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「おーい!誠ー!」
「一緒に帰ろうぜー!!」
――ある日の昼下がり。
いつも一軍の真ん中で居座っている俺―――誠(まこと)は、親友の輝(てる)らに誘われ、帰り道を歩いていた。
俺はクラスの中心人物と言っても過言では無い。
自分で言うのもなんだが、それくらい目立ちたいのだ。
だから生徒会を務めてみたり、学校の行事の提案をしてみたり___
と、様々なことに挑戦する姿を見せている。
―――そんな今日も、変わりなく時が過ぎていた。
いつもの帰り道。
いつもの狭い路地。
そのはずなのに、今日はどこか静かな気配を感じる。
こんなにも静寂に包まれた我が町は見たことが無くて、少し不気味な雰囲気を、薄々感じ取っていた。
「あ、輝!」
先を行く輝に声を掛ける。
「俺、ちょっと御手洗い行きてぇから、先行っといてくれ!」
「すぐ追いつくから!」
「ん、珍しいな」
「良いぞ、ゆっくり進んどく」
「了解!」
俺は、近くの公園の公共トイレを利用した。
―――そして御手洗いが済むと、俺はすぐさま駆け出して、輝に追いつこうとした。
だが、そこでとあるモノを目にしてしまった。
見てはいけない事だったのかも知れない……
俺がふと視線をずらすと、公園内にある巨大な岩の後ろに影が見えたのだ。
その影はゆっくりと動いている。
興味が沸いたので、恐る恐る岩に近づいてみる。
今まであまり感じていなかったが、真下から見ると本当に巨大な岩だ。
人間とはちっぽけな生物だと、感じてしまう。
____そして岩の後ろを覗こうとした瞬間
靴紐がほどけていたせいで、それを踏んで派手にこけてしまった。
大きな音と声が響く。
「(まま、まずい…!!バレちまう…!!)」
咄嗟に逃げようとしたのだが、何故か俺の足はテープで固定されたかのように動かない。
いや、動けないのだ。
後ろを振り返ると、そこには女が居た。
どこか見たことのある顔。
じっと顔を見つめ、必死に思い出そうとする。
だが、思い出す前に女が声を出す。
「……バレたか」
「(………)」
たった一言だった。
なのに、その言葉一つ一つがずっしりと重い。
まるで普通の人間とは思えない声だ。
この声を色に例えるとするのならば、「濡羽色」辺りだろうか。
「あんた、確かクラスの誠とかいうやつよね」
「え……?」
「返事くらいしなさいよ」
「そ、そうです……」
「あたしゃあ、同じクラスの梢(こずえ)よ」
「こ、梢……さん?」
「まあ あんたは知らないかも知れないけどね」
俺はここで、ようやくピンと来た。
同じクラスだが、いつも端で読書していて、誰とも話さずに生活している「吉沢梢」だ。
知らないわけがない。
彼女は長髪で、座れば床に髪がつくぐらいの長さを持っている。
更に目は灰色で、その裏からは人間では無いオーラを感じさせる。
だがマスクを付けているため、素顔を見たことは無かった。
クラスで浮いている存在、といった所だろう。
…………そんな彼女の裏側は、こんなに恐ろしかったなんて―――
今はマスクを外しているから分かる。
おかしい部分が。
さっき、彼女は「バレたか」と言っていた。ニタニタと笑っていたのだ。
口を大きく開く彼女。
その時に見えてしまった。
____狼のような牙。
そして今彼女は、剥き出しにしている。
____狼のような耳。
そう。
間違いなく、彼女は…………
人を食う狼だ