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緑山 紫苑
「買うもんはこれくらいか?」
「ん〜……紅茶の葉と、卵と塩と……これで終わりかな?」
小さなメモに目を通すニティアと袋を肩からぶら下げたフィニス。
必要なものを買い終えた2人は、村の人たちと少しばかりの雑談をし、帰路に着いた。
「この道はそっちゅう歩いて通るし……真新しい発見なんてそうそう無いよな」
「そう言うのも含めて経験なんでしょ、同じ道でも季節とか天気によってだって景色は変わるし」
「まぁ…言っている側から雲行きが怪しいんだけどな……」
空を見上げるニティア。
村を出る時まで雲ひとつなかった青空は、黒い雲に覆われていた。
「いつの間に……雨に降られる前に急ぎましょ!」
「んだな!」
そう言いながら、家までのいつもの道を走り始めた。
⸻
ザー……
「くそっ!もう少し耐えてくれればギリギリ間に合ったのに!」
村で買った物を入れた袋。それを濡らさないように胸で覆いながら走るフィニス。
卵が入っているせいで全力で走れないのが歯痒かった。
「大丈夫か?」
息を切らしながら、フィニスの後ろを走るニティア。
「はぁ……はぁ……あと少しだから……大丈夫……!」
玄関前にたどり着いた2人。
「うわぁ、びしょびしょ……」
「はぁ……はぁ……ほんと最悪……早く着替えたい……」
ガチャっ
「ただいま〜」
「はぁ……ただいま帰りました……」
静寂に包まれる。
「先生?」
「ジャヌスさん?」
ドアを開けた瞬間に漂ってくる紅茶の香りと……
差し出される暖かいカップ……
そして【おかえりなさい】の声……
いつもの光景がなかった。
「出かけてるのかな…?」
テーブルの上には空っぽのカップが2つ。
読みかけの魔導書もそのまま。
違和感を感じるフィニス。
「先生!」
返事がない……
「びっくりした!何よ急に!」
裏庭へ続く扉が開いていることに気付いたフィニスは、そのまま裏庭へ走り出した。
「……フィニス?」
⸻
ザー……
裏庭でしゃがみ込んでいるフィニス。
後ろからニティアがやってきた。
「いきなりどうしたのよ!またび……しょ……」
フィニスの目の前。
見慣れたローブ。
「え……」
仰向けで倒れている女性。
「なん……で……?」
状況が読み込めない。
思考が停止したニティアが、フラフラとその隣に崩れるようにしゃがみ込む。
ジャヌスの左手首に指を当てていたフィニスが首を横に振った。
「ジャヌス……さん……」
状況を理解したニティア。
「いや……いやだよ……」
ジャヌスの胸に顔を埋めた。
「せん……せ……」
ジャヌスの左手を両手で包み込み、額に当てるフィニス。
傷ひとつ見当たらない……
まるで眠っているような……
安らかな顔をしているジャヌス……
降り続ける雨……
2人の声は……
雨音にかき消され、森の中へ消えていった。
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