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岡田が署に出勤した日、事件は予想もしない形で突然舞い込んできた。朝の巡回を終え、デスクに座ると、上司の山田が冷たい表情でやってきた。
「岡田、お前に頼みたいことがある。」
その声にはいつもの厳しさがあったが、どこか重々しさも含まれていた。
「何ですか?」
岡田は応じながら、無意識に心の中で今日もまた何か面倒な事件が起きたのだろうと予感していた。
「こっちだ。」
山田はすぐに岡田を連れて別の部屋に向かった。部屋の中には、まだ小学生ほどの年齢の少年が座っていた。顔には恐怖と困惑が浮かび、手は震えている。少年は真っ白なシャツとズボンを着ていたが、何か得体の知れない暗さを纏っているようにも見えた。
「この子が話したいことがあるそうだ。」
山田は岡田に向かって静かに言った。
少年は岡田を見ると、目を逸らした。その目は何かを隠しているように見えた。
「名前は?」
岡田は軽く問いかけると、少年はやっと顔を上げた。
「高山…遥です。」
少年は声を震わせながら答えた。
「遥君、何があった?」
岡田は優しく問いかけたが、心の中ではすでにいくつかの可能性が頭をよぎっていた。小学生が何か事件に関わるなんて、あり得ない話ではない。だが、現実にはあり得ないことも起こるのだ。
遥はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「ぼく…バイトしてました。」
その一言に、岡田は一瞬固まった。バイト?小学生が?
「闇バイト、ですか?」
岡田は思わず言葉を漏らしてしまった。遥が黙って頷くと、岡田の頭の中で警報が鳴った。
「どうしてそんなことを?」
山田が厳しい声で問いかけると、遥は顔を伏せて答えた。
「お金が必要だった。お母さんが病気で、僕一人じゃ…」
その言葉を聞いて、岡田は胸が痛んだ。しかし、同時に彼は知っていた。金銭的な理由で子供を闇の世界に引き込むようなものがある。それは過ちではなく、もっと深刻な犯罪だ。
「どんなバイトをしていたんだ?」
岡田が改めて尋ねると、遥はしばらく考えた後、恐る恐る答えた。
「…荷物を運ぶだけだったけど。変なものもあったけど、何も知らずに運んでただけ。」
「何か変なもの?」
岡田が目を細めると、遥は小さな声で言った。
「薬とか、金塊とか…」
その言葉に岡田の顔色が変わった。
「それをどこに運んでいた?」
岡田の声は静かだったが、確かな怒りがにじんでいた。
遥は少し躊躇した後、震えながら言った。
「…その、倉庫の中に。でも、それ以上は言えません。」
岡田は彼の目を見つめた。遥は恐怖で顔を歪ませている。その目は、何かから逃げようとしているようだった。
その後、岡田は調査を始めると、遥が言っていた倉庫に関する情報を掴んだ。倉庫の周辺には、過去にも怪しい取引が行われていた形跡があり、遥が関わっていた闇バイトの背後には、予想以上の組織が絡んでいることが明らかになった。遥のバイト先は単なる運び屋として利用されていただけではなく、その背後には大規模な犯罪ネットワークが存在していた。
岡田はその組織の真相に迫るべく、調査を続けることを決意した。だが、同時に心の中で渦巻く疑問もあった。小さな子供が、どのようにしてそのような危険な世界に引き込まれたのか。そして、遥がどんな方法でその状況から抜け出そうとしているのか。彼には見えない部分が多すぎた。
「誰がこんなことを…」
岡田は声に出してつぶやいた。
その夜、彼は木下のことを思い出した。彼もまた、最初は小さな選択から闇の世界に足を踏み入れた。木下がどんな理由でその道を選んだのか、岡田には分からない。しかし、遥のような子供を見ていると、その理由が分かるような気がしてならなかった。
そして、岡田は一つの決意を固める。それは、遥を守るため、そしてこの犯罪組織を潰すために、どんな手段を使ってでも立ち向かうという決意だった。