テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#強引
恵
150
#大人ロマンス
煉彩
262
スマートフォンを握りしめる大輝(だいき)の手には、じんわりと汗が滲んでいた。
年齢は二十歳。茶髪の短髪に、日頃のトレーニングで引き締まった一八九センチの恵まれた体躯。無地の白いTシャツと着古したジーンズというシンプルな装いだが、その体格と爽やかな顔立ちも手伝って、街を歩けば自然と目を引く姿をしている。
自分は男が好きなのではないか――そう自覚したのは高校生の頃だった。けれど、周囲に打ち明けることもできず、当然誰かと付き合ったこともない。もちろん、女性とも男性とも経験のない純粋な童貞だった。
「素敵な恋人ができたらいいな」
そんな純粋な期待を抱いてダウンロードしたのが、この同性向けマッチングアプリ「ドナドナ」だった。
右も左もわからぬまま登録して三日目。最初にマッチングし、トントン拍子に会う約束が決まったのが「レイ」という三十歳の男性だった。
アプリのチャット欄を見返す。
『土曜の夜、九時に渋谷のブックカフェ前でどう? 落ち着いて話せる場所、知ってるから』
『はい! 楽しみにしています! よろしくお願いします!』
絵文字を交えた大輝の返信に対し、相手の文章はどこか大人びていて、洗練された余裕を感じさせた。大輝は「きっと大人の素敵な人なんだろう」と胸を躍らせていた。まさかこのアプリが、恋人探し以上に「体目的」の人間が多く集まる場所だとは知る由もなく。
約束の十五分前。渋谷の喧騒から少し離れた路地裏で、大輝はそわそわと周囲を見回していた。
「君が……大輝くん?」
背後から掛けられた低い声に振り返り、大輝は思わず息をのんだ。
そこに立っていたのは、黒髪をきっちりとオールバックに固め、仕立ての良いスーツをスマートに着こなした男だった。身長は一八三センチと大輝に負けないくらい高く、すらりとした細身のスタイル。彫りの深い顔立ちと深い色の瞳が、大輝のような若造にはない圧倒的な大人の色気を漂わせている。
「あ、はい! 大輝です! レイさん……ですか?」
「そう。一ノ瀬 零人(いちのせ れいと)。レイでいいよ」
零人は薄く唇を歪めて微笑んだ。
アプリ歴七年。この街で遊び尽くし、これまでベッドを共にした男は三十人をくだらない。零人にとって、このアプリは恋人を探す場などではなく、極上の「獲物」を狩るための道具だった。特に、大輝のように見るからにウブで、身体だけが無駄に仕上がっている「初心者」は大好物だった。
世慣れた風を装いながらも、目線をどこに置いていいか迷っている大輝の様子を見て、零は小さく舌なめずりをした。
(……当たりだな。完全に手垢のついてない極上品だ)
「それじゃ、行こうか。近くにいい店が――」
零人がそう言いかけた、まさにその時だった。
突如として、世界の音が途切れた。
夜の街のネオンが粘り気のある光の輪となって歪み、足元のコンクリートがぐにゃりと沈み込む感覚。
「うわっ……!?」
「くっ……何だ!?」
大輝が持ち前の体格を生かして咄嗟に零人の腕を引こうとした瞬間、二人の身体は強烈な浮遊感とともに、眩い白光の中に呑み込まれていった。
「……痛たた……」
膝をさすりながら大輝が目を覚ますと、そこは見たこともない見知らぬ室内だった。
窓は一つもなく、壁は温かみのある木目調。部屋の中央には、二人がゆったりと横たわれるほどの大きなダブルベッドが鎮座している。そして部屋の隅には重厚なチェストと、部屋には不似合いな青く発光するデジタル文字が浮かぶ文字盤のある大きな鋼鉄製の扉。
「レイさん! 無事ですか!?」
「……ええ、なんとか」
スーツの乱れを整えながら起き上がった零人も、珍しく困惑の表情を浮かべていた。二人とも服は着たままだったが、スマートフォンを取り出すと完全に圏外で、時計の秒数すら止まっている。
大輝はおそるおそる扉に近づいた。そこに表示された文字を読み上げる。
『ふたつの身体が完全に交わり、それが観測されたとき、扉は開かれる』
「交わる……? 観測……? 一体どういうことですかこれ! 脱出ゲームか何かですか!?」
混乱して声を荒げる大輝を余所に、零人は冷静にベッドのそばにあるチェストへ歩み寄った。
スッと引き出しを開ける。
そこにあったのは、大容量のローション、さまざまな種類のコンドーム、そして洗練されたデザインの大人向けのおもちゃ類だった。
「……ハハ、なるほどね」
零人は引き出しを閉めると、可笑しそうに肩を揺らした。
「レイさん? 何が入ってたんですか?」
「見ない方がいいよ、純情な大輝くんにはね。……要するにだ。ここは『セックスしないと出られない部屋』ってわけだ」
「セッ……!??!?」
大輝の顔が爆発したように真っ赤になった。
「な、何言ってるんですか!? 俺たち、今日初めて会ったんですよ!? それに、俺は……そういうつもりでアプリを始めたわけじゃ……!」
慌てふためく大輝の反応を見て、零のサディスティックな嗜好が疼いた。
目の前で耳まで真っ赤にして狼狽えている一八九センチの筋肉質な巨躯の男が、あまりにも魅力的だ。
「じゃあ、ここで一生過ごす? 食料も水もなさそうだけど」
「それは……嫌ですけど……」
「僕だって、男なら誰でもいいわけじゃない。でもさ……」
零はゆっくりと大輝に近づき、スーツのジャケットを脱いでベッドの上に放り投げた。ネクタイを緩める仕草一つにも、長年男を骨抜きにしてきた男娼のような艶やかさがある。
「君、本当は経験ないでしょ。同性が好きなのに、誰にも触れられたことがない」
「っ……! なんで、それを……」
「目を見ればわかるよ。……ねえ、大輝くん。俺で練習してみる? 出られないなら、楽しんだ方が得でしょ」
零の手が、大輝の胸元に触れた。薄いTシャツ越しに伝わる、大輝の激しい鼓動。大輝は逃げ出そうと身体を強張らせたが、目の前の男から漂う甘い香水と、大人びた色気に完全に気圧されていた。
「でも、俺……やり方なんて……」
「教えてあげるよ。俺に身をゆだねて」
零人は大輝の首に手を回し、爪先立ちになってその薄い唇を重ねた。
「ん……っ……」
唇が触れ合った瞬間、大輝の頭の中が真っ白になった。
初めてのキス。柔らかく、しっとりとした感触。零の舌が迷いなく大輝の唇を割り、口内を優しく舐め回していく。唾液の混じる甘い音が密室に響く。
「ふ……あ……っ、レイ、さん……」
「可愛いね……背は高いのに、息の吸い方も分からなくなってる」
一度唇を離した零は、うっとりとした目で大輝を見上げた。
オールバックにしていた黒髪が少し崩れ、数本の前髪が額にかかっている。それだけで、どこか淫靡な雰囲気が跳ね上がっていた。
「服、脱いで。君の綺麗な身体、見せてよ」
零人の囁きに促されるように、大輝は震える手でTシャツを脱ぎ捨てた。
現れたのは、日々のトレーニングで鍛え上げられた美しい胸筋と腹筋。無駄な脂肪のない力強い男の体だ。零人の瞳に、本物の熱が灯る。
「すごい……最高だよ、大輝くん」
零人の手が、大輝の胸板を撫で下ろす。熱い手のひらが皮膚を滑るたびに、大輝の身体がビクッと跳ねた。
そのまま零人の指先が、大輝の右の乳首をピンと弾く。
「うぁっ……!? な、なに……っ」
「ここ、弱いんだ? 男だってね、ちゃんと開発すれば気持ちよくなるんだよ」
零人は屈み込み、大輝の胸に顔をうずめた。
カリッと小さな歯を立てて乳首を噛み、そのまま熱い舌で転がすように舐め上げる。同時に、もう片方の乳首を指先でじわじわと捏ね繰り回した。
「ひっ……あぁっ! ダメ、そこ、変な感じが……っ!」
「ダメじゃないよ。力を抜いて……俺に全部委ねるといい」
大輝はベッドの上に押し倒される形になり、零人の攻め立てるような前戯に翻弄された。
指先で、唇で、舌で。零は大輝の肌の至る所にキスを落とし、鎖骨から腹筋のくびれにかけて舐め這わせていく。ウブな大輝の反応はあまりにも素直で、少し強めに吸い上げるだけで「あぐっ……!」と可愛らしい悲鳴を上げた。
大輝のジーンズの上から、すでに固く熱を持っているモノを手で優しく包み込む。
「ほら……こんなに大きくなって。素直な体だね」
「う……あ……レイさんが、そんなことするから……」
「ふふ、俺のせいに執着するのも可愛い。……じゃあ、今度は君の番」
零人は大輝の上に跨ると、自らのスーツのシャツのボタンを一つずつ外していった。
スラックスも滑り落とし、下着一枚の姿になる。
「……え」
大輝は目を見開いた。
普段はスーツとオールバックでビシッと決めている大人な男の印象だった零だが、服を脱ぐと驚くほど華奢だった。筋肉も脂肪も少なく、一八三センチの長身でありながら折れてしまいそうな細さ。そして、髪が落ちて顔にかかると、その顔立ちはどこか妖艶で、女性的な美しさを帯びていた。
「どうしたの? 呆然として」
「あ……いや……レイさん、すごく、綺麗で……」
本気で驚いたような大輝の言葉に、数々の男を弄んできたはずの零の胸が、ドクンと嫌な跳ね方をした。
「……バカ。口だけは一人前なんだよ」
照れ隠しのように呟いた零人は、チェストから取ってきたローションのボトルを大輝に手渡した。
「これ、手に塗って。……俺の後ろを解してほしい」
「えっ、俺が……やるんですか?」
「当たり前だろ。童貞を卒業させてやろうってことだよ。だけど、いきなり挿れられたら、俺の体が壊れちゃう」
大輝はゴクリと唾を呑み込んだ。
自分の手に冷たいローションをたっぷりとしぼり出す。手袋のようにまとった手で、零の細い太ももの間に恐るおそる手を伸ばした。
「っ……ぁ……そう、そこ……優しくね」
零人の秘所に、大輝の太い指が1本滑り込む。
多くの男を相手にしてきた経験豊富な零人の身体だったが、大輝のあまりにも不器用で、けれど丁寧な指の動きに、思いのほか早く熱が集まっていくのを感じていた。
「痛くないですか……? 大丈夫ですか?」
「ん……大丈夫だから、もう一本……入れて……っ」
大輝は息を整えながら、言われた通り指を二本に増やし、零人の内部を広げるように優しく動かした。自分の大きな手が、零人の華奢な腰を支えている。接触面から伝わる零人の体温と、甘い喘ぎ声が、大輝の男としての本能を強烈に刺激した。
自分の股間はすでに限界まで破裂しそうに強張っている。
「レイさん……俺、もう……我慢できないです」
「ふふ……いいよ。コンドーム、つけて……おいで」
大輝は震える手でコンドームを装着し、零人の足の間に膝をついた。
目の前で自分を受け入れる準備をして、熱い瞳で自分を見つめている綺麗な男。アプリの出会いも、異空間のルールも、すべてが吹き飛ぶほど、大輝の心と体は「この人を抱きたい」という欲望で支配されていた。
先端を合わせ、ゆっくりと腰を押し進める。
「んんっ……!!」
「あ……っ、凄い……締め付け、られて……っ」
一八九センチの恵まれた体格から繰り出される圧迫感に、零人は思わずのけ反った。経験豊富な自分でも息が詰まるほどの大きさと熱量。童貞特有の、加減を知らない一途な強さが、零人の身体の奥深くを貫いていく。
「はぁ、はぁ……っ! 入った……レイさん、入ったよ……っ!」
「声が……大きい……っ、バカ……あぁっ!」
完全に結合した瞬間、激しい快感が二人を襲った。
大輝は夢中で腰を動かし始めた。最初はぎこちなかった動きも、零零人が背中に回した手に力を込め、「もっと……奥……っ」とねだるたびに、野性的な激しさを増していく。
「あぐっ、あぁっ! 大輝……くんっ、すごい……っ!」
「レイさん! 好きだ……っ、レイさん……っ!」
「好き」という純粋すぎる言葉の暴力に、零人の理性が崩壊していく。
ただの遊び相手、ただの部屋を出るための作業のはずだった。それなのに、大輝の熱い体温と、一途な眼差しと、力強い突き上げに、心まで溶かされていくような感覚。
ぱちゅっ、ぱちゅっとローションと体液と性器が混ざり合う湿った音が、静かな密室に木霊する。
大輝は零人の華奢な身体を強く抱きしめ、何度も何度も深く、最奥を突き上げた。零人は長身の身体を折り曲げるようにして大輝に縋りつき、何度も絶頂の波に呑み込まれていく。
「あぁぁっ! 出る、出る……っ!」
「レイさん……! 一緒に……っ!」
極限の快感が二人の脳髄を焼き切り、大輝は零人の体内で、零人は大輝の胸元で、同時に強い解放の瞬間を迎えた。
大きな吐息と、重なり合う体温。
白濁とした熱い余韻が、部屋の中に漂っていた。
静寂が戻った部屋に、ピン、ポン、パン、ポン――と澄んだチャイム音が響いた。
二人が呼吸を整えながら見やると、扉の青い文字が消え、温かみのある緑色の光で『解錠』と表示されていた。重厚な扉がガチャリと解錠の音を響かせた。
「……開いたね」
ベッドの上で、服を着直した零人がぼそりと呟いた。
オールバックは完全に崩れ、濡れた黒髪が頬に触れている。いつもの「経験豊富な三十歳」の余裕はすっかり鳴りをひそめ、どこか照れくさそうに目線を泳がせていた。
大輝は自分のTシャツの裾を引っ張りながら、真っ直ぐに零人を見つめた。
「レイさん」
「……何?」
「俺……アプリ、辞めます」
「え?」零人が驚いて顔を上げた。
大輝は一八九センチの身体を少し小さくしながら、けれどしっかりと零人の目を捉えて言った。
「俺、恋人が欲しくてアプリを始めたんです。……今日、レイさんと会えて、抱けて、本当に嬉しかった。脱出するためだけじゃなくて、俺はレイさんのことが好きになりました。だから……俺と、ちゃんと付き合ってください」
純粋で、真っ直ぐで、あまりにも不器用なプロポーズ。
ヤリモクのマチアプ歴七年、多くの男と割り切った関係を続けてきた零人の胸に、その言葉がストンと落ちてきた。いつもなら鼻で笑ってあしらうような台詞なのに、なぜか目頭が熱くなる。
「……バカじゃないか?今日会ったばかりだろう」
「関係ないです! 俺、本気です!」
押し切られるように、零人はふっと小さく吹き出した。
崩れた黒髪の間から覗くその顔は、やはりどこか女性のように艶やかで、可愛らしかった。
「……アプリ、消すなら俺の目の前で消せよ。……あと、LINE教えて。これからは『レイ』じゃなくて『零人』と呼んで欲しい」
「! はいっ!」
大輝の顔がパッと明るくなった。
二人は手をつなぎ、開かれた扉をくぐって現実の夜の街へと踏み出した。
異空間での奇妙で濃密な初体験は終わり、二人の新しい「日常」が、ここから始まろうとしていた。
コメント
1件
よかったです……! 最初は「ヤリモクかよ……」とちょっと引いたんですけど、異世界転移で強制的に密室に閉じ込められるという展開、めちゃくちゃ好きです。単なるセクシャルな描写だけじゃなくて、大輝くんの真っ直ぐな告白で零人さんの心がほぐれていくのがすごく丁寧に描かれていて、最後のLINE交換シーンで思わず笑顔になりました。 **“アプリは俺の目の前で消せ”** って、経験者のくせに可愛いじゃないですか。 1話完結でも読めるけど、二人の日常編も読みたいな〜と心から思いました。設定の設計もキャラの配置も綺麗に決まっていて、本当に読みやすかったです。