大阪が囚われて2週間が経った。
兵庫が来るのは2、3日くらい空けることもあれば、連続で来ることもある。
兵庫が来ないと食事はもらえず、来たら来たで強姦されることも多々。
気持ち悪さから吐いても、限界を迎えて気絶しても、兵庫は可愛い可愛いと呟きながら抽送を繰り返すのみ。
扉とは真反対の場所に括り付けられているために、脱出は困難を極めていた。
「兄貴、まだ京都のこと気にしてるんっすか?いい加減話してくんないと寂しいっすよ」
「………」
「…まだダメっすか。まあいいや、俺は兄貴といたいだけやし」
俯いて扇子を見つめ続ける大阪は、あの日以来一言も話していない。
初めの数日は昼夜関係なく声も上げずに泣き続け、疲れては気絶するように眠るを繰り返していた。
今となっては、涙を流すような体力もない。
ただ壁に寄りかかって、扇子を見つめて、京都やみんなへ思いを馳せるだけ。
しかし、もはやそれすら無駄に思えてきた。
「兄貴、もう何度も言ってるっすけど、あんたのせいで俺は殺人犯になったんすよ?勝手に死んで自己完結とか、それこそ京都が浮かばれないんやないですか?かわいい弟分が恋人を殺しちゃって、可哀想っすね〜」
まただ。
兵庫は大阪を監禁し始めた当初から、自分は大阪のせいで京都を殺した。と執拗に刷り込んでくる。
もちろん兵庫の独りよがりな行動だということはわかっている…いたはずだ。
疲労した大阪はその言葉を脳裏に刻み込まれ、どうしても自殺を選ぶことができなかった。
「俺から目を逸らさないでくださいよ。現実逃避しようだなんて無駄や。あんたが俺を見ないから、京都にばっか構うから、こんな目に遭ってんだよ。あんたが全部悪いんやからな、わかってんの?」
あの時と同じように、口元を掴まれる。
見開かれた兵庫の目を無理矢理見させられ、大阪はまた涙が出そうになった。
ただ解放されることを祈るしかできず、兵庫が怖くて仕方がなくなったのはいつからだったのか覚えてもいない。
「…さて、それじゃあご飯にしましょうか。口開けてください」
「………」
「はぁ…」
兵庫は食事と称して、自身の体液や肉を混ぜ込んでくる。
量が少しなら…いや、少しでも嫌だが、明らかに混ぜられているとわかる量を混入させているのだ。
味噌汁らしきものや米の形をしたものは赤く染まっており、小さな肉は歪な形で、信じたくないことに兵庫の肉だと申告された。
兵庫の命に関わりそうな時は普通のものが出てくるが、逆に気色悪い。
何が言いたいかと言われれば、大阪は食事を拒否したい。
「口開けてください。何度も言わせんで」
必死にいやいやと首を振るも、力で敵わないことは明確である。
ぐぐぐぐ…と無理矢理こじ開けられ、無遠慮に赤い味噌汁らしきものを流し込まれる。
「げほっ…がっ…ぇほっ…おぇっ…」
「チッ…何回言ったらわかるんすかねえ…吐くなって言ったでしょ?悪い子ですね」
当然嚥下が間に合わないし、鉄のような気持ち悪い風味がするので噎せて吐くが、兵庫は吐いたものも含めて食べさせてくる。
手で口を覆おうとしても、鎖がガチャガチャと言うだけで意味はない。
「ほーら、もぐもぐしてくださいねー」
呼吸器を塞がれ、ほとんど噛み砕いていないまま細い食道に食べ物であるはずのものを押し込む。
幸い、具が少ないのでなんとかなりそうだ。
喉を詰まらせて何度も吐きかけながら、息ができない恐怖と共に飲み込んだ。
「ちゃんと食べられました?まだありますから、全部食べてくださいね」
大阪は絶望し、兵庫は赤い米を近づけた。
(…なんか、留め具…ゆるない…?)
翌日、食事を取らさせられた大阪は兵庫に犯されて気絶し、ようやく目覚めたところだった。
目覚めたら外れていないかな、と期待していた鎖の留め具が、少し引っ張れば抜けそうなほど緩くなっている。
ドアが開いているかはわからないが、兵庫が出ていく寸前に鍵の音はしなかった。
(…出られそう…やな…)
体力を奪い尽くされ、正直なところすぐに眠りたいが、脱出できるのなら話は別だ。
ぐいっと最後の力を振り絞って引っ張ると、鎖の留め具が落ちた。
(これなら…がんばれば出れる…!)
手足の拘束を外し、軋む体を這いずるように動かして扉まで進む。
長らく同じような体勢でいたために、関節からは嫌な音が鳴っている。
ずっとナカを蹂躙されたために、腰のあたりがズキズキと痛んでいる。
それでも関係ないように、大阪は外への希望を糧に進んだ。
外へ出られれば、助けを求めることができたら。
なぜ誰も助けに来てくれなかったのかを考えもせずに、大阪はドアノブに手をかけた。
ガチャリ
「ぁ…開ぃた…!」
まるで囚人のように鎖を引きずり、よたよたと頼りない足取りで階段を登る。
手をつきながらも、一段一段確実に。
兵庫らしき気配はない。
金属板のような蓋をこじ開けると、きらきらっと懐かしく感じる眩しい光を浴びた。
太陽なんていつぶりだったか、大阪は監禁されていた時間を思い出して身震いした。
(はやく…あいつにバレる前に、早よ行かなあかん…!)
あたりは森で、草木が生い茂っていた。
兵庫が通っているであろう獣道を歩き、周囲の気配に耳を立てる。
誰もいない。
聞こえるのは、鳥の囀りだけ。
鎖の鈍い音でも、兵庫の声でもない。
「なんで…逃げちゃったんすか?」
「ぁ… 」
もう少しで町に着こうというところで、背後から聞き慣れた声が聞こえた。
「ひょ…ご…」
「兄貴なら逃げないって信じてたのに…!!!」
「ごめ…なさ…や、やめて…!」
掠れる喉に鞭を打ちながら、大阪はしばらくぶりの意思表示をした。
逆光のせいで兵庫の顔が見えない 。
ただ、物凄く怒っていることは伝わる。
「わざと外してたんすよ…あれ…俺があんなに外れた留め具に気づかないとでも思いました…?兄貴は俺から逃げないはずだって…優しくしてたのに…なんで…なんで!!!」
「ゃ…ヒュッ…ぁ…はな…し゛て… 」
大阪の首を締めて、兵庫はぼろぼろと涙をこぼしながら責め立てる。
元々体力が限界だった大阪は、簡単に意識を手放した。
「…ぇあ…」
ジンジンと痛む足に違和感を覚え、大阪は再び目を覚ました。
そこはまたあの部屋で、連れ戻されたことを理解した。
「…あ…し…?なんで…なぃ…?」
昨日よりもガチガチにされている拘束と、雑に包帯が巻かれた足首。
その先にあったはずの部位は、どこかへ消えている。
辺りを見回してみると、部屋の隅にノコギリが置いてあった。
「きられ、た…のか……あ、あは…あはは…はははは…」
昨日までとは打って変わって、大阪は乾いた笑いが止まらなかった。
兵庫はいない。
京都もいない。
足先もない。
脱出する方法もない。
生きている意味もない。
◯月◯日 快晴
今日は兄貴が逃げそうになったけど、捕まえたらようやく俺のことを愛してくれるようになった。
いわゆる試し行動ってやつやったんやと思う。
めっちゃ可愛いけど、怖いから歩けなくした。
俺は、兄貴の為ならなんでもしてあげるからね。
コメント
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こわぁッ…
あ、書けてなかったのですが、扇子はお外に行った時に兵庫が処分したので、もう京都を思い出すことはないと思います