この作品はいかがでしたか?
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義妹の花ちゃんから話を聞きたいと電話があった。
雪にも内緒にしたいということだったが、いくら義妹とはいえ二人だけで会うのはどうかと思い、Crowのバックヤードを使わせてもらうことにした。
Crowのオーナーは俺の従兄弟だと伝えると、電話口からホッとしたような様子が窺われた。
和也に花ちゃんを紹介して、向かい合ってパイプ椅子に座っている。
いつもは明るい花ちゃんの暗い表情は初めてで、さらに雪にも内緒ということですごく心配だが、急かしてしまうのは良くない気がして花ちゃんから話すのをじっとまった。
少しすると、膝の上に置いたてをぎゅっと握ってからぽつりと話し始めた。
「お義兄さんはお姉ちゃんと浮気をしたの?お姉ちゃんは略奪して結婚したの?だとしたら、二人のことを軽蔑するし新も合わせて気持ち悪い」
ん???
「何の話?」
「この間、仕事が休みだったからISLAND住販に新の為のお弁当を作って持っていったの。新は外出中で対応してくれた女性がわたしのことを泥棒猫の妹って大声で言って、他にも人がいたのに意味のわからないことを言われて恥ずかしかった」
新二から花ちゃんと交際をしているという話は聞いていた。
雪は新二と森川さんが一緒に仕事していることに不安を感じていたが、新二がきちんと話をしていると思っていたが、この様子だと話をしていないのかもしれない。
「それで」
とりあえずは森川さんが何を言ったのかを聞くのが先だろう。
「びっくりして、固まってしまっていたらその人に裏の公園に連れて行かれて色々と話を聞きました。」
「聞かせてくれる?」
「新とは10年以上も付き合っていたって、今は冷却時間を少し置いているだけで落ち着いたら結婚をして一緒にISLAND住販を支えて行くって、そして本当はお義兄さんの元婚約者でお姉ちゃんのせいで婚約破棄になったって。その話もすごく気持ち悪いけど、新はお義兄さんの婚約者とずっと体の関係があったんですよね?体の特徴とかすごく聞かされてすごく気持ち悪かった。新はその人のことを好きだから、ずっと一緒にいたいからその人にたのんで一緒に仕事をしているって」
「どう言うことなんですか、お姉ちゃんも結局お母さんと一緒だし、お義兄さんも新もそういう人たちなんですね。」
花ちゃんは話しながら瞳からは大粒の涙がポロポロと溢れ続ける。
「森川さんが言ったことを新二に聞いてみた?」
花ちゃんは下を向いたまま頭を左右に振った。
涙は膝に置かれた手のこうにぽたぽたと落ちていく。
ハンカチを渡そうとすると、手で払い除けられた為、ティッシュの箱を渡すとそれは受け取った。俺のものは気持ちが悪いと思っているのかもしれない。
「1つづつ答えていくよ。ただ、花ちゃんにとって辛い話もあるかかもしれないが大丈夫かい?」
そう聞くと、小さく頷いた。
「まずは、新二と森川さんが10年以上付き合っていたことは本当だ」
ティッシュを持つ手に力が入る。
「ISLAND住販は元は森川住販で森川さんの父親が経営していたんだが、欠陥住宅問題により経営が立ち行かなくなり、ローン会社が森川住販を支援するかわりに森川さんを社長の愛人にすることで話が進んでいたんだ。新二は恋人である森川さんを救うために、森川さんと新二が婚約をすることで両親を説得して支援のためのお金をISLANDから出せないかと考えたが、森川社長がまだ学生だった新二では承諾できないと言ってきたため、新二がISLANDに入社するまで俺が仮の婚約者となった。もちろん、森川さんとは何の関係も持っていないし、そもそも俺は台湾にいたから会うことも無かった」
花ちゃんはずっと下を向いたまま聞いていた。
「ところが森川住販の件があまりにうまくいきすぎて1年早く本社に呼び戻され、そこで雪にあって一目惚れをしたんだ。そのころ、雪には恋人がいたから、ただみているだけだったが、雪がその恋人と別れたと聞いてモタモタしていては誰かに取られると思って新二と婚約者の交代をするまであと2ヶ月あったが告白をして付き合うことになったんだ」
「え?」
目も鼻も真っ赤にした花ちゃんが惚けたように顔を上げた。
「雪は森川さんが言ったような事はしてないよ、清廉潔白な人だから。花ちゃんが一番良く知っているでしょ」
泣きながらも大きく頷く
「よかった、お姉ちゃんを嫌いになりたくない」
「仮の婚約者を引き受ける上で条件をいつくか提示したが、ことごとく約束は破られ今回のように森川さんが雪を傷つけたから、もう森川さんと新二を守る必要がないと判断して全てを父に話して森川住販を潰すことにしたんだ」
「だから今はISLAND住販になったんだ。でも、今の話だと新二さんも約束を守らなかったってこと?」
うん。。。まずいな。
しっかりつっこんでくるあたりは雪に似ているかも。
「まぁそうだね」
「条件ってなんですか?」
「新二が入社したら婚約者を入れ替わることと、俺には一切関与しないということ」
「他には?」
何だか、食い下がってくるな。
「他とは?」
「だって、約束を破った内容としてはなんだか釈然とこないというか、新が直接関係するような約束は無かったんですか?」
どうする・・・
「何か隠してますよね」
はぁ、思わず息を吐く。
「俺の婚約者であるうちは妊娠はしないこと」
「えっ!新って子持ちなんですか」
「いや、この時は未遂というか」
「未遂?」
「そう、未遂」
あまりこういう生々しい話はしたく無かった。
一度目を閉じてから瞼を開くと、花ちゃんが怒っているように見えた。
「それって、新は避妊をしない人なの」
「は?」
「お姉ちゃんが避妊しない男はダメだって」
「え?」
「もう、どうしよう」
「いや、一応理由はあったと思うから、それは本人と話し合って聞いてみた方がいい」
「でも、新は彼女が好きなんでしょ。10年以上も付き合っていて新が彼女と一緒に働くことを望んだんでしょ。それなのに、わたしを好きだなんておかしいですよね。避妊もしない浮気男なんて、それなのに泊まりにおいでって言ったり。もう信じられない」
「いや、花ちゃん」
花はいきなり立ち上がりバックヤードの扉を開くと
「もしかしてお義兄さんも、そういうひとなんですか!お姉ちゃんを裏切ったら許さないから。それに、もう新なんていらない。この最低兄弟!!大嫌い」
と高らかに叫んで走って言ってしまった。
俺が出て行くと、和也もお店に来ていた客も一斉に俺を見た。
「いや、俺はなにも・・・」
夜に一人で帰すわけにはいかないので、急いで花ちゃんを追いかけ、家に連れ帰り雪と二人にしてから新二に電話をかけた。
『兄さんどうかした?』
「どうかしたじゃない、雪に注意をされなかったのか」
『え?』
「花ちゃんと話をしたのか?」
『いや、最近花が電話に出なくて・・・LINEもスルーされているんだ。どうしたらいいのかわからなくて』
「花ちゃんの家に行ったのか?」
『いや、連絡してからじゃないと迷惑かと思って』
はぁ
盛大なため息が出た。
『電話してきてため息とか何?』
「雪が森川さんのことでお前に何か言わなかったか」
『え!』
「電話に出ないからそれでもういいと思う程度なら、花ちゃんにちゃんと別れの言葉を掛けろ!中途半端なことはするな」
『何を言ってるんだよ、あまりしつこくして嫌がられたら、おれだって距離感の掴み方がわからないんだ』
「森川さんとはどうなってる?」
『どうもなってない。時々、食事に誘われるけど断っているし』
はぁ
「お前が一番大切なのは誰なんだ?」
『花に決まってる』
「それなら、どうして森川さんに毅然とした態度を取らないんだ。いつまで、曖昧にしておくつもりだ。そんなことだから大切な人を傷つけることになるんだ」
『え?花になにか』
「森川さんが花ちゃんにお前とのことを話した見たいだ。ついでに、婚約者だった俺が浮気をして雪は略奪をしたと言ったそうだ」
『なっ、森川さんに話してみる』
「何度も聞くが、お前にとって大切なのはどっちだ?森川さんと会って二人で話して、花ちゃんを後回しにするつもりじゃないだろうな?順番を間違えたらもう二度と花ちゃんはお前のところに戻ってこない」
『あっ、おれ、どうしよう、今から花の家に行ってみる』
「花ちゃんなら今俺の家で雪が一緒についてる」
「しっかり現実を見て、大切なものを守るなら切り捨てないといけないものがある。もし、キッパリと切り捨てられないなら、森川さん以外の人を愛してはいけない」
「よくよく考えろ、もし切り捨てられないならここには来るな。きちんと花ちゃんと向き合うのなら今からすぐにきなさい」
「はっきりと言う、迷っているなら来るな」
そう言うと通話を終了した。
かつて愛した人を傷つけたくないのはわかる、でもその優しさが今、大切な人を傷つける刃になることにきちんと気づいて欲しい。
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