テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ERINEKO
81
ERINEKO
15
ᩚ⸝⋆兎虎 姫愛🦋˻ᵒ♡ͮᵉ🥀

15
いつもより、人が多い。
ざわざわとした空気。
小さな話し声が重なって、落ち着かない。
「……今日、人多いね」
ユイが小さく言う。
「うん」
カイが周りを見ながら答える。
「ちょっと騒がしいかも」
「……やだな」
ユイは視線を下げる。
「アオ」
ソラがすぐに声をかける。
「近くいて」
「いるよ」
「もっと」
「これ以上は無理」
「……なんで」
「人いるから」
「関係ない」
「ある」
アオは少しイラついたように言う。
「距離考えて」
「やだ」
「ソラ」
「やだって」
そのやり取りを横で見ていたミナトが苦笑する。
「今日ピリピリしてるね」
「人多いからでしょ」
ユイが答える。
「……苦手なんだよね、こういうの」
「……帰りたい」
ぽつり、とレンが言う。
「まだ来たばっかじゃん」
ミナトが笑う。
「……無理」
「何が?」
「全部」
レンは椅子に深く座り込む。
視線は床に落ちたまま。
そのとき。
「……っ、」
ユイの呼吸が一瞬、乱れた。
「ユイ?」
カイがすぐに気づく。
「……大丈夫」
「ほんと?」
「……うん」
でも、呼吸は少しずつ浅くなっていく。
「……来そう」
小さな声。
「外出よ」
カイがすぐに言う。
「今なら間に合う」
「……うん」
立ち上がろうとした瞬間。
「やだ」
ソラが強く言った。
「行かないで」
「え?」
ユイが戸惑う。
「なんで」
「……離れるの、やだ」
「ソラ、今はそれどころじゃ——」
アオが止めようとする。
でもソラは首を振った。
「やだ」
「なんでそんなこと言うの」
ユイの声が少し震える。
「ごめん、でも今ちょっと……」
「やだ」
空気が、一気に重くなる。
「ソラ」
カイが静かに声をかける。
「ユイ、今きついから」
「……でも」
「大丈夫、すぐ戻るよ」
その言葉に、ソラは少しだけ揺れる。
「……ほんと?」
「うん」
「……すぐ?」
「うん」
少しの沈黙のあと。
「……分かった」
ソラの手が、ゆっくり離れた。
【場面②:廊下 → 外のベンチ(数分後)】
「はあ……っ、は……」
ユイは壁に手をつきながら、必死に呼吸を整える。
「ゆっくりでいいよ」
カイが隣で言う。
「吸って、吐いて」
「……っ、うん……」
数分。
少しずつ、呼吸が戻っていく。
「……ごめん」
ユイが言う。
「また迷惑かけた」
「迷惑じゃないよ」
「でもさ」
ユイは苦笑する。
「毎回これだよ?」
「うん」
「慣れてるでしょ」
「慣れてる」
「……慣れたくないなあ」
ユイは小さく呟く。
そのとき。
カイが、ぽつりと言った。
「でもさ」
「え?」
「それ、そんなに怖い?」
一瞬、空気が止まる。
「……え」
ユイが固まる。
「今の、怖くない?」
カイは続ける。
「苦しいだけでしょ」
ユイの表情が、ゆっくり変わる。
「……苦しいだけって」
「うん」
「いや、怖いよ」
「なんで?」
「なんでって……」
ユイは言葉に詰まる。
「だって、息できなくなる感じするし」
「でも実際はできてるでしょ」
その言葉に、ユイは何も言えなくなる。
「死ぬわけじゃないし」
カイは静かに言う。
「落ち着けば戻るし」
「……」
ユイは視線を逸らした。
「だからさ」
カイは続ける。
「そんなに怖がらなくても——」
「……分かんないくせに」
ユイが、遮った。
「え?」
カイが少しだけ目を見開く。
「分かんないでしょ」
ユイの声は小さいけど、はっきりしていた。
「なったことないって言ってたじゃん」
「……うん」
「じゃあ分かんないじゃん」
沈黙。
「……ごめん」
カイが言う。
「悪気はないんだけど」
「うん」
「ただ、事実を言っただけで」
「それが嫌なんだよ」
ユイが言った。
また、沈黙が落ちる。
【場面③:フリースペース(同時刻)】
「……遅い」
ソラがぼそっと言う。
「すぐ戻るって言ってたのに」
「ちょっと時間かかってるだけでしょ」
ミナトが軽く言う。
「……」
アオは何も言わない。
ただ、さっきより強く手を洗っていた。
「アオ」
ソラが呼ぶ。
「なに」
「離れないで」
「離れてない」
「でもさっき離れた」
「仕方ないでしょ」
「やだ」
「やだじゃない」
アオの声が少し強くなる。
「状況見て」
「……無理」
「無理じゃない」
「無理」
「ソラ!」
一瞬、空気が張り詰める。
ソラがびくっとする。
「……ごめん」
小さく呟く。
アオは一瞬だけ黙って、そして目を逸らした。
「……別に」
そのとき。
レンがぽつりと言った。
「……カイ、ズレてるよね」
「え?」
ミナトが振り向く。
「さっきの見てたけど」
レンはぼそぼそ続ける。
「“正しいこと”しか言ってない」
「それ、悪いこと?」
ミナトが聞く。
「……悪くはないけど」
レンは少しだけ顔を上げる。
「人に言うことじゃない」
沈黙。
「……優しくないってこと?」
ミナトが言う。
レンは少し考えて、首を振った。
「違う」
「じゃあ何」
レンは、小さく言った。
「……中身がない感じ」
その言葉が、静かに落ちた。
【場面④:外のベンチ → 戻る直前】
「……落ち着いた?」
カイが聞く。
「うん」
ユイが小さく頷く。
「さっきの、ごめん」
カイが言う。
「気にしないで」
「いや、でも——」
「ほんとにいいから」
ユイは少しだけ笑う。
「慣れてるし」
その言葉に、カイは少しだけ考える。
「……そっか」
そして、こう言った。
「やっぱり大丈夫だね」
その一言に。
ユイは、一瞬だけ何か言いかけて——やめた。
「……戻ろ」
夕方の光が、少しだけ冷たく見えた。
コメント
1件
うわあああ……第3話、めちゃくちゃ刺さった😭💔 ユイのパニック、カイの「苦しいだけ」発言、あれは正論だけど正論じゃないってやつだよね…。ユイが遮ったとき、こっちも息止まったよ。レンの「中身がない感じ」もズシッと来た…みんなの距離感とか居心地悪さがリアルで、読んでて胸がギュッてなった😢💦 カイは悪気ないのに、それが逆に辛い……。続き、すごく気になるよ!!