ちょっと待て……。1kmって、このトップ・トーキョーのこの街すら出ねえよ。お前バカだろ。そんなんで逆探知とかできる訳ねぇだろ! やる前に気付けよ!!」
「だから最初に、可能性は薄いって言ったじゃん!! 別に、他にも方法はあるし!!」
「他の方法……?」
「これならまず、間違いなく探し出せるけど、後戻りができなくなる。それでも、やる?」
「待ってくれ。具体的に、どういう魔法なのか、距離とかの詳細を教えてくれ」
「この魔法は、”転移魔法”よ。この魔力を持つ者のところへ強制的にワープする。距離の指定は無し」
「距離の指定は無し……。つまり、行ったら後戻りはできない……ってことだな……」
ゴクリと三人、顔を見合わせ、頷く。
「行こう。行かなきゃなんも始まらねぇ」
そうして三人と、「久々に同行してやる」とニマニマしているクロとで、陣の中に入る。
「黒と出るか白と出るか……」
「それじゃあ、行くわ……!」
目の前が眩しくなり、突如として光景が変わる。
他の全員と散り散りになった、と言うことはなく、普段の顔触れが目の前に広がるが、付近の景色だけが違う。
「成功した……みたいね……」
「でも黒なのか白なのか怪しいですよ……」
俺たちがワープした先は……光の差さない地下だった。