ホクホク顔のコユキと、何とか歩ける位まで回復したカイムが連れ立ってきた道、只々長いだけの速度感に重点を置いていない一本道を戻ろうとして歩き出して直(すぐ)、さっき迄無かった、絶対無かった看板が目に入ったのであった。
『正一(ショウイチ)の、絶対お得! 原価率を比べて瞭然(りょうぜん)! ショッピング天国のクラックはこ~ち~ら~! ♪』
一目見てコユキが断定的に口にするのであった。
「怪しい…… 怪しすぎるんじゃないのぉ? これ? こんなのに騙される馬鹿って令和の時代にいるのかなぁ?」
申し訳なさそうにライコーが言った……
『じゃろうなぁ~! ゴメンなコユキ…… 我等の主の、その、猿芝居なのじゃが…… その、ごめんね』
『ゴメン』
『おばさん、ゴメンね』
『すまぬな…… コユキ殿』
『んなの無視で良いぞ、コユキ! 可愛らしく太った子孫よ♪ ねぇ? 善悪ってどんな子なんだ? 早く会いたいぞぉ!』
「善悪かぁ? そうね! んまあ、頼りがいがある料理上手の相方だよ! 今はごっつくなちゃったけどね、子供の頃はまあ、可愛かったかなぁ? どうだろ、てへへ、良く判んないや!! んでも目の前に現れた存在がアタシを待っているんでしょ? 逃げるのは嫌だよ! さぁ入ってショッピングしよっか? みんな心配しなくて良いんだからね♪ レッツハッピーショピングぅ! んが、お邪魔します!!」
コユキが飛び込んでしまった、販売店、詐欺師っぽい謳い(うたい)文句で誘ってきた店には、商品の類は見当たらず、いい加減そうな若者が寝そべっているだけであったのである。
「らっしゃい!」
軽い感じで言葉にした若者は客が来たというのに寝たままで、足の指をピクピク動かしながらニヤニヤ笑っているのみであった。
コユキは寝たままの男に話し掛けるのであった。
「看板から察するにアンタが正一なのよね? お店には見えないし肝心の商品も見当たらないじゃないの! まさか体験型店舗って訳じゃないだろうし、ここって一体何なの?」
そうだね、体験出来そうな事って言ったら正一とかいう若者がしている様に、古めかしいゴザに寝転がる位だろうし、生憎(あいにく)コユキは見知らぬ男の前で無防備な姿を晒す、そんなはしたない女では無いのだ、つまりここで為すべき事は皆無だと思えたのだが……
「ここは物々交換専門店だぜ、あんたの持ってるアーティファクト五つとこのゴザ、交換してやろうと思ってな、真なる聖女コユキさん?」
「む!」
若い男正一は所謂(いわゆる)『事情通』だったらしく、全てを見抜かれている事を知ったコユキは警戒心を高める。
そっとツナギのポッケに手を伸ばしかぎ棒を取ろうとしたが、『鬼切り丸』の中から語り掛けたライコーの声で動きを止めたのであった。
『ご心配なくコユキ様、この方は敵ではありません、我々の主、神でございます』
「そうなの? んでも――――」
「へぇ~! アーティファクト化したのにまだ意思が残っているなんて! 一体どう言う事だい?」
コユキが言い終わるよりも早く、正一と名乗った神が驚いたように言った。
その声に綱(つな)が答える。
『どうもこうも、普通に話せますし考えられましたよ? おかしいんですか、これって?』
「勿論だよ! 君達みたいな英雄を人々が崇めて出来た信仰の力、それがクラックに縛られていた君達の状態、『御神体』って状態だろ? それを持ち出し可能な聖遺物、アーティファクトに変えるのが俺の能力なんだぜ? 物質、つまりは物だ、モノが話すなんて普通じゃないに決まってんだろうが?」
『『『『…………』』』』
『聞いてねーぞ、毎度毎度説明不足の後出しジャンケン野郎め』
「その悪態は公時かい? 君こそ相変わらず態度悪いね? それに説明なんて要らないだろう? なにしろ君達は僕の下僕(げぼく)なんだから!」