テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#明太子に食われる鈴木
明太子に食われる鈴木
4,611
他界隈浮気野郎その名もねねんこ
431
2,106
232
今日は華咲く金曜日
短針が真下を指す頃、俺は上機嫌で廊下を闊歩していた
目指すは“欧州部”の部屋
ノックもそこそこに扉を開けると、そこには仕事を終えたばかりのロシアと、俺に気づいて慌てて逃げようとするフィンランドの姿があった
逃がすわけがないだろう
大股で距離を詰め、フィンランドの後襟を容赦なく引っ掴んで引き寄せる
さらに、ようやく事態を把握したロシアの首根っこを捕まえ、二人の肩に無理やり腕を回した
「お前ら、飲み行くぞ」
もちろん、”いつもの店”だ
その言葉に、露骨に嫌そうな顔をするフィンランド
「嫌だ。日本にお前らみたいなやつと同類だと思われたくない」
「俺だって猫被り激重ストーカーとイカレサイコクズと一緒にされたくねえよ」
吐き捨てるよう応戦したロシアに、フィンランドの機嫌がさらに悪くなる
「はぁ?黙ってろ脳筋ムッツリ暴君」
「…てめぇらイチャついてないで行くぞ」
ぶつぶつと文句を垂れる息子どもの首を掴んだまま、俺は夜のオフィス街へと繰り出した
…二人分は流石に重いな
数分も経たずにたどり着いた、俺らの溜まり場───カフェ『ヒノモト』
片足でドアノブを押し下げて、半ば蹴破るように扉を開ける
「よっ、日本。邪魔するぜ」
突然の爆音に客たちが驚く中、入り口に居た日本が呆れた顔で駆け寄ってきた
「もう…足でドア開けないでって、何回言えばわかるんですかソ連さん…」
「両手塞がってるんだからしょうがねえだろ」
脇に抱えた息子たちを適当に投げてやる
重たい荷物が減って急に体が軽い
床に打ち付けられ呻く声へ駆け寄る日本
その肩に腕を回して抱き寄せた
「いつものやつくれ」
「またウォッカですか…そろそろ禁酒したらどうですか?健康に悪いですよ」
心配そうに眉を八の字にする日本
その小言すら心地いい
「というか、お酒飲むなら居酒屋の方がいいのでは?」
「いいじゃねえかカフェで酒飲んでも」
「雰囲気ってものがあるじゃないですか」
禁酒の勧めは綺麗に右から左へ聞き流す
日本が付きっきりで手伝ってくれるってなら……考えてやらんこともない
「日本…俺も一本くれ」
「俺にも一つ」
のそのそと床から起き上がった二人が、嫉妬の炎を目に宿しながら日本の元へにじり寄る
「はいはい、とりあえず三本持ってきますね」
するりと背に回った日本は俺たちの背を押し、奥の席へと案内した
素っ気ないまま厨房に戻っていく日本が、長年寄り添った妻のようでいいな、なんて思う
言葉を交わすことなく、三人でひたすらウォッカを煽る
テーブルには瓶とグラスばかりで、料理は並んでいない
なぜなら俺たちは、ホールで忙しなく動き回る日本を”極上のツマミ”にしているのだから
あの健気な後ろ姿だけで、ウォッカ10本は余裕で空けられる
ふと、店内が妙に静かなことに気づいた
金曜の夜だというのに、もう他の客の気配がない
「あれ、店ん中静かになってんな」
「今日は早めに店仕舞いしたんですよ。貴方達、酔うと突然騒ぎ出すでしょ」
お客さんが怖がってましたよ
追加のウォッカ瓶を持ってきた日本が、はぁ、と今日何度目かの深い溜息を溢した
「この間ураааа!!って叫びながら店の外に出ていったの忘れてませんからね」
「あーそうかあ?」
それらしき記憶がある気もするが…忘れた
そんなことはどうでもいい
俺は日本をひょいと持ち上げ、自分の胡座の中にすっぽりと収まらせた
「店閉めたなら仕事はもうないんだろ?じゃあお前も酒飲めるな」
「ちょ…!!私これから明日の仕込みしなきゃで…」
「釣れねぇこと言うなって」
「ほら、俺の酒やるよ」
赤子に乳をやるように、グラスを唇に当てさせ一気に傾ける
「んぐっ!?ん……んぅ…っ」
溢れ出そうなそれに反射的に開いた口が、こくり、こくりと透明のそれを喉へ流し込んだ
高濃度のアルコールが日本の細い喉を焼き、白い脳を瞬時に侵す
俺が大半を飲み干していたから量は少ないものの、グラスが空になる頃には、日本の体も思考も、すっかり芯が抜けていた
「うぇ…っ…それんさん…ひどい、ですよぉ」
口の端から垂れる酒、舌っ足らずな口調、紅潮した頬
──どれを取っても情欲を煽るには十分すぎる
ゴクリと息を飲む音が三つ、静かな店内に響いた
「Хаxa, ты такая красивая♡Будь моей.
(ハハ、可愛いなぁ♡俺のものになれよ)」
「ん…?なんていったんですかぁ?」
「…わからないなら、体で教えてやる」
凭れる背に手を添えて、顔の距離を詰める
そのまま濡れた唇に食らいつこうとしたが、奴らが許すわけもない
一瞬の隙を突いて、ロシアが「日本、色々危ないからこっちに来い」と奪い取るように抱え、遠い場所へ避難させた
チッ、せっかくいい所だったのに
「親父が酔ってて本当に良かった……この店を事故物件にするわけにはいかねえ」
奴は自分を棚に上げていることに気づいていない
「あ〜ろしあさんだぁ…」
アルコールが回ってきたのか、日本は緩い口調で分厚い胸板に頭を押し付け甘えるように擦り寄る
その姿はまるで懐っこい猫だ
「へへ、あったかい」
にへらと幸せそうに笑う日本
想い人の可愛らしい行動に胸が撃ち抜かれたとでもいうのか、必死な呻き声が漏れ出ていた
「酔うともっと可愛くなるんだね」
その間にも、日本の目の前でしゃがみ込んだフィンランドが、愛おしそうに赤らんだ頬を撫でる
「ふぃんらんどさん?」
「お水持ってきたから飲みな。少しはマシになると思うよ」
常温の水が入ったグラスを覚束ない手にしっかり持たせ、その手を固定するよう両手で包む
「んふふ、ふぃんらんどさんはやさしいですねぇ…ぼく、ほれちゃいそうですよ〜」
「えっ!!!?」
驚いた拍子にグラスの水が少しこぼれた
ふにゃりと微笑む彼の脈アリな言葉に、嬉しさと愛おしさで震えが止まらない様子だ
「日本、そういうことは俺に言え。このチェリーボーイには刺激が強すぎる」
「誰がチェリーボーイだ撃つぞ」
「Ваша маска снята.Вы хотите, чтобы Япония видела, как вы плохо выглядите?
(化けの皮剥がれてんぞ、日本に格好悪い姿を見せていいのか?)」
「Ole hiljaa. Kauanko aiot pitää Japani ta kiinni? Ota likaiset kätesi irti minusta niin pian kuin mahdollista!
(黙れ。というか、いつまで日本を抱いてるつもりだ。一刻も早くその汚ぇ手を退けろ)」
殺気と罵詈雑言が飛び交う頭上
それでも日本はロシアの膝上でちびちびと水を飲み、ニコニコしている
きっと奴らの喧嘩が小さな白熊と雪豹のじゃれ合いに見えているのだろう
二人を眺める目は完全に、微笑ましいものを見るものだ
「なんだかたのしいですねぇ…もっとのみたくなってきました」
覚束ない足で膝の間から立ち上がり、お酒をもらいに、遠くから様子を眺めていた俺の元へ向かおうとする
「っまて!これ以上は…!」
力がうまく入っていないフラフラした姿勢
案の定、足がぐらつき、体が崩れ落ちる
「あ、危ねぇ…」
だが、その体は床を打つ前に、フィンランドの腕に収まっていた
ギリギリ受け止めた体を自分に寄りかかるよう抱き直す
「日本、どうするか…」
「店に置き去りにするわけにはいかないし…」
日本を人形のように抱きしめるフィンランドと、日本の頭を撫でるロシア
俺は立ち上がって、二人の元へと歩む
「家に連れてけばいいじゃねえか」
俺の意見に、フィンランドが困った顔をした
「俺たち日本の家の場所知らねえけど」
「なんだ、お前ストーキングしてるくせに知らねえのか」
「してねぇっつってんだろ」
白い手が怒りを露わにしてロシアの胸ぐらを掴む
…なんだかすごくデジャブな光景だ
「あれは保護活動であってストーカーじゃねえし、プライベートは侵害してねえよ」
「それを世間ではストーカーというんだ」
どれだけ喧嘩すりゃ気が済むんだこいつらは…
あとそれは立派なストーキング行為だ。反省しろ
思わず、大きな呆れのため息が漏れる
「何馬鹿なこと言ってやがる。家っつったら俺らのだろ」
「「はぁ???」」
日本が酔った辺りからこうなることを見越して迎えを呼んでおいた
店の前にはちょうどよくタクシーが待っている
店の鍵を拝借ししっかり施錠した後、後部座席に息子たちと日本を乗せる
起こさないように頼む、と伝えると、車は静かに家へと向かった
翌朝、寝室のドアの隙間から、中の様子を覗く
その時、丁度目が覚める日本
自分の部屋でも店でもない、知らない部屋
ブカブカの寝間着
そして、両隣で眠るロシアとフィンランド
いつもと違う風景に混乱しているみたいだ
初めて家に来たペットみたいで可愛らしい
完全に起きた日本は、息子たちを起こさないよう慎重に腕をどかし、上半身だけ起き上がる
よし、今だ
自然なタイミングで部屋へと足を踏み入れた
「おはよう、調子はどうだ」
手には、頭痛薬と水の入ったグラス
頭痛薬は日本が会社で飲んでいたものと同じのを用意した
そのことに気づいて疑念の目を向けられたが、俺はストーカーじゃない
捨てた剥き殻を見て、名前をたまたま覚えてただけだ
「あまり良くはないですが…耐えられなくは無いです」
受け取った薬を飲み込んでにへらと笑う日本へ、そうかとにこやかに微笑んでみせる
その顔のまま、両隣に眠る息子たちを躊躇いもなく足蹴にした
「おいバカ息子共起きろ、飯できてんぞ」
ドカッバキッと物騒な音が鳴り、痛そう……と耳を塞ぐ日本
だが俺らにとっては日常茶飯事
こんなので怪我するほど、こいつらはヤワじゃない
「いってぇ!起きたから!蹴るな!」
「ん゛…いぽにゃ、はなれるな…」
嫌々ながら起きて日本の肩にもたれかかるフィンランドと、ゆるゆると腕だけ伸ばして腰へ抱きつくロシア
「蹴られてるのに良く寝てられますね、あなた」
「日本、そいつ起きてるぞ」
狸寝入りするなと鋭い視線をロシアに刺す
しかしあいつは腹に顔を埋めたまま離れなかった
「起きてない。寝てる」
「完全に起きてるじゃないですか」
日本は腕を伸ばし、何とかグラスをサイドテーブルに置く
その視線が戻った瞬間、俺は僅かに目を丸くした
「早くご飯食べましょ」
肩と腹に乗せられた頭を撫でる日本
その様子はまるで母親と子供だ
この家でこれほど平和な光景が見られるなんて思ってもいなかった
………それはそれとして、こいつらばかり構うのは気に食わねえ
俺の腕はすでに日本の両脇へと手を差し込み、細い体を持ち上げていた
「うわっ」
「早く支度しねえと俺が“全部”食っちまうからな」
抱えあげた日本に顔を寄せて、舌なめずりを一つ
直後、部屋のドアを開け、全力で駆け出す
背後からは、地を這う怒りの声と、雪崩のような轟音
──さあ、楽しい駆け落ちの始まりだ
コメント
7件
日本ママ可愛いなぁ……肩と頭に乗った頭をぽんぽん…。(煩悩の塊) よってそのまま連れ込まれてるの可愛いなぁ…… 頭をぽんぽん… というループを繰り返してますね…(??) 日本がママだったらソ連さんが旦那さんでもいいんじゃないか……??
やぁぁああッ!?通知来て興奮しながら見ました✨️甘えるフィンとロシアが可愛すぎですし、酔ってる日本が天使です😭ソ連さん母親みたいな日本さんみて染み染みとしてるの死にます……早く見れて良かったですッ!!
わあ……もう第6話、めっちゃ面白かったです! ソ連さんたちの“日本さんへの執着”が、酔っ払いの触れ合いの中に滲んでて、読んでてドキドキしました。特に、みんなで日本の家を知らないくせに「俺らの家」って言い放つソ連さんの台詞、あれ痺れましたね……ずるい。 最後の“駆け落ち”の宣言も、嫉妬と独占欲がにじみ出てて、思わずにやけました。次話が待ち遠しいです!