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汚れていた女の子が路地裏で泣いていた。考えるよりも先に手が動いて、ハンカチでその子の頬の泥を拭いていた。すると突然その子はクスッと笑った。
「どうしたの?何か面白いものでも見たのかしら」
「うんん!なんでもないわ!」
その子の手を繋ぎ、表の店へ向かうと店主は驚いた顔をしていた。ちょうどその店には寝たアルフレッドを抱えていたアーサーがいて、アーサーも急いで駆け寄ってきた。
「おい!急にいなくなったかと思えば,,,,どうしたんだこの子は?」
「私はそこの店主に用があるの。通していただいてもよろしくて?」
「ぐ、,,,,さっさといけよ」
手を繋ぐその子を見たかと思えば店主の顔は青ざめていく。そんな店の様子を感じ取ったのか次は店主の妻が奥からでてきた。するとその妻は甲高い叫び声をあげた。
「いやああああああ!化け物!化け物!!なんでここにいるのよ!捨てたのに!捨てたのに!!」
「こ、こら,,,,客がいる前で,,,,!」
「そう。なら、この子は私がもらうわね」
「え?」
「あら。いけなかったかしら?私興味があったのよね。お化けってものに」
ニッコリと笑ったつもりでその子の顔を見る。びっくりしている顔をしているが、目には涙が溜まっている。
「いい?もういいでしょう?さっアーサー。帰りましょう」
「お、おう」
帰り道、アルフレッドを抱えたままのアーサーはアリスの顔を覗きながらアリスの抱えた女の子を見ていた。そのうち、バチッと目があったのだろう。その子のアリスの服を掴む力が強くなった。
「ちょ、だめよ!服のシワがついちゃうわ」
「ああ、すまないレディ。驚かせてしまったな。俺はアーサーだ。こっちの寝てるやつがアルフレッド。お前と同じの,,,,,,,,国だ。」
「国,,,,?」
ポツリと呟いた。そこに抱く位置をグルンと変えて明るく答える。
「そうよ!国民の笑顔が1番長く、いい席で見られるの!素敵なことよね」
「うん、,,,,うん!とっても素敵!」
「ふふっ。私はアリス。あなたの名前は?」
「私?わたし,,,,」
「,,,,名前がないのね」
「そりゃ困ったな。アリス。つけてやれよ」
「ええ!?」
「アルのは俺がつけたからな。次はお前の番だ。」
「,,,,そうねぇ,,,,」
「エミリーというのはどうかしら?」
それからというものの、そのエミリーはよく育った。拾って間もない頃、またも女の子の国、メグを一緒に暮らしたせいか2人は一緒に同じくらいの速度で育っていった。アーサーとともに北米へいくとマシューもいっしょにいて、よく【どっちでしょうクイズ】なんかを仕掛けられたものだ。エミリーとメグはアリスによく懐き、フワフワの髪の毛をツインテールに束ねていた。
ずっと、こんな日が続くものだと思っていた。
ここからが、あの子の体験した時代よ
アルフレッドの話を聞いてしまった。目の前で疲れ果てたアルフレッドを見た時、何となく覚悟を決めてしまったのだ。
過ごす度に増してきた、【もう妹じゃない】というのを実行する勇気を発揮するときが。
ちょうどその時、アメリカ国内にはフランスとスペインが滞在していたため、夜にアルフレッドを送ってからその足で2人の部屋へ向かった。案の定ワインを飲み明かしていたりといつも通りの2人だった。
「こっちおいでエミリー」
そういってワインを差し出してくる。でもそれを断って丁重にあるお願いをした。とても驚いた顔をしていたけれど、それでもとお願いすると頭をポンと優しく撫でてくれた。
次の日の朝、庭にエミリーとフランソワーズがいた。エミリーは綺麗な白い布を羽織り、フランソワーズはハサミを選んでいた。
「ほんとにいいの?エミリー」
「うん」
「ふーん,,,,私はいいブロンドの髪の毛だったと思うんだけどね。フランシスから話は聞いてたけれど、別にそう無理しなくてもいいのよ?」
「いいの!」
一際大きな声が庭に響いた。フランソワーズは驚いた顔をして硬直して、反対にエミリーは涙を溜めている。
「もう、妹じゃないんだから,,,,っ!」
ふぅと息を吐き、やれやれとフランソワーズはエミリーの髪の毛に触れた。
「そう。エミリーらしいわ。」
ハサミの開いた音がした時だ。
「エミリー!!服ってこれでええんかいな!」
スペインのイサベルの声が響いたと同時にハサミのジャキンという音とパサっという髪の毛が一斉に落ちていく音を覚えている。イサベルはやってしまったかという顔をして手を口に当てている。前かがみになって、なんとか落としそうだった服を抱きしめているが汗ばかりをかいている。
「あー、,,,,うん,,,,似合うとるでエミリー!うん!さすがフランソワーズのセットや!服ここにおいとくけんな。着たら見せてや!じゃ!」
「い、イザベラ!!貴方ねぇ!」
「,,,」
「あ、え、エミリー,,,?うん。いいわ!とても,,,いい、長さで,,,ふふ」
あのフランソワがとんでもない量の冷や汗をかいていた。でもそんなこと気にせずに落ちた髪をひと房とってフランソワに顔をむける。
「いいわねフランソワ!整えて頂戴!」
満面の笑みで答えた。
「え、ええ」
戸惑ったような顔をしていた。
あのとき、私はちゃんと笑みをできていたのかな?
それからは新しい服に着替えて屋敷を歩いていた。案の定、新しい紅茶を持っているアリスとメグがいた。
「あ!エミリー,,,え?」
メグががちゃんと落とした音が響く。少しだけ気まづいと思って視線を逸らしてしまった。だからアリスの顔なんて知らない。でも、なにを言ったのかっていうのは覚えてる。
「エミリー」
ただそう一言
私の名前だけ呼んだだけ
私は戦線に立つなんてことはなかった。だから救護テントで兵士たちの看護をしていたのだけど、その日は大きな雨が降り続いていた。
ほんとうに、強い雨だった。
兵士と今日はなにかあるのかなと話していた。ふと足音が聞こえた気がしてテントから顔を出した。まだ傷だらけの兵士が外で用意をしていたから引き止めようとした。でもそれよりも近くの森の方が気になった。子供の時、何度もメグと木の実を拾っていた森。アリスとも,,,
やがて戦場からは遠いけれど目を細めると相手陣地が見えるぐらいのところまで来た。そこで見たのは、アーサーとマシューが銃を手にとって出陣しようとしていたところ。もしかしたらと急いで戻るとアルフレッドは他の軍人と話していた。でも私の様子を見てなにか察したのか話しを聞いてくる。さっき見たものをありのまま話すとアルフレッドは駆け出していった。もちろん、私も慌てた。言わなければ良かったのかなと。
「アル!」
「ダメよエミリー!私たちは,,,ここにいなくちゃ,,,」
「フランソワ!でも」
「エミリー。女の子はな、家で祈っとくんや」
「,,,,,,イザベラ,,,」
ただテントで待機していただけ。
帰ってきたのは 大笑いで涙を流している兵士たちだった。その中をかき分けていくとアルフレッドがいた。
国旗を、掲げていたの。