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「……えっ!? 何それ! ……その人、レズなんじゃない?」
最近あった静香さんとの出来事を相談してみると、一瞬驚いた顔を見せた香澄。
「やっぱり、そうなのかな……」
『男の人は好きじゃない』と、そうハッキリと言葉にしていた静香さんを思い返す。
「……で、どうするの? 家出るの?」
「う〜ん……。別に、偏見がある訳じゃないし。静香さん、良い人だから……」
「あのねぇ……、わかってる? 人の指舐めて何度も名前呼ぶって、異常だからね!? 真紀、絶対狙われてるから! ……家賃3万が惜しいのはわかるけどさぁ〜」
私の言葉に急に怒り出した香澄は、最後には呆れたような顔をすると大きく溜息を吐いた。
確かに、香澄の言う通りあの時の静香さんは異常だった。
ピチャピチャと音を鳴らして指を舐めながら、私の名前を何度も呼んでいた静香さん。あの異常な光景は、私の脳裏に焼き付いて離れない。
静香さんの色香にドキリとし——それ以上に、恐ろしさで背筋がゾクリとしたのを覚えている。
それでも、やはり家賃3万はとても魅力的だった。
(そもそも、あそこを出たら住む家がなくなっちゃうし……)
黙ったまま俯いていると、そんな私を見た香澄が小さく溜息を吐いた。
「……ごめん。出たくても、もう出れないんだよね。私も、同棲してなかったら泊めてあげれたんだけど……」
「ううん、ありがとう。頑張ってお金貯めて……1人暮らしするよ」
「まだまだ、先になりそうだね」
「……うん」
「話しぐらいなら、いつでも聞くから。何もできないかもしれないけど……、困ったら言ってね?」
「うん、ありがとう」
心配そうな顔を見せる香澄に向けて小さく微笑むと、私は目の前のロッカーを閉じると鍵をかけた。
「……あっ! ねぇ、真紀の住んでる家ってどこにあるの? 私……ちょっと話してみるよ、静香さんと。話せば安全かどうかわかるし」
「あ……、家は教えられないんだ」
「え……? 何で?」
「静香さんがね……。持ち家だから、自分の知らない人に個人情報は話して欲しくないって」
「……わかった。じゃあ、探すよ。真紀から聞かなきゃいいんでしょ? なら、自力で探す!」
「……えっ!?」
その突拍子もない発言に驚き、目の前の香澄を見つめて目を丸くする。
「ここから徒歩10分だって、前に言ってたよね? 真紀の帰る方向は知ってるし、大丈夫。……うん、探せるよ!」
自信満々にそう宣言する香澄に、思わず唖然とする。
「家の特徴だって、前に真紀に聞いたし……。うん、絶対に見つける自信ある! 私が勝手に見つけたんなら、別に問題ないでしょ?」
「そこまでしなくても……。大丈夫だよ?」
「何言ってんの!? 絶対変だよ、その静香さんて人! 私が会って見極めてやるんだからっ!」
胸の前で腕組みをすると、香澄はそう言って息巻いた。
「家賃3万だってさ……もしかしたら、女の子目当てかもしれないよ? 相手が女の人だからって、安心しちゃいけなかったんだ……。あーっ、もう! 私のバカ!!」
ロッカーから取り出した荷物を雑に纏《まと》めた香澄は、「じゃ、早速今日探してくるから! バイト頑張ってね!」と足早に立ち去ってゆく。
「あっ……!」
止める間もなく、立ち去ってしまった香澄。
パタリと音を立てて閉じられた扉を眺めながら、大丈夫だろうか? と心配になる。追いかけたいのは山々だけれど、早番の香澄に対して今日の私は遅番のシフト。
先程バイトが終わった香澄と入れ違いで、私は今からバイトなのだ。
(あと、八時間か……)
「とりあえず……。バイトが終わったら、連絡してみよう」
そう小さく呟くと、私は更衣室を後にしたのだった。
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