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奇蹟あい
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瀬名 紫陽花
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#胸キュン
ゆき
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海岸清掃の日。
朝から空はどこまでも青く、雲はゆっくりと流れていた。
学校から歩いて十分ほどの場所にある海岸へ、一年生全員が向かう。
潮の香りが風に乗って漂い、遠くからは波の音が聞こえてくる。
「思ったより海、きれいだな。」
神崎悠真が伸びをしながら言う。
「だろ? でも、意外とごみは多いんだ。」
桜庭陸が慣れた様子で答えた。
頼人は海を見つめた。
青空を映した海は、どこまでも碧く広がっている。
カメラを持ってきていればよかった。
そんなことを考えていると、隣から声が聞こえた。
「旭川くん。」
振り向くと、軍手をはめた夏目結衣が立っていた。
「ぼーっとしてると先生に怒られるよ?」
少し笑いながら言う。
「あ……ごめん。」
「私に謝らなくてもいいけどね。」
二人は思わず笑った。
それが、初めて自然に笑い合えた瞬間だった。
班ごとに海岸を歩き、ごみを拾っていく。
空き缶。
ペットボトル。
流木。
割れたプラスチック。
思っていた以上にたくさん落ちていた。
「こんなにあるんだね。」
頼人が呟く。
「うん。」
結衣はしゃがみ込み、小さなビニール片を拾った。
「海ってね、きれいなだけじゃないんだ。」
「え?」
「放っておくと、すぐ汚れちゃう。でも、みんなが少しずつきれいにすれば、また元に戻る。」
そう言って微笑む。
頼人はその言葉が少しだけ心に残った。
作業が終わり、休憩時間。
先生からジュースが配られ、生徒たちは思い思いに砂浜へ座っていた。
頼人は波打ち際まで歩く。
足元まで寄せてきた波が、すぐに引いていく。
「海、好きなの?」
また結衣だった。
「好き……なのかな。」
頼人は少し考える。
「見るのは好き。でも、あまり来たことはない。」
「私は大好き。」
結衣は迷わず答えた。
「落ち込んだときも、嬉しいときも、ここに来るの。」
「そんなに?」
「うん。」
少し照れたように笑う。
「変かな?」
「いや。」
頼人は首を振った。
「なんか、いいと思う。」
その言葉に、結衣は少しだけ驚いた顔をした。
「ありがとう。」
短い返事だった。
でも、どこか嬉しそうだった。
帰り道。
学校へ戻る途中、班のみんなで話しながら歩く。
「そういえば旭川って写真好きなんだよな?」
悠真が聞く。
「ああ。」
「今度海の写真撮って見せてよ!」
「そんなに上手くないよ。」
「絶対上手いって!」
結衣も会話に入る。
「私も見てみたい。」
頼人は少し恥ずかしくなった。
「撮れたらね。」
「約束。」
結衣は小指を差し出した。
「え?」
「約束する時はこうするでしょ?」
「……高校生になっても?」
「高校生だから。」
そう言って笑う。
頼人も少し笑って、小指を重ねた。
ほんの一瞬。
それだけのことだった。
でも、不思議とその約束は忘れたくないと思えた。
放課後。
家へ帰る途中、頼人はふと海の方へ目を向ける。
夕日に照らされた海は、朝とは違う色をしていた。
「……撮ってみようかな。」
家に帰ったら、久しぶりにカメラを持ち出そう。
そんな気持ちになった。
まだ恋ではない。
でも、誰かの一言で景色の見え方が変わることがある。
頼人は、そのことを少しだけ知り始めていた。
コメント
1件
読ませていただきました!第2話、すごく素敵でした✨ 海岸清掃という日常の場面で、頼人くんと結衣さんの距離が少しずつ縮まっていく感じが丁寧に描かれていて、胸がじんわり温かくなりました。特に「高校生だから」って小指の約束をするシーン、高校生らしい初々しさと真剣さが滲んでて、すごく好きです。まだ恋とまではいかないけれど、誰かの一言で世界の見え方が変わる瞬間──その空気感が見事に表現されていました。続きが気になります!🌊