テラーノベル
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ヴァルム要塞を発ったのは、報せを受け取ってすぐのことだった。
はやる気持ちを抑えながら馬を飛ばす。
乾いた風を裂くように進みながら、ランディリックは一度も速度を緩めなかった。
――時間がない。
まだ表に出ていない〝変化〟が、確実な形を取り始める前に――。
それが、どこへ向かうのか。
誰に向かうのか。
ランディリックには分かっていた。
西日に照らされた城は、何も変わらない様子で静かに佇んでいた。遠くからでも薄らと見える灯りが、城内の者たちの営みまでもひしひしと伝えてくるようだった。
ランディリックには遠く離れたここからでも、 どの辺りに何があり、そこで誰が何をしているのか――手に取るように分かる。
ヴァン・エルダール城の城主になって十年余り。そこで暮らすのは雪に閉ざされた冬の間だけだが、ランディリックが城の細部まで身の内に刻むには十分すぎる年月だった。
馬が首を振り、ぶるりと全身を震わせた。
ランディリックは馬上に跨ったまま、馬の首筋を軽く撫でた。
「もう少し頑張ってくれ」
峰の上から小さく見下ろせる城は、実際にはまだ遠い。
ここから森を抜け、城へと続くまでの道のりは、当然のことながら直線ではない。
曲がりくねり、湖や家々、牧場などを迂回するたび、気持ちばかりが急いた。
(……空を駆けられれば、あの峰からひとっ飛びで城へ辿り着けるものを)
考えても仕方のないことを思いながらも、ランディリックは馬を走らせ続けた。
そうして……結局城門前へたどり着いた頃には日がとっぷりと沈み、城はほとんどの明かりを落として薄暗くなっていた。
それでも見張りの者はいる。
ランディリックがたどり着くのを見計らったように、閉ざされていた門扉が開かれた。
門をくぐると同時に、手綱を引く。
減速する間も惜しいとばかりに馬を降り、ランディリックはそのまま手綱を従者へ引き渡した。
「半日走りづめだ。しっかり休ませてやってくれ」
「かしこまりました」
言いながら、踵を返せば、いつの間に出てきたのだろう?
玄関先に執事のセドリックが控えていた。
「お帰りなさいま――」
寝巻の上にガウンを羽織った状態でわざわざ外まで出迎えに出てきてくれたセドリックの言葉を遮ると、
「リリーは?」
と、いきなり用件を切り込む。
ランディリックがリリアンナの名を出した途端、ポーカーフェイスが得意なはずの、老執事の眉根がピクリと動いたのが分かった。
「……お嬢様でしたら、そろそろお部屋でお休みの支度に入られている頃かと――」
「そうか。ならばまだ寝てはいないということだな?」
「……はい。……ですが……」
「止めるな。このままリリーの部屋へ行く」
短く言い切る。
有無を言わせない声だった。
言いながらも足を止めることなく、城内へ踏み込む。上着を脱いでセドリックに渡すと同時、「ついてこなくていい」と彼に足を止めさせた。
磨き上げられた床。
見慣れた廊下。
従者のほとんどは部屋へ戻り、明日に備えて就寝の準備を整えている時間帯だ。もう眠っている者たちも少なからずいるだろう。
もう何年もここで生活してきて、見知っているはずの光景が、どこか遠く感じられた。
(……後手にまわるわけにはいかない)
アレクトからリリアンナに何か動きがある前に、何としても先手を打っておかねばならない。
でなければ、あの男は策士だ。どんな方法でリリアンナを絡め取ってしまうか分からない。
#独占欲
#ワンナイトラブ
コメント
1件
わー、なんかランディリック急いでるね!?