その後、全員がボロボロであること、異邦人である私が現れたことからいったん神殿に退却することになった。この世界では神殿が冒険者の宿兼ギルドでもあるようで、私たちは神殿に泊まることになった。今はフランツとともに部屋にいる。
「本当に、タカヒロさんには感謝をしてもしきれません」
部屋に入ると、フランツは改めて私に深々と頭を下げる。そこまでかしこまられると逆に困ってしまう。ちなみに帰り道で簡単な自己紹介は済ませ、自分の名前や一般人だったことなどは話している。
「気にしないで。こちらの世界に飛ばされた先がたまたま君達の近くだっただけだから」
「でも、僕を……僕達を見捨てて逃げることもできたはずです」
フランツは表情を曇らせてそう呟く。実際、パーティーを組んだアコライトに逃げられたわけだから彼の言葉には説得力がある。だが……。
「私は少年が頑張っているのが好きだから、君たちのような子たちを見捨てたりできないよ」
私はそう言いながら頭を下げるフランツの髪を撫でてやる。フランツは顔を赤らめながら私を見つめる。
「あの、僕は15なので一応この世界では成人なのですが……」
「え? あ、ごめん」
「いえ。僕、背が低くてよく間違われるので……」
フランツの成人発言に驚いた私は思わず謝った。多分160cmもないくらいなので、まだ子どもだと思っていたのだ。まあ、現代日本人の私からすると、これだけかわいい15歳は十分ショタなのだが。
「ちなみに他の子たちも実は成人していたりするのかな?」
「成人の概念も曖昧なのですが……。僕よりレイのほうが長身ですが、年齢的には一番年下で、リカードは僕達の間ですね」
良かった、そこはちゃんとショタなのか。しかし、小学生感のあるリカードよりも大人びているレイのほうが年下とは。日本でも小6で170cmなんて子もいるから、身長だけで判断はできないけれど。年齢的には1~2歳違いでフランツ、リカード、レイの順になるらしいが、身長的にはレイ、フランツ、リカードの順であった。レイはいわゆるエルフなので、落ち着いた性格はその影響もあるらしい。
「なんだか、すごく驚かれているようですね」
「うん。全員未成年だと思っていたし、レイが一番年下というのも意外だった。それならフランツのことは子ども扱いしたらダメだね」
「いえ、気にしないでください。僕、早くに親を亡くしたのでタカヒロさんのような父上がいてくれたら嬉しいです」
私の言葉にすごく爽やかな笑顔で返してくれるフランツ。息子はともかく、こんな美少年が家族だったら私も嬉しい。いや、それはそれで尊すぎて平穏に生活ができないような気もするが。
「フランツに頼られるような大人にならないといけないね。父上はどんな方だったの?」
「幼いながらに父のような騎士になりたいと憧れていました。剣の腕はもちろん、仲間を守るということが非常に得意で『お前の父には何度も命を救われた、私達を守る盾だよ』と父の仲間の皆さんからも聞かされていました」
フランツは少年らしいキラキラとした瞳で、父が如何に優れた騎士だったのかを説明してくれた。内容は非常に大人びたものではあったものの、自分のことのように得意げに話す姿は幼い子どものようであった。
「そうなんだね。私は『仲間を守る盾』にはなれないだろうけれど、仲間を守るということに関しては父上に負けないくらい得意になれるよう、これからも精進するよ」
「はい。僕は父のように『仲間を守る盾』になりたいと考えています。タカヒロさんは、そんな僕を癒す人でいてください」
少し恥ずかしそうにそう伝えてくるフランツ。ウォーリアが仲間を守り、アコライトがそんなウォーリアの傷を癒す。パーティーの役割としてもそうなのだが、フランツの言葉からはそれ以上のものを感じる。
「君はパーティーのリーダーだけど、身体の傷に限らず、心が疲れたときも私に頼ってね。心身ともに君を癒す存在になりたいから」
「……ありがとうございます」
私の言葉に、フランツは言葉を詰まらせながら、ただ感謝の言葉を口にするのだった。