テラーノベル
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目の前の光景を一頻り眺めた後、俺はゆっくりと目を閉じて幼い日を思い出していた。
…出会いなんてもう覚えてないくらい、物心ついた時から俺達はずっと一緒だった。
夕暮れ時の公園、錆びついたブランコで静かに揺れていた彼を見つけて、俺は嬉しくて夢中で足を動かした。
「れんくーん!…あっ、」
大好きな名前を呼びながら駆け寄ったその瞬間、何もないところで足が縺れ、俺は派手に顔から地面に転がった。
じわじわと襲ってくる痛みに耐えかねて、俺は公園中に響き渡るような大声で泣き出した。
「こうじくん!だいじょうぶ?よしよし。」
彼は直ぐにブランコを飛び降りて俺の元に駆け寄り、ちいさな手で俺の服についた土を一生懸命に払ってくれた。涙でぐしゃぐしゃになった俺。その頭を優しく何度も撫でてくれていた。
彼の温かい掌に慰められているうちにすっかり涙が引っ込んだ俺は、涙の痕を拭ってにっと笑いかけ、
「…、ありがと!おれ、れんくんすき!」
何の前触れもない俺の告白に、彼は一瞬だけきょとんと目を丸くしていた。
「!おれもこうじくんすき!」
恥ずかしそうに、だけど逸らすことなく、真っ直ぐに俺の目を見つめ返してくる。
その瞳があまりにも綺麗で、嬉しくて。
「おとなになったらな、おれ、れんくんとけっこんすんねん!」
「結婚」なんて言葉の意味も、それがどれくらい重いものかも、幼い俺達は何も解っていなかった。
それでも、俺が胸を張って言い切ると、彼は真剣な顔でこくりと頷いたんだ。
「こうじくんがしたいなら、おれもしたい!」
一ミリの嘘も、迷いもなかった。
俺が望むなら何だって叶えてくれる。そんな強い意志を宿した、頼もしい眼差し。
「ほんでな、ずーっといっしょにおって、ずーっとれんくんを『しわあせ』にすんねん!」
自慢げに胸を張って、俺が覚えたての言葉を精一杯に紡ぐと、彼は少しだけ不思議そうな顔をして首を傾げた。
「…?『しあわせ』、?」
「それやぁ!」
言い間違えを指摘されても恥ずかしくなんてなくて、ただ彼と向かい合っていることが楽しくて、へへへぇ、と二人で顔を見合わせて笑い合う。
「じゃあおれは、こうじくんをいたいのとか、かなしいのからまもる!」
拳をぎゅっと握りしめて、にっこりと無邪気に笑う。今さっき俺を泣かせた『いたいの』からも、いつか訪れるかもしれない『かなしいの』からも、全部自分の手で事前に遠ざけてみせる。そんな風に、ちいさな身体のどこに隠し持っていたのかと思うほどの強い優しさで、俺の全部を包み込もうとしてくれていた。
「じゃあ、やくそくな?」
俺が差し出した、砂だらけの小指。
「うん、やくそく。」
彼は自分の、俺より少しだけ大きな小指をそっと絡めて、ぎゅっと力を込めた。
絡まり合った指先から伝わる体温だけが、ちいさな俺たちの世界の全てだった。
でも、それは所詮遠い昔のこと。指切りをしてまで交わした約束なんて…そんなのは、今となっては虚像に過ぎなくて。
──なぁ、蓮。俺の声…今も届いとる?
『…今日は本当に、ありがとうございました。』
今日もまた、歓声が止まない。何千もの人が収容された大きな舞台の上で独り。乾いた感謝の声がマイク越しに響いた。
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