空回り –side:Nami②–
「ルフィ……」
私はデッキの欄干に肘をつき、サウザンドサニーの外へ飛び出していった彼の背中を目で追う。
遠くには小さく見える“ハートの海賊団”のシルエット。目的地は、言わずもがなだ。
「ルフィならトラ男くんのところに行ったわよ」
そう呟いた私の背後から、ゆっくりと足音が近づく。
「ふふ、大変ねトラ男くんも。ルフィが相手だもの」
ロビンの声。あいかわらず落ち着いていて、優しい声でもどこか楽しそうだ。
「…そうね。最近ずっと、あの調子だし」
私は視線を逸らすことなく言った。
ルフィはまっすぐすぎる。その分、分かりやすい。誰を想ってるかなんて、見てればすぐわかる。
「好きなんだね、トラ男のこと」
「ええ、そう思うわ」
ロビンが微笑むのがわかる。きっと嬉しいんだ。ルフィが誰かを大事に思えるようになったことを。
「……あたし、なんでこんなに、もやもやしてんだろうね」
ぽつりと漏れたその言葉に、自分で驚いた。
言った瞬間、胸がぎゅっとなった。苦しくて、張り裂けそうで──
ああ、そうか。
(……好きだったんだ、あたし。ルフィのこと)
静かに、心の中で自分自身に言い聞かせた。
でも、もう遅い。
あの子の目は、もう誰かに向いてる。誰よりも真っ直ぐに、ぶつかっていってる。
あたしがいつの間にか惹かれてたその“まっすぐさ”で。
「ナミ?」
ロビンが名前を呼んだ。
「ん? 何でもないよ。ちょっと、風が冷たかっただけ」
「そう……ならいいのだけど」
彼女は何も聞かず、それ以上何も言わなかった。
それが逆に優しくて、涙がこぼれそうになる。
「ねぇ、ロビン」
「なにかしら?」
「ルフィのこと、よろしくね」
ロビンが驚いたように私を見る。けれどすぐ、静かに頷いた。
「ええ。彼が迷った時は、ちゃんと導いてあげる」
「…あたしは、航海士だから。どんな風でも、船を導くのが仕事。……今は、それだけでいいんだ」
そう言って、私はまた前を向く。
ルフィの背中は、もう見えなかった。
それでいい。あたしは、ちゃんと前を見なきゃ。
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