朝からずっと心臓が落ち着かない。今日は、決行日当日だ。心臓がどくどくと煩くなるほど喚き続ける。ローズを別に好きなわけじゃない。ただ本当に実現しなければならないのか分からない、見えない目標を目指すのが辛かった。だからローズに再会したとき、安心した。だから、この心臓の鼓動も、ようやく全てが終わる歓喜からだと思っていた。
ジハード「ローズは…まだか。」
目立たないよう、身を隠せる場所に最適ということで、砂漠のあの場所へ赴いた。相変わらず心臓は煩いままで。
ジハード「……。」
ふと、嫌な予感がした。これは警告なのでは、と。
手を合わせ、祈る。何度も祈ってきた言葉を紡ぐ。
ジハード「『全ての苦悩は幻であり夢である。何も恐れることは無い。身を委ね、ただ眠ればいい。ただひとつ…”魔力”を除いて。…おやすみ。』」
ローズ「遅れてごめんなさいね。」
ジハード「随分遅かったな。」
ローズ「考えごとをしてたの。じゃあ今日のおさらいから話しましょうか。」
ジハード「ああ。」
ローズ「今日、恒陽の国では暴動がおきる。それが合図。合図が来れば貴方はその魔法で出来た獣を出して。移動に時間をかけてしまうけど、仕方ないわ。」
ジハード「暴動が起きるのは本当か?」
ローズ「疑ってるの?確かな情報よ。確かにぽっとでの情報。私達からしたらひょんな幸運だものね。でも大丈夫。これは、私の弟に対する予測よ。」
ジハード「分かった。他には?」
ローズ「もしここに、ヒトが来てもなるべく魔法は使わないで。戦わないで。貴方はできる限り避け続けて。消耗を防いで。私が貴方を守るから。」
ジハード「そうならないことを願う。」
ローズ「照れてるの?」
ジハード「まさか。ぞっとしたな。」
ローズ「連れないのね。ジハード。」
ジハード「なん…」
顎を掴まれ強制的に、視界に見えるものをひとつに絞られる。最後に見たのは、歪なローズの瞳孔だった。
ローズ「やりなさい。」
その声だけが聞こえて。
気がつけば、砂漠の洞穴に居た。
ジハード「終わったな。」
ローズ「そうね。」
あの最後から記憶は飛んでいる。ただやり遂げたんだということだけは、自分の保有している魔力の高さから分かった。
ジハード「約束は果たした。」
ローズ「そうね。」
ジハード「…俺は本当に馬鹿だな。他の奴らのように頭を上手く使うなんて無理だった。」
ローズ「…努力はしてたと思うわ。ただ、私のが上手だった。それだけ。」
ジハード「…まさかお前に褒められるなんてな。」
ローズ「ご苦労様。後は貴方はここで、のんびり余生を過ごせばいい。」
ジハード「…あぁ。」
分かってる。嘘なんだな。
ジハード「俺を殺せば、お前の計画は台無しになるんだぞ。」
ローズ「そうね。」
怒りがふつふつと湧く。裏切られたことへの怒りじゃない。ローズにとって、言葉はただの道具に過ぎない。それを分かっていながら、信用し始めていた自分が許せなくて、怒りが湧く。どうして。そんな疑問だけがあって。そうだよな。魔法が使えなくなったなんて、お前は1度だって言わなかった。
オケアノスみたいに強くない。ヒュディのように賢くもない。
ジハード「痛いのは大っ嫌いだ…!!」
それでも、この意地だけは。
誰にもきっと負けない。
腹に熱がこもる。
血が流れでる。
ジハード(あ、まずい。抜かれたら)
あっけなく、腹から剣が抜かれる。
それでも。
生きてる。
まだ生きてる。
腹を刺されたってまだ生きてるじゃないか。
それだけで上々じゃないか。
それだけ条件が揃っていれば、9年前の出来事の再現だって。
ローズ「ああやだやだ…」
誰だあれは。
黒髪に金の瞳を持ち腰に剣を携えた青年と、ターバンで巻かれた頭から灰色の髪が覗く水色の瞳を持つ青年が目の前に立っている。
何故この場所が分かったのか。何故こんなにも早く来れたのか。いや待て。そもそも、
何故起きている?
まさか。
ありえない。
そんなまさか。
ノア「復活!してない無理気持ち悪いぃ…。」
ノアはがばっと体を起こし、高らかに声をあげたかと思えば、急に顔を伏せ愚痴をこぼす。
ジーク「だ、大丈夫か…」
ノア「記憶の中で何度も殺されたよ…」
ジハード「あっ。すまない言い忘れてた。」
ジーク「手遅れだな…。」
ノア「……。」
ノアは青ざめながらも、ローズの方を見る。
ジーク「大丈夫だ。席を外してもらってはいるが、定期的にルス…灰色髪のヒトが確認しにきてる。丁度起きるタイミングで来て気絶させて行ってる。」
ノア「なにそれすごい。」
ジーク「それに…なにかされそうになっても、先に気づいて警告してくれる奴が居るからな。」
アリィ「おはようノア。私達寝てたってのは聞いたけど…後はノアが説明するってジークに言われちゃって。」
ノア「…説明するのはいいけど…ボクを信用するの?自分で言うのもなんだけどボク凄く怪しいよ?」
アリィ&ジーク「知ってる。」
ジーク「でも俺らの寝首かけるチャンスはいくらでもあったろ?アカネ君の件もあるしな。」
アリィ「ジークがここまで言うからね。聞かせて欲しいな。」
ノア「分かった。でも話すより直接追体験した方がいいと思うけど…」
アリィ「殺されるような記憶はもう十分でーす。」
ノア「そもそもなんでボクに記憶を覗かせたのかも分かってないんだけど…」
ジーク「嘘をつかれたりされちゃ困るだろ?」
ノア「…多分嘘はひとつも言ってないと思うよ。嘘をつくような気力がもうない。…とりあえず話すね。」
アリィ「9年前、時の国を巡回していた兵士に運悪くも見つかる。で、その兵士が当時の団長であった第1王女のローズ殿下。ジハードさんの魔法の有用性に気付き、取引を持ちかける。」
ジーク「取引っていうかただの脅しだけどな。」
アリィ「その1年後、ローズ殿下は過労により亡くなる。亡くなったと同時に、恒陽化の本格始動。同時期に第1王子の失踪…半年後、永夜の国が建国される。」
ジーク「この辺はキールに聞いた方が早いだろうな。」
アリィ「なんで?」
ジーク「当の本人だからだよ。」
アリィ「え゛っ゛」
ノア「聞いたことない声出たね。」
アリィ「キールはローズ殿下なんだね…」
ノア&ジーク「違う違う違う違う。」
ノア「王子様ね。」
アリィ「あ、そっちか。ええと…作戦決行したのが今日…なんだよね?思ったんだけどさ…暴動って…」
ジーク「間違いなく俺達のことだろうな。合わせてくるのは夢にも見なかった。一体どうやって知ったんだ?」
ジハード「さぁ…俺もローズから聞いただけだからな…。」
ジーク「ノアは…いや検討つくわけないか。留守番してたし。」
ノア「寝てたねぇ。」
アリィ「もうあんまり夢の内容覚えてないけど…元は現実だったんだよね…。」
ジーク「混乱するだろうし、まだ休んでいるといい。」
アリィ「ジークが魚を食べて死にかけるのも現実だったんだ…よかったぁ夢になってくれて。」
ジーク「…お前さては2度寝してたな?」
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