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第1章 - 塔の中で
私は塔の窓から外を見つめる。日が沈み、空は血のように赤く染まっている。その色が私を落ち着かせる。まるで、この世界が私と同じように赤く染まっているようで、心が安らぐのだ。
外は危険だ。外に出ることは許されていない。そんなこと、よく分かっている。私はこの塔がすべてだと思っているから。塔は私の「家」であり、私の「世界」であり、私を守ってくれる唯一の場所だから。
でも、外の世界は私を脅かすものばかりだ。あの王子――白馬に乗ったあの男が来た時、私はすぐに彼を拒絶した。私の塔を侵す者として、どこかに潜んでいた恐怖が湧き上がったのだ。
「私はここで生きるしかない」と決めた日から、誰にも侵されることなく、静かな世界が待っていると思っていた。しかし、彼は違った。彼は私に近づいてきて、私を解放しようとする。しかし、私は彼を知っている。彼は私をただの「物」として扱うつもりだ。私を「かわいそうな姫」として助け、そしてその後に放り出すのだろう。
「どうして私を助ける必要があるの?」
その問いが、心の中で響き続ける。私には、私の力がある。外の世界は、私の髪に宿った力を恐れている。誰もがそれを利用しようとする。私が髪を伸ばせば、その力は増し、壁を越えることもできる。だが、それは他人にとっては恐ろしい力だ。私は知っている、あの王子も私を利用しようとしているに違いない。
王子が塔の下で何かを言っている声が聞こえる。私はその声を無視して、髪を見つめる。長く伸びた髪は、私にとってはもう、ただの髪ではない。髪の中には、私の力が込められている。それは、私の呪いでもあり、私の「力」でもある。
外から聞こえる声が続く。
「ラプンツェル、出てきてくれ!」
私は小さくため息をつき、髪を指で撫でる。強く、そして冷たく。あの王子の声には、何もかもが見透かされているような恐ろしい感覚がある。彼が私の力に気づいていないわけがない。もし彼がこの髪を手に入れれば、私を支配することができる。私はそれを許すわけにはいかない。
「あの男も、私を支配したいだけだ」
その思いが胸の奥で膨らむ。塔の中で私を守ってきたのは、魔女だけだ。魔女は私に、外の世界がどれほど恐ろしいかを教えてくれた。魔女は、私が誤って外の世界に出てしまわないように、私を監視していた。けれど今、あの王子がやってきたことで、すべてが狂い始めた。
「お願いだ、出てきてくれ、ラプンツェル!」
私の名を呼ぶ声が、ますます大きくなる。私はその声に耳を塞ぐ。だが、心の中で何かがひき裂かれるような音が鳴った。外の世界に行きたいという欲望が、私の中で強くなる。その欲望が、私を苦しめる。
「外の世界は、私を求めている」
私はその思いを否定しようとしたが、心の中の声がますます強くなる。私は本当に、自分が正しいと思っているのだろうか? 魔女の言うことが、正しかったのだろうか? それとも、このまま王子のもとに行き、私の力を他者に与えてしまうべきなのか?
「ラプンツェル!」
その声がまた響いたとき、私は決めた。私が王子を拒絶するのは、私の自由を守るためだと。私が塔を守るのは、私の「家」を守るためだと。だが、それが本当に正しいのだろうか?
私は立ち上がり、髪を引き寄せる。そして、ひとしきり髪を巻きつけて、窓の前に立つ。窓の外には、王子が待っている。彼の姿が、私の心の中で小さく見える。
「今、私は彼に見せなければならない。私がどうして塔から出ないのか。彼に、私の力の本当の意味を。」
私は髪を窓の外に差し出す。すぐに、王子の手が私の髪をつかむ。しかし、私の心の中では、彼の手が冷たく感じる。彼の触れる先に、私の力が広がっていく。王子はそれを知らずに引っ張るが、私の力は暴走し、彼の体を捕らえてしまう。
「ラプンツェル、何を――?」
その瞬間、王子の声は私の心に響き、私は一歩後ろに引いた。王子が捕まったその瞬間、私は自分が何をしているのかを理解する。
私は、外の世界を恐れていた。そして、今、私はその恐れを試すことになった。
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