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そして、樹とのご両親と会う約束をした日曜。
樹が予約した店に樹と時間より少し前に到着する。
「樹、ここ・・」
「驚いた?」
「なんで・・?」
そこはハルくんが働いているフレンチのお店。
「実はここさ、うちの家族も昔から使ってる店なんだ」
「そうなの!?」
「オレもこの前名前聞いてビックリしたよ。まさかこの店だったなんてね」
「でもハルくんとはあの時が初めてなんだよね?」
「もちろん。中で調理してるだろうから、表には今までも出て来てなかったみたい」
「そっか。ビックリ」
確かに樹の家族ならこんな高いお店使っててもおかしくないよね。
有名なお店だし。
だけどまたこんなとこで繋がっていたことに驚いてしまう。
「じゃ、入ろうか」
「うん」
そしてまさかのハルくんのお店に樹と来れていることが嬉しい。
「いらっしゃいませ」
「早瀬です」
「早瀬様お待ちしておりました。どうぞ」
そして用意された席に樹と隣同士で座る。
「この店さ、親父と母親がオレの産まれる前からよく来てた店らしくて。まだ家族一緒だった頃、3人でもよく来てたらしいんだよね。まぁオレは小さかったから、なんとなくしか憶えてはないんだけど。だから家族が揃うならこの店かなって。3人揃うなんて何年振りかわからないくらいだけど、でも小さいながらもこの店で一緒に過ごした記憶はさ、なんとなく幸せだったような気がして」
「そうなんだ・・。家族の想い出の場所だったんだね」
「そう。だから、ここに透子も連れて来たかった」
「樹・・・。そんな大切な場所に連れて来てもらえて嬉しい」
「うん。これからは透子も家族になるから」
樹は優しく笑いながら、そんな風に嬉しい言葉を言ってくれる。
これからの挨拶で実際はどうなるかはわからないけれど。
でも樹が迷いもなく真っ直ぐその言葉を伝えてくれるのが嬉しい。
ホントにそうなれたらいいな・・。
「3人で来たのはオレが小さい頃だったんだけど、それから今までも親父とだったり母さんとだったり、それぞれとは何度も来てはいるんだけどね」
「じゃあ普段からお二人共変わらずこの店にずっと通われてるんだね」
「離婚してるくせに、同じ店使うとかオレ的にはどうなのって思ってたけど」
「それだけ思い入れあるお店なんだね」
「多分そうなんだろうね。あっ、そうそう。シェフに聞いたらハルも頑張ってるらしいよ。結構センスあるってシェフ褒めてた」
「ホントに!?嬉しい。ハルくん、ちゃんとこのお店で力になれてるんだね」
「透子は初めて?この店」
「うん。初めて。さすがに自分ではなかなか来れなくて。いつか母を連れて来たいとは思ってる」
「そっか」
「でもそんなお店に私も一緒にってなんか緊張しちゃう」
「透子はそのままでいて。そのままオレの隣にいてくれたら大丈夫」
「うん」
「親父が社長だからとか今日はそういうのは関係なく、透子は気にしないで思ったように話してくれていいから」
「あっ、うん・・。でも私、実際社長とは、ほとんど顔を合わせたこともないし、お話する機会も今までなくて・・」
うちの会社はそれなりに大きい会社で、社長はなかなか普通の社員とは関わることもない。
それなりの年数働いてる私でさえそんな感じなので、基本普通の社員は、社長と会う機会がない人も多い。
だから当然社長としても、そして樹の家族としても、どちらの意味でも会うのはかなりの緊張で。
私にしたらどちらの意味でも気に入ってもらえなければ終わりだ。
そうなると、どうなる・・?
この会社の社員としても、樹の結婚相手としてもふさわしくないだとかガッカリされてしまったら・・・?
だけど。
この会社での今の仕事も好きでやり甲斐もある。
だからこの仕事も諦めたくないし、自信も持ってる。
そして、樹のことも、きっとそれ以上に今は大切な人だから、諦められない。
正直、社長は樹の結婚相手を自分で決めて、会社の為に話を進めようとするくらいの人だから。
まだそういう部分では諦めていなくて、どうやったって私は受け入れてもらえないかもしれない。
どう考えても身分不相応だと思う。
きっと本来なら同じような身分や環境の相手が樹にはふさわしいこともわかってる。
金銭的にも社会的地位としても、私では何も力にもなれないことも当然わかってる。
だけど、今の私は何があっても、ただこの想いを貫くと決めたから。
「透子?緊張してる?」
すると隣からそんな私に気付いたのか樹が声をかけてくる。
「あっ、うん・・。やっぱり緊張しちゃうね」
「実はオレも。こんな風に親父と母親と一緒に会うのも何年振りだろ。なんかいろんな意味でオレも緊張してるかも」
「だよね・・・」
樹はきっともしかしたら、私以上に緊張してるかもしれない。
ずっと昔から抱えてきた家族に対しての想い。
それはきっと私がわかってあげられない部分で。
もし私のことを認めてもらえなかったとしても、樹のこの想いはなんとかしてあげたい。
ようやく一緒に同じ時間を過ごせて想いを伝え合えるせっかくの機会。
樹には今までずっと閉じ込めてた想いを解放させてほしい。
もし、私との縁がなかったとしても・・・。
樹はちゃんと家族の絆を取り戻してほしい。
「でも大丈夫。透子が一緒にいてくれるから。透子にもオレがちゃんとついてるから」
樹は隣で優しく微笑みながら、力強い言葉をくれる。
うん。樹がいる。
私は私らしく。
きっと、大丈夫。