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ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
#Paycheck
「……は?」
エリオットの声が、わずかに揺れる。
「聞こえなかったか?」
チャンスはもう一度コインを指で弾いた。
軽い音。けど、その意味はやけに重い。
「キスするかどうか、賭ける」
「くだらない」
即答。なのに――
視線が、逸れない。
コインが空中で回るたび、胸の奥がざわつく。
「怖いならやめとけ」
挑発みたいに、低く落ちる声。
「……別に」
グラスを置く音が、やけに響いた。
「やればいいんだろ」
その一言で、空気が変わる。
チャンスが、ゆっくり笑った。
「いいね」
指先が弾く。
くるり、と回る銀。
時間が、妙に遅くなる。
――落ちる。
パシ、と手の甲で受け止める音。
「どっちだと思う?」
「さあ」
エリオットはわざと興味なさげに言う。
でも、喉が乾いているのは隠せない。
チャンスは、ゆっくり手を開いた。
「――裏」
一瞬の静寂。
それが意味するのは。
「……俺の勝ち」
チャンスの声が、やけに近い。
「だから」
一歩、距離が詰まる。
逃げ場が消える。
「言った通りに動け」
エリオットは、動かない。
動けない、じゃない。
動かない。
「……で?」
強がるみたいに言う。
「どうすんだよ」
チャンスは、少しだけ首を傾けた。
「簡単だろ」
指が、顎に触れる。
軽く、持ち上げるみたいに。
「キスする」
そのまま――
触れた。
ほんの一瞬。
軽く、確かめるみたいなキス。
なのに。
「……っ」
エリオットの呼吸が止まる。
離れると思った。
でも――
「終わりだと思ったか?」
低い声。
今度は、逃がさないみたいに。
もう一度、距離が詰まる。
さっきより深く。
角度を変えて。
「……っ、ちょ……」
言葉を塞ぐように、重なる。
さっきの“賭け”とは違う。
これはもう――
ただのキスじゃない。
指が、エリオットの襟元を掴む。
逃げる余裕も、拒む隙も奪うみたいに。
でも。
エリオットの手が、わずかに動いた。
押し返すでもなく。
完全に受け入れるでもなく。
ただ――
服を、掴む。
「……は、」
離れた瞬間、息が漏れる。
「……お前、」
視線が絡む。
近すぎる距離。
「こんなの……反則だろ」
チャンスが、少しだけ笑う。
「今さら何言ってんだ」
そのまま、耳元に近づいて。
「まだ続き、賭けるか?」
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