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感情を持たない花嫁

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感情を持たない花嫁

12 - 温泉

♥

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2025年12月24日

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温泉旅館に着いたのは、夕方だった。

木の匂いがする廊下、柔らかい照明、外から聞こえる川の音。


「部屋、ええ感じやな」


まろがそう言いながら障子を開ける。

その横で、ないこは小さく頷くだけだった。


温泉旅行。

ただそれだけの言葉なのに、胸の奥が落ち着かない。


(……温泉、か)


着替えの浴衣を手に取る指が、少しだけ震える。

一緒に来たのに、何を意識しているのか、自分でもわからない。


「先、俺入ってくるけど……無理せんでええからな」


そう言われて、ほっとしたような、

少しだけ残念なような気持ちになる。


「……うん」


まろが部屋を出ていくと、静けさが戻る。

深呼吸をしてから、ゆっくり浴衣に袖を通した。


鏡に映る自分は、いつもと変わらないはずなのに、 どこか落ち着かない顔をしている。


(……なんで、こんな)


しばらくして、まろが戻ってくる。

髪が少し濡れていて、湯気の名残みたいな温かさをまとっていた。


「次、ないこ行く?」


その一言で、心臓が跳ねた。


「……行く」


短く答えて、立ち上がる。

すれ違いざま、ほんの少しだけ距離が近くなる。


触れていないのに、

触れたみたいに、胸がうるさくなる。


温泉から戻ったあと、

二人は並んで座り、湯上がりの水を飲んでいた。


「のぼせてない?」


「……大丈夫」


そう言いながらも、ないこの耳は少し赤い。


「顔、赤いで」


からかうような声に、ないこは視線を逸らす。


「…暑いだけ」


その答えに、何も言わず、ただ笑った。


「…まろ、少し…膝を貸して欲しいですっ..」


「….ええよ」


まろはそう言って、少しだけ体の向きを変えた。

大げさな動きはしない。ただ、自然に。


ないこは一瞬迷ってから、そっと身を寄せる。

膝に額が触れた瞬間、ふわりと安心したように力が抜けた。


「……ごめん」


小さな声。

謝る必要なんてないのに、癖みたいに口をついて出た言葉。


「謝らんでええって」


膝の上に乗せられたないこの体は、ほんのり熱を帯びている。

その温度に、まろは気づいていたけれど、何も言わなかった。


「あったかい」


ないこが、ぽつりと呟く。


「せやろ」


それだけ返して、まろは動かない。

撫でることもしない。

離れることもしない。


その「何もしなさ」が、

ないこにはひどく優しく感じられた。


しばらくすると、ないこの呼吸がゆっくりになる。


「……まろ」


「ん?」


「…ちょっとだけ、くらくらする」


「そっか」


まろはようやく、そっとないこの肩に手を添えた。

支えるだけ。抱き寄せるほど強くはない。


「倒れそうになったら、ちゃんと捕まえるから」


その言葉に、ないこは小さく頷く。


「ありがとう」


その一言は、

いつもより少しだけ、素直だった。


顔を上げると、目が合いそうになって、

ないこは慌てて視線を逸らす。


「やっぱり、赤い?」


「……うん。赤い」


からかうでもなく、

ただ事実を言うみたいに、まろは答えた。


「でもな」


一拍置いて、続ける。


「嫌な赤さちゃう」


ないこは返事ができず、

そのまま、また額を膝に預けた。


胸の奥が、静かにうるさい。

でも、怖くはない。


のぼせたせいか、

それとも感情のせいか。


どちらかは、まだわからないままだ

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