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しばらくして、シーニャの調子が戻った。おれたちは道しるべを信じて一本道を下り始める。
「ふわ~! すごい高い所に上がったのに、結局下りていくんですね~」
「間欠泉に気付かなければ来られない場所のようだな。あるいは近付かせないためか」
「熱いのはイヤなのだ……」
「シーニャ、大丈夫ですか~?」
「……ドワーフだけがお気楽なのだ」
少し身体を冷ましたシーニャだが、間欠泉の村ということは温泉があるはず。そうなるとシーニャにとってはあまり嬉しい場所では無いか。ルティに文句を言われそうだが、しばらくシーニャをおんぶしながら進むことにした。
「フニャ~……気持ちいいのだ」
「しばらくの辛抱だ」
「ムニャ……」
おんぶしてすぐにシーニャは眠ってしまった。これにはさすがのルティも怒ってしまうな。そう思っていたが、どうも様子が違う。なぜかルティは明らかに嬉しそうにしていて、さっきからそわそわしているようだ。
「ルティ、落ち着かないようだが……?」
「この熱さはもしかしたらもしかしますよ~? そう考えたら、気分が良くなっちゃいまして!」
何にしても元気が余っているのはルティだけのようだ。
迷うことのない道を下って行くと、あちこちで水蒸気が噴き上がる。ルティの故郷とはまた別の熱さがあって、早くも汗が止まらない。
「おや、珍しい。間欠泉に気付いて来るなんて何年ぶりかな」
坂を進むとすぐに村の入り口があり、至る所にお湯が溜まっている窪みが見えている。そこでは樽を持ってお湯を汲んでいる村人の姿があった。
見たところ他に村人の姿は無く、初老の彼だけがおれたちを出迎えてくれるようだ。
「ここが間欠泉の村で間違いないか?」
「その通り、ファレワル村だよ。……見たところ、旅の途中のようだが?」
「村や町があると聞いてここまで来た。この先に町が?」
「あぁ、あるとも。目的はその町に行くことかい?」
「そうだ。そこに行きたい」
どうやら予想通り、力を持つ者がいる町が先の方にあるらしい。
「……なるほど。力を試しに行く冒険者ということかな」
そこを目指すおれのことを冒険者として認めたようだ。
カウム樹洞の道しるべで危険と書かれていたが、間欠泉だけのことでは無かった。この感じでは案内してくれそうだが、シーニャとフィーサが眠っているのはどうするべきか。
「おおおお~! す、すごいっ! すごいですよ、これは!!」
さっきまで近くにいたルティがいつの間にか樽の所に移動していて、樽に夢中なのか興奮して騒いでいる。
「すまない、おれのツレが……」
「赤毛のドワーフ――ということは、ロキュンテからかな?」
「――! 火山渓谷の町を知っているのか?」
「いやいや、ここにもドワーフがいてね」
まさかと思うが、そいつと戦えとかじゃないよな。ここは態度を柔らかくして、下手《したて》に出て様子を見るか。
「そのドワーフを紹介して頂いてもよろしいですか?」
「構わないよ。あぁ、ドワーフの他にも人間が一緒に来ているから、彼女に話しかけるといい」
「人間と行動を共に? それは珍しいですね」
「それでは村の中を案内しようか。あの町に行くのなら、我が村の温泉に浸かってもらわなければならないからね」
「は、はぁ……?」
何か含みを持たせている気がするが、この先の町に何かあるのだろうか。疑問に思いつつ、興奮しまくりのルティに近づくと未だ興奮冷めやらぬ状態のようだ。
「全く……、何をそんなに騒いでいるんだ?」
「樽ですよっ! しばらく触れてもいない樽! 高熱に耐えられる樽をここでも見られるなんて感動です!!」
「そ、そうか」
樽一つでここまで喜んでいるとは、それで元気ならいいといえばいいのか。仕方がないと思いながらルティを見守っていると、意外すぎる人から声がかかる。
「あらあら、ルティシアは相変わらずの樽好きなのね。元気そうにしてて安心だけど。そう思いますよね、アックさん?」
「――ル、ルシナさん!?」
「はえぇぇ!? お母さまがどうしてここに~!?」
ドワーフと一緒の人間はルシナさんだった。
ということは、ルティの親父さんもここに来ているということか?
一体どうやってここまで来たのか、色々謎すぎるな。