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その後、アーロンとレイが二台の馬車でやって来て、一台にはサシャ、もう一台にはルシンダが乗せられて帰ることとなった。
ちなみにエリアスは、ミアに追跡用の魔道具を借り、一人馬に乗って先に駆けつけてくれたようだった。
ルシンダが乗った馬車が停まり、アーロンに手を取られて下車すると、そこはランカスターの屋敷ではなく王宮だった。
「ルシンダ、申し訳ありませんが、色々と事が落ち着くまでは王宮で過ごしてもらえますか?」
王宮の中へとエスコートしながら、アーロンが言う。
事が落ち着くまでとは、一体どういうことだろうか。
クリスも不穏なことを言っていたし、ルシンダの知らないところで何かが行われようとしているのかもしれない。
(誘拐されずに無事戻ってこられたから良し、ってことにはならないかな……?)
そう思ってしまうけれど、国同士の問題になりかねない話だから、そう軽くは終わらせられないのだろう。
「……分かりました。ご面倒をお掛けしますが、よろしくお願いします」
「面倒だなんてことありません。……ルシンダも今日は疲れたでしょう? 侍女が部屋に案内しますから、ゆっくり休んでください」
アーロンが合図を出すと、数人の侍女がやって来て、おそらくルシンダのために用意された部屋へと案内する。
サシャに使われた毒の効果は光魔術で消したから体調に問題はないが、今日は朝から緊張しっぱなしで、たしかに疲れてしまった。ゆっくりとお風呂につかって癒されたい気分だ。
色々と状況が分からないのはもどかしいが、確認は後回しにして、とにかく今は体を休めよう。
そう思いながら、ルシンダは侍女の後をついていった。
◇◇◇
翌日。ルシンダはふわふわの枕とさらさらのシーツ、羽のように軽いのにしっかりと温かい極上の寝具に包まれて目を覚ました。
「ふわぁ、よく寝た……」
いつもと違う場所だから、よく眠れないかもしれないと思ったけれど、最高級のベッドの場合はそんな心配などいらなかったようだ。
それよりも、今は何時なのだろう。今日は休日だが、早く支度をしてアーロンに話を聞きにいかなければ。
ルシンダはサイドテーブルの置き時計を見てみると、短針が予想外の位置にあるのに驚いて目をこすった。
「うそっ、もうこんな時間!?」
この時計が壊れていないのなら、もう昼を過ぎている。
ルシンダは豪華な天蓋付きのベッドから慌てて飛び出した。
(意外と疲れが溜まってたのかも……。あと、ベッドが気持ち良すぎて……)
頭の中で言い訳をしながら、とりあえずカーテンを開け、着替えを探してバタバタしていると、コンコンとノックの音が聞こえてきた。
「はい……」
「ルシンダ様、お目覚めでいらっしゃいますか? 身支度のお手伝いをさせていただきます。中に入ってもよろしいですか?」
どうやら侍女がルシンダの目覚めを待っていたようだ。
ランカスター家では毎朝の身支度は自分でしていたが、今は着替えの在処もわからないし、侍女に任せるのがよさそうだ。
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
ルシンダが返事をすると、昨日の侍女たちがやって来て、てきぱきと身支度を整えてくれた。
なぜかサイズがぴったりな真新しいドレスに着替え、髪を愛らしく結ってもらったところで、またノックの音が聞こえた。
「ルシンダ様、お食事をお持ちしました」
そういえば、昨日の昼食から何も食べていない。そのことに気がつくと、急にお腹が空いてきた。
ルシンダが入室の許可を出すと、また別の侍女がワゴンを押して入ってきた。
「こちらのテーブルにお出ししますね」
「はい、お願いします」
侍女が次々に料理を並べていく。
(わぁ、すごく美味しそう……!)
さすが王宮で作られた料理だけあって、見た目だけで絶対に美味しいと分かる。特にあのぷるぷると揺れるポーチドエッグに心が惹かれる。
配膳の様子をじっと眺めていたルシンダだったが、何かがおかしいことに気がついた。
(あれ、なんかお皿の数が多すぎでは……? というか同じ料理の皿が二つずつ……??)
まさか、ルシンダがお代わりするのを見越して二皿ずつ用意してくれているのだろうか。ありがたいけれど、いくら丸一日食べていないとはいえ、こんなに食べきれない。
「あの、そんなにたくさんは食べられな……」
遠慮がちに申し出たところで、本日三度目のノックの音が鳴った。
「ルシンダ、入ってもいいですか?」
訪ねてきたのはアーロンだった。
「アーロン? もちろんです、どうぞいらしてください」
ちょうど挨拶をしたいと思っていたのだ。向こうから来てもらってしまったのは申し訳ないが、ありがたい。
「アーロン、改めて昨日はありがとうございました。今朝も侍女さんたちにお世話になってしまって……」
「いえいえ、ゆっくり休めたようで何よりです。そのドレスもよく似合っています。ルシンダをイメージして作らせた甲斐がありました」
「え……私をイメージ……?」
ドレスのサイズがやけにぴったりだと思ったが、まさか本当に自分に合わせて作られたものだったとは。
なぜそんなことを……と不思議に思っていると、アーロンが優雅にルシンダの手を取って、料理の並べられたテーブルへとエスコートしてくれた。
「さあ、食事にしましょう。せっかくなので、ルシンダと一緒にと思って、私の分も用意してもらいました」
「あ、そういうことでしたか……」
どうやら自分が大食らいだと思われていた訳ではないようで、ルシンダは安心した。
そろってテーブルにつき、食事を始める。パンもスープも、何もかもが美味しい。さっきから気になっていたポーチドエッグも頂くと、卵の半熟加減が絶妙で思わず顔が綻んだ。
「すごく美味しいです……!」
そんなルシンダを見て、アーロンも幸せそうな笑顔を浮かべる。
「それはよかったです。私も、ルシンダと二人きりの食事だと思うと、何を食べても最高の味に感じます。あ、食べてみて気に入ったものがあれば言ってくださいね。追加で持ってこさせますから」
相変わらず気配り上手なアーロン。けれど、今日は心無しかいつもよりさらに気遣われているように感じる。
「あの……もしかして、何かあったのですか?」
「……何かとは?」
「えっと、なんとなくですけど……私のことで何かよくないことでもあったのかなって」
ルシンダからの指摘にアーロンが苦笑する。
「ルシンダはたまに鋭いですよね……。たしかにルシンダのことで何かあったのは事実です。でも、よくないことではないと思いますよ」
「どんなことですか?」
「ええと、後で説明しようと思っていたのですが……」
「アーロン、今知りたいです」
いつもだったら、こんなに積極的に尋ねることはしなかったはずだ。けれど、なぜか今は気になって仕方がなかった。
アーロンが諦めたように溜め息を吐いて、「何か」が何なのかを教えてくれる。
その話を聞いた瞬間、ルシンダは驚きのあまり持っていたフォークを取り落とした。