テラーノベル
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ルカが鷹宮家を去ってから、二年が経った。
屋敷は変わらずそこにあり、
恒一は当主として、より多くの責任を背負うようになっていた。
——ただ一つ、
彼の隣に立つ執事だけが、違っていた。
「……以上が、本日の予定です」
新しい執事は優秀だった。
何一つ、不満はない。
それでも恒一は、ふとした瞬間に思ってしまう。
(君なら、どうしていただろう)
⸻
再会は、偶然だった。
財団の式典会場。
人の波の向こうに、見覚えのある背筋を見つけた瞬間、恒一の心臓が強く脈打つ。
「……ルカ?」
名を呼ぶ声に、男が振り返る。
そこにいたのは、確かにルカだった。
だが、執事服ではない。
落ち着いた色のスーツに身を包み、穏やかな表情で立っている。
「……ご無沙汰しております、恒一様」
その呼び方に、胸が少しだけ痛んだ。
「今は、どうしてここに?」
「顧問として招かれました。
執事ではありませんが……同じような仕事ですね」
そう言って、ルカは微笑む。
かつての完璧な一礼は、もうしなかった。
⸻
式典の後、二人は会場近くのラウンジに座った。
向かい合う距離。
だが、以前よりも遠い。
「……元気そうだな」
「はい。恒一様も」
言葉は丁寧で、穏やかで、
けれどどこか、他人行儀だった。
恒一は、意を決して口を開く。
「後悔は、していないか?」
ルカは一瞬だけ目を伏せ、それから答えた。
「しています」
即答だった。
「ですが……戻りたいとは、思っていません」
「どうして」
「戻れば、また同じ線を引くことになる」
ルカは静かに続ける。
「私は、あなたを“主”としてしか見られなかった自分が、
一番苦しかった」
⸻
恒一の指先が、わずかに震えた。
「……じゃあ、今は?」
「今は」
ルカは視線を上げ、まっすぐに恒一を見る。
「あなたを、一人の人として見ています。
それ以上でも、それ以下でもない」
それは、拒絶ではない。
だが、許しでもなかった。
⸻
別れ際。
「また、会えますか」
恒一の問いに、ルカは少し考えたあと、答えた。
「……はい。
ただし、昔のようには、なれません」
「それでもいい」
その言葉に、ルカは小さく笑った。
「変わりましたね、恒一様」
「君がいなくなってから、嫌でも」
⸻
再会は、終わりではなかった。
けれど、すぐに始まりにもならない。
主と執事ではない。
けれど、まだ“恋人”とも言えない。
二人は、
一度失った距離を、
今度は慎重に、測り直していく。
「けど」の先にある答えを、
まだ誰も口にしないまま。
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