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次の日。
目が覚めると、俺は豪華な食事を済ましてテレビを見て過ごした。
今までよりもよく眠れた気がする。
あの薄暗いような部屋で寝るよりはいくらかマシだった。
ここの部屋は次の特別ディスカッションまで使えるらしい。
もっとも免除は1度きりなので生き残っていたら、の話だが……。
今日のディスカッション時間は12時。
俺はそれまでゆっくりして身体を休めた。
そして、ディスカッションが始まる15分前に、うつも通り鍵のロックが開いたので部屋から出る。
俺は見学できるという【A】の部屋に向かった。
時計にはしっかりと地図までつけられていて、分かりやすい。
【A】の部屋というのは2階の奥の部屋にあった。
ドアをあける。
するとそこには一人用のイスと机とヘッドフォンが用意されており、目の前には大きなモニターがあった。
1番乗りで来た俺。
その後に続いて入って来たのは瑛人だった。
「おはよう」
「おはよう良樹。ここで見られるんだね」
ヘッドフォンは机の真ん中に用意されていて、特に名前など書いていない。
どこに座ってもいいということだろうか。
「じゃあ隣いい?」
「ああ」
俺は瑛人と隣同士で座った。
どういう制度でディスカッションを見ることが出来るのだろう?
いくつかチームがあるだろうが見たいチームを見ることが出来るのか?
「色んなチームを映していく感じなのかな?」
「それだと議論の内容が飛び飛びになってしまわないか?」
そうだよな……。
瑛人が自分の目の前にあるモニターをいじる。
「あ、分かったよ、良樹。見てこれ。何班のディスカッションを見たいのか選択出来るようになってる」
「本当だ」
テレビのチャンネルを指定するのと同じように番号がそのまま班になっている。
なるほど。
でも自分の見たい班が見れるとはいえ、何班を見たいかなんてないよな……。
ポツポツ、と議論に集まってくる人たち。
「あ、」
色んな班を拡大して見ていると、その中に千春の姿を見つけた。
良かった……。
彼女はまだ生き残っているんだな。
そして、ディスカッションギリギリになると朱莉の姿も見つけることが出来た。
「良かった……」
俺が小さくつぶやいた言葉に瑛人は反応した。
「友達?」
「うん、というかディスカッションで仲良くなったというか……」
「へぇ、良樹は余裕だな~こんな切羽詰まったゲームで友達作りなんて」
「そういうつもりじゃ……」
「冗談だよ。ディスカッションにおいて、仲良くなれるって才能だと思う。すごいって言いたかったんだ」
俺なんかより、よっぽど瑛人の方がすごいと思うけどな。
じっと彼を見ていると、瑛人はモニターを見ながら「ん?」とつぶやき眉をひそめた。
「どうしたんだ?」
「これ」
瑛人は7番にチャンネルを合わせた。
「7班のディスカッション見ておいた方がいいかもしれない」
7班?
なんでだ?
すると瑛人は言う。
「7班は強者揃いだ」
「強者……?」
どうしてそんなことわかる?
「まず、あの【湯本信行】彼は昨日のディスカッションで目立つ発表の仕方をしていた。」
「コミカルなはなし方や問いかけを行ったり、気を引いていた。取り上げた問題が異物混入問題とメジャーなものだったものの、発表だけだったら彼が一番うまいと思う」
確かに昨日のディスカッション、彼の発表はかなり目立っていた。
注目の集め方やスピーチの仕方は政治家に匹敵するレベルだ。
もし全員が同じテーマを取り上げていたとしたら、彼がいた班が1番だったかもしれない。
「そして次に【風見絵里】彼女は父母共に親が弁護士のつわものだ」
「知り合いなのか?」
「うん。あんまり話したことはないけど、昨日のディスカッションで前にいたグループだから少し様子を見ていたけど、正当な意見をいかに正当に見せようとするのがとてもうまかったよ」
瑛人……。
そんなところまで見ていたのか。
俺はあの時、自分の班の議論をするのでいっぱいいっぱいだったのに、外の情報までゲットしていたなんて……。
やっぱり瑛人は人とは違う。
スバ抜けた才能を持っていると思う。
じっと7班のメンバーを見ていると、俺も知ってるヤツが席についた。
「アイツ……」
手を強く握る。
堂々と自信を持ってイスに座ったのはみどりを陥れた【斎藤勝】だった。
彼もまた、この場に生き残っていた。
『相沢さん、その意見は高橋さんの言った意見ではなく、僕の意見です。相沢さんはきちんとメモを取っているんですか?先ほどから言っていることがところどころ間違っているように思います』
思い出す。
あの時の議論を。
みどりを失った時のことを。
「彼を知ってるの?」
「ああ、あいつも……強いと思う」
俺の表情を見た、瑛人は「そうか」というだけでそれ以上何も聞かなかった。
アイツがいるディスカッション。
みたいようでみたくはないが……。
「このチームの議論はきっと相当なものになる。見た方がいいよ、良樹」
瑛人は言った。
「特に今右端に座った彼、【藤崎斗真】は天才だよ。僕ならあたりたくないね」
藤崎斗真?
一見オーラがあるようには見えない。
真面目そうでも、チャラそうでもない。
いたって普通の顔をしているけど、本当にこの人が天才なのか?
というか、何で瑛人はそんなことまで知ってるんだ?
いくらなんでも情報を持ちすぎじゃないか?
俺が瑛人に聞こうとした時、部屋に仮面をかけた人が入って来た。
「ディスカッション見学者は7名ですね」
7人か……。
気づけば集まっていた人。
もっと見に来ると思っていたけど、半分は部屋で休むことを選んだのか。
もったいないと思う反面。
見ることで精神が削られることは確かだ。
せっかく免除されているのに、見たくもないってところだろうか。
「目の前の大きなモニターでは全体の様子を映し出します。自分たちが指定した班が見たいのであれば、それぞれの机についているモニターでご覧ください」
それだけを言うと、仮面をかけた人は外に出て行った。
それと同時にロックもかかるが、今は気にしない。
俺は瑛人と一緒に7班にスポットをおいてみることにした。
「ではゲームを開始します。議論の時間は30分。議論のテーマは〝噂ばなしを出来る限り人に伝わらないように1人の人に話す仕方”です」
そんな議題があるのかよ……。
「では始めてください」
アナウンスは鳴る。
しかし、そんな議題に正解なんてあるのか?
それを見つけ出していく問題なのか?
俺にはサッパリ分からない。
予想で答えるにも難しすぎる問いに俺は頭の思考が停止した。
しかも議論の時間は30分。
どう考えても短すぎる。
どう答えを出していけっていうんだ。
俺がもし参加していたら、何も意見が出せないディスカションになっていたかもしれない。
つくづく免除で良かったと思う。
「瑛人ならこの議論、どう展開していく?」
「うーん、難しいな。まずは人の意見を聞いてから動くかな」
瑛人でもそう言ってるくらいだ。
相当難しい議論だぞ……。
しかし、瑛人が言った通り、この班はつわものばかりで、彼らはすぐに手を挙げ出した。
一番最初に手を挙げて発言したのは発表の上手い湯本信行(ゆもとのぶゆき)だった。
「はい、湯本信行と申します。僕が考えるうわさ話を最低限にとどめておける方法は……」
やっぱりこのグループかしこいな。
30分という短い時間を分かっているのか、7班は自己紹介を初めにせず、発表する時に名乗るシステムでディスカッションを始めた。
瑛人の言う通りだ。
見る価値があると思う。
「単純な意見ですが誰にも言わないでと最初に伝えてから話をするといいと思います。前置きがあることで、うわさ話が広がってしまうことをぐっと抑えられるのではないでしょうか?」
すると、湯本の意見にすぐさま風見絵里(かざみえり)が手をあげた。
「はい、風見絵里です。湯本さんの意見ですが、それは違うと思います。誰にも言わないでと言われたことこそ、人間は言いたくなってしまうというデータを私は見たことがあります」
なるほど、一理ある。
言わないでと言われると人はいいたくなってしまうものだ。
「誰にも言わないで、と付け加えてしまうことは逆に人間の言いたいという欲求を深めてしまうのです。なので私は、言ってもいいよ。とあえて言うことで関心が薄まり広まることを防げると考えます」
「関心が薄まらないほどの噂ばなしでも同じことが言えますか?言ってもいいなんて言われたら、大勢に伝わってしまうと僕は思いますが……」
バチバチと火花を散らして、意見の言い合いを続けるふたり。
そこに斎藤勝(さいとうまさる)も参加して、さらに議論が加速する。
彼はこの間の議論と同じように、クセのある言い方をしてきた。
「僕は言ってもいいよという、風見さんの意見に賛成ですね。湯本さんは押してはいけないボタンの原理をご存知ですか?」
「いえ……」
今度の斎藤の狙いは、自分とは反対意見の湯本信行か?
「押してはいけない、と書かれたボタンが一つだけある部屋に人をある一定時間閉じ込めると、人はそのボタンを押してしまうという原理です。この実験で約9割がボタンを押しました。つまり、~してはいけないと言われれば、言われるほど、人はそれをしてしまうんです」
やはり、この前と同じ。
強いと言われている班に入っても引けをとらない。
すると、瑛人が注目している藤崎斗真(ふじさきとうま)がようやく意見を出した。
何を言うつもりだ?
俺は緊張しながらも、藤崎を見ていた。
しかし、彼が言い出したのは拍子抜けするようなことだった。
「最初に誰にも言わないで。と言った方がいいのか。それとも言ってもいいよと付け加えるのがいいのか、現段階では2つの意見があるようですね」
は……?
そんなの、今の話し合いを聞いていれば誰でも分かるようなことじゃねぇか。
なんでそれをわざわざ口に出すんだ?
もしかして司会の役割を担って点数を稼ごうとしている……?
はなし方は生徒会長タイプだな。
みんなに慕われるような柔らかい物言いをする。
ただそこに脅威などは感じない。
瑛太に言われなければ注目もしないような人だと思うが……。
「とりあえず、どちらの意見がいいのか明確にする必要がありそうですね」
湯本は藤崎の意見を聞いてそう言った。
このチームの議論はどちらの意見にするか、という方向で白熱しだした。
ディスカッションに参加する7人がどっち派かに分かれて議論していく。
残り時間は15分。
その段階では風見さんと斉藤の言った「言ってもいいよ」という意見の方が優勢な感じだった。
これはこっちの意見に決まったか?
「押してはいけないボタンの原理という、具体的な実験の話まで出て来たので、風見さんと斉藤さんが言った、言ってもいいよという意見で話を進めていきますか?」
司会役をしている人がいう。
その時、藤崎がすっと手をあげて意見した。
「でも言わないでって言うのは信用している人にとっては効果的な言葉だと思うな」
ん……?
藤崎は湯本の意見に賛成側なのか?
そう思った時、湯本派についていた、人たちがちらほら意見を出し始めた。
「条件によってだと思います。その伝える1人がもしその人のことを本当に信頼していたら、言ってもいいよと言われるよりも、言わないでと言われた方が黙っている確率は大きいんじゃないでしょうか?」
どちらかに傾けば、どちらかに傾いてまるで天秤のようだ。
藤崎の言葉によってまた意見は白熱し、均衡状態になった。
そろそろ決めないと時間がないぞ。
大丈夫なのか?
残り10分。
藤崎は湯本派の味方をしたが、それ以上何か意見を出すことはなかった。
本当にこの藤崎が強いのか?
こればかりはさすがに瑛人の見誤りだと思う。
彼は議論を始めてたった二言しか話していない。
ひとつは全く意味のない発言。
もう一つは湯本側に味方をする発言。
強いと瑛人が名前をあげていない人の方がよっぽど目立っていて、有意義な発言をしている。
彼はこのままだったら恐らく0点かよくて、1点あたり。
これから何か話していこうと思っているのか……?
しかし、議論はヒートアップするばかりで一向にどちらの意見にするか決まらなかった。
残り3分。
これはまずいんじゃ……。
意見が決まらなかった場合はどうなるんだ?
今まで俺はなんとか、一つの意見をまとめて出して来たが、全員0点なんてこともあるのか?
じっとモニターを見ていた時、残り時間が1分を切った。
すると、今まで見ているだけだった藤崎がすっと手を挙げた。
今更何を言っても遅いような気がするが……。
そして彼は、ゆっくり笑みを浮かべながら言った。
「僕、今思ったんですけど……意見いいですか?」
「どうぞ」
なんだ、この回りくどい言い方は。
「言ってもいいよ、言わないで、じゃなくてさ。キミにしか言ってないんだ、と最初に言えばいいんじゃないかな?」
……は?
コイツ、突然何を言い出している?
彼の意見に周りはシーンと静かになる。
どちらかの意見に絞ろうというのとになっていただろう?
それを突然、この残り時間で何を言い出すんだ。
「皆さんもそう思いませんか?キミにしか言ってないから言わないでね、そう伝えることで責任を全て押し付けているんです。人間、責任というのが大事で責任感が曖昧になる、集団行動……例えば赤信号みんなで渡れば怖くない、ってありますよね?あれは一人一人の責任が集団ということで曖昧化されるから起こるんです。
つまり、噂が広まったらキミのせい、ある意味脅しですがこうやって言えば、信頼している人であろうが、口が軽い人であろうが、1人にとどめておくことが出来ると思います。だって、もし広まってしまったら確実に自分が犯人ってバレてしまうんですから」
息をのむ。
周りの人が反論出来なくなったその瞬間。
「制限時間になりました」
アナウンスが鳴った。
時間……切れ。
突然の裏切り。
この議論はどうなる?
初めてのパターンかもしれない。
幸い俺が参加する班はなんとか結論まで出せていたから。
するともう一度、アナウンスは鳴った。
「議論の答えが出ていないようなので、7班の皆さんは発表できません」
発表無し?
答えが出せないんじゃ、そうなるのか?
「このまま集計にうつらせ頂きます」
会場がシーンと静かになる。
しかし、みんなの視線は藤崎に集まっている。
何か言いたげな顔をしているが、ここで何か言ってしまうと結果に反映すると思っているのか誰も話さない。
不穏な空気が流れる中、アナウンスは鳴った。
「今回は5点満点の評価です。点数は、目の前のモニターに発表されます」
アナウンスがそう言った時、俺たちの見ている画面には全員の点数表が表示された。
【藤崎斗真 5点】
――――――――――――
【湯本信行 0点】
【風見絵里 0点】
【斎藤勝 0点】
【二見真 0点】
【如月さゆり 0点】
【滝本杏美 0点】
な……っ。
ど、どういうことだよ……。
藤崎以外みんな0点!?
そんなことあるのか?
湯本と風見さんと斉藤は確かに藤崎よりも意見を出していたはず……。
議論の中心人物はこの3人だ。
それがどうしてこんなことになってるんだ。
俺がヘッドフォンを外して、瑛人を見ると彼も同じようにヘッドフォンを外して言った。
「どんでん返し議論だ……」
「どんでん返し議論?」
「ああ、彼の最後の一言でディスカッションの流れが大きく変わった。どちらの意見か、ではなく、彼が発言した言葉が一番正解に近いと周りに思わせたんだ」
周りに思わせた。
それは運営も含めてか?
「彼が発した言葉に一瞬の弁解の余地はあった。しかし誰も口を開けなかった。それは反論する糸口が見つからなかったからだ」
確かに、あの意見。
どうやって楯突いていいかも分からない。
「あの一瞬で議論に参加していた人は思っただろうね。俺たちはどうしてそんな不毛な議論をしていたんだろうと」
そうだな……。
落し物は右に落ちているか、左に落ちているか議論していたら右と左、両方行けばいいじゃん!
ダメなんて誰も言ってないだろう?
と言われたようなものだ。
「だから運営は彼の意見を正解だとした。だからそれ以外は全て違うという0点になったんだ」
「でもこの議論にもともと正解はないだろ?」
「そう。ただ話し方次第では正解を作ってしまうことは出来る」
今までほとんど話さなかったヤツがたった一言話しただけでこんなことになるなんて……。
「あれはきっと彼の作戦だ」
すると瑛人が真剣な表情で言う。
「彼が発言したのはたったの3つ。一番最初に発言したあの言葉で周りを洗脳したんだ」
「洗脳って……あの意味のない言葉でか?」
「もちろん軽いタイプのだけどね」
“とりあえず、どちらの意見がいいのか明確にする必要がありそうですね”
彼はそう言った。
「あれは意味のない言葉ではなく、人を誘導させるための言葉」
「誘導?」
どちらかの意見に絞ろうと言われた時、人はそのどちらかの意見しか見なくなる」
確かにそうだ。
どちらかの意見に絞ってと言われたら、人はどっち派について自分の意見を言っていくか、まず考えるのが普通だろう。
「本来の彼らなら、藤崎が言った回答も思いついたはず。それを1回目の言葉で考えさせないようにした。そして、2回目の発言」
『でも言わないでって言うのは信用している人にとっては効果的な言葉だと思うな』
「あれは、彼が湯本派だったのではなく、意見がどっちかに傾いてしまうのを防ぐためだったんだ」
時間を無くすため、意見がまとまりそうになったところで彼はあの言葉を言った。
まとまりかけていた意見を崩して、味方してもらったと勘違いした湯本はこの勢いを活かして、自分の意見を押し通した。
「そして、散々議論させたうえで最後の最後。藤崎はあの時間、あのタイミングで、最終的に今まで議論していた2つの意見を蹴散らすような答えを出してみせた」
そんな恐ろしいことってあるのか……。
あの絶妙なタイミング。
それが全て偶然じゃないくて必然だと言うなら本当に恐ろしいやつだ。
どんでん返し議論、そんなのが存在するのなら、いくら頑張って発言をしていたって意味がない。
「0点の方を処刑します」
アナウンスがそう言った瞬間、藤崎以外の人物が腕を前に出しながら苦しんでいる。
なんだ、あれは……。
「血だ」
瑛人が深刻な顔をして言う。
そう彼らは腕につけた時計から血を抜かれていた。
手の色が茶色く変形すると、もはやその形は手ではなく木の枝のようになっていた。
苦しんでいる斉藤の姿も目に入ったが、俺は画面から目を逸らした。
憎いヤツだと思っていたが、こんな形で終わるなんて……。
ずっと目を逸らしていた時、処刑が終わったのか誰の叫び声も聞こえなくなった。
ちらっとモニターに目をやると、周りが床に倒れこんでいる中、藤崎は涼しい顔をしてそれを見ていた。
藤崎斗真、アイツはどんなヤツなんだ。
ぐっと、手を握りしめる。
「彼とあたるのは危険だね」
俺はこれからの議論で勝ち上がることが出来るんだろうか……。
もし、藤崎のようなヤツに出会った時、俺なりのディスカッションをすることが出来るのだろうか。
ディスカッションの見学は後味悪く終了した。
残り【240】人
――――。
***
「瑛人、グループディスカッションの会場はどうだった?」
「ええ、父さんの言った通り面白いゲームでしたよ。やはり父さんのアイデアは素晴らしい」
「はは。しかし、お前が入ったグループが特待の権利を取るなんてな、さすが我が息子だ。」
「いえ、あれば僕のお陰ではありません。あの時のはきっと彼、朝井良樹の力でしょうね。
彼は恐らく自分でも気づいていない特殊な能力を持っているかもしれませんね」
「特殊な能力?」
「ええ、周りを引き付ける魅力ですよ。要は仲間を作ること、
理論的ではなく感情的に説得することがうまいんです」
「なるほど、でもどうかな?ここまで生き残って来たヤツらは曲者ばかりだぞ」
「そうですね、曲者を説得できるか、それが彼の運命を左右するでしょう」
「いずれにせよ、このゲーム。僕の退屈を満たすのに十分だ」