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私が目を覚ましてから少し時間が経った頃。ふと、私は今の生活に違和感を感じていました。その違和感を知りたくてあなたに質問を沢山しましたね。
「サダハルさん。」
「ん?」
「最近気になったことがあります。」
「私に答えられる範囲でなら答えよう。」
「何故、私達の生活範囲は常にこの建物内なのですか?」
「この建物内で生活が成り立つからかな?」
その返答からは少し悲しさが見えたりしてました。当時の私はそれを察することも出来ませんでしたけども、今思えば私の純粋な質問はあなたに再度現実を突きつける形になってましたね。
「では、何故窓が一つも見当たらないのです?私の記憶メモリには一般的な家には窓はついてます。」
「そりゃー窓はないよ?だってここは地下に当たる場所だからね。」
「地下?何故地下で生活を……」
「うーん……答えずらいかなぁ。」
「そうですか。」
少し考え込み彼は私に向かいこう話しましたね。
「じゃあ今日はこの建物のツアーと行こうか」
「ツアー?既に数週間ほど生活しているのに…」
「マナが求める地下生活の理由やこの建物内で生活が送れる理由知りたいでしょ?」
「それはもちろんです。」
「だからそれを教えるために一緒にツアーだ」
「わかりました。サダハルさんがそうお考えなら私はそれに従うだけです。」
サダハルの部屋から出てまず向かうは植物室と言われる場所。ここは様々な植物が存在しており、観賞用や食用など多種多様の植物が存在している。
「ここは植物室と言われるところですね。」
「そうだ。ここからいつも食べられる植物。いわゆる野菜と言われるものを取ってるな。」
「そうですね。もちろん私には不要ですがサダハルさんは人なので食べなければ死んでしまいます。」
「では、何故そんな野菜達をここで育ててると思う?」
疑問を抱えた私にあなたはそんな意地悪な質問をしてきました。それが知りたいのに、何故今自分が質問されているのか?確かにそう思いましたが、ここが私の『感情の芽生え』の入口だったのかなって今は思えます。
「分かりません。私はそれを知りたいのです。」
「時には考えるという事も大事だよ。思考を辞めれば人は終わりだ。それは君にも言える。」
「自覚があると思うが君はアンドロイドという所謂ロボットだ。だがしかし、私は君をアンドロイドやロボットという括りには入れてない。」
「一人の『人』として君と対等に話しているつもりだ。だからこそ君に質問して、考えるということをしてもらっている。」
「…………なるほど、わかりました。」
「つまりあなたの求める答えを無理に導き出さず私がもつ答えをあなたに提示すればいいのですね?」
「その通り。私も最初は無知だ。知らない事は恥ではなく当たり前のこと。」
「では、少しお時間をください。」
「あぁ。マナが納得出来る回答が出るまで待つよ」
あなたは優しかった。造られた存在の私をまるで我が子のように優しく諭して、ものを考えるということを教えてくれた。すぐに回答を求めるように造られるのがアンドロイドの運命だと思ってた。けど、あなたはそんなことはなく、回答を出す道のりの厳しさを教えてくれた。求めればすぐに回答が出るという考えを改めさせてくれた。この瞬間私に『感情』が生まれたんだと思う。
「私なりの回答が用意出来ました。」
「じゃあ聞かせてくれる?」
「私の記憶メモリから推察するにいわゆる自給自足ということを今してると思います。」
「そうだね。確かに自給自足をしてるよ。それは正解だ。じゃあ、なんで自給自足してると思う?」
「………まだ、分かりません。」
「ふふっ…ゴメンねマナ。」
「?」
「この時点では答えられない質問なんだ今のは」
「つまり正解がない質問ということ?」
「厳密に言えば、『今は』導き出せないことかな」
「なるほど……。これが記憶メモリにあった意地悪というものですか。」
「気を悪くしちゃったかな?」
「いえ……」
「まぁ、すぐに答えを知れるから安心して。次行くところは書斎だよ。」
「本を読みに?」
「どうかな?」
植物室から出て右少し進むと書斎と書かれたプレートが見えてくる。そのプレートの下の扉を開け中に入っていく。
「書斎にはなんの用が?」
「ここには名前の通り本がいくつも整頓されて並んでるね。」
「それの何が?」
「私個人の考えなんだけどさ、本って未来に渡すバトンのような役割を持つと思うんだ。」
そう語りながら彼は部屋の中をゆっくりと歩き出す
「生物で言う種の保存と同じという意味合いで?」
「それに近いね。生物は子孫を残すことで『種』としての保存はできる。けど、私たち人間のような高度な知能を持つ者達の、その時の思想や考え方は後世には伝えられない。」
「遺伝子にはそんなものは書き込まれてないですからそれは当たり前のことです。」
「主語を大きくするのなら子孫は親のコピーです。そこに親の自我は移されはしませんが、遺伝子的に見れば純度は下がるもののコピーに違いはないです。」
「じゃあその瞬間の思想や考え方はどう後世に伝える?そう考えた時文字にして伝えるということを人類は考えたんだ。」
「ここにある本は必ず作者がいて、何を残したくてその本を書いたのか。それが刻まれてる。一言で言い表すなら『本は人生の日記』だと思ってる。」
ゆっくりと歩いていた彼の足がピタリと止まり、ある一冊の本を手に取り彼女に渡す。
「この本は?」
「私なりにこの世界の歴史をまとめたものだ。そこには君が求める答えが載ってる。」
彼から受け取ったこの本をサラッと流し見していく。記載されてるのは話していた通り歴史についての事が書かれており、何故こういった生活になったのかまで載っていた。
「どうかな?マナの欲しかった回答はそこにあったかな?」
「…………はい。見つけました。」
「じゃあ問題です。何故私達はこんな生活をしてるのでしょうか?」
「人間同士の領土問題によって引き起こされた戦争によって人類そのものが消えてしまった。その原因が発達しすぎた技術に知恵ということ。」
「その通りだね。人は哀れなことに自ら生み出した兵器によって人同士争いそして地上から姿を消した。」
「種としてもう人は保存できない。あとは滅びゆく運命にある、ということですか…。」
「外は人が生み出した人為的悪魔…。核によって全てが無に還ることになった。人も、建物も、動物たちも、自然もそうだ。」
「私が生きてることは奇跡でね。国からの司令で殺戮兵器を造ることを命じられていた。要求は人型であり、自ら思考判断しその都度適切な判断を下す冷徹な殺戮兵器だ。」
「人型…。自ら思考判断……。」
「察しが着いたみたいだね?そう。私に課せられた命令は君をこの世に誕生させ人を殺めるために育成することだった。」
「……では、今サダハルさんはそれを実行しようと?」
「そんな事しないよ。言ったでしょ?すること”だった”て」
「?」
彼女が手に持っていた本を回収し元の棚に返しながら話を進めていく。
「実はその計画を立てていた国が滅んでしまったのだ。敵軍による砲撃によってね。そんな非人道的なことを企ててるんだから当然の報いだったと思う。」
「けど、国が消えたってことは私の帰る場所も無くなったってことだ。幸いなことに私はこの地下空間に半強制で閉じ込められて研究を続けていた。」
「そのおかげで私は死なずに済んだし、君を育成するために野菜なんかも育ててたりした。だから餓死することはなかったんだ。」
「あなた一人でこの何も無い空間にいたということですか…」
「そうだね。その寂しさを紛らわすために君をこの世に誕生させた。殺戮兵器としてでは無く、一人の人としてね。」
「…………。」
「君につけたその名前は私の娘の名前なんだ。」
「!!」
「寂しさを紛らわすために君をこの世に誕生させて更には自分の娘の名前までつけた。どうだい?人は哀れな生き物だろ?」
あなたはそう話していた時こちらを見ようとはしなかった。いや、できなかったのかもしれません。
だってその時話していた相手は自身の本当の子供の面影を落とした私なのですから。
「……確かに、人は愚かで滅びて当然と思える結果をこの世界に残して消えました。しかし、私はその哀れな人類のことを知りません。」
「え?」
「私が今知ってる人類はサダハルさんあなたのみです。私が目覚める前の人々の愚行がどれほどあろうが、今知り得るのは私に優しくしてくれるあなたしかいないのです。」
「世情は把握しました。酷なことを言いますが確かにあなたにもう子孫を残すという事はできないかもしれません。ですが、今を生きるということはできるはずです。」
「私にサダハルさんが見た、聞いた、感動したもの体験したもの。その全てを教えてください。私が後世に残します。」
「マナ…。君に感情が……芽生えたのか………」
「改めて私をよろしくお願いします。」
「あぁ、よろしく」
この日から私は感情を手に入れ、あなたの最期の時まで共にいることを誓いました。