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やっぱり、久々に飲む酒は美味い。
このガヤガヤとした空間と大きなジョッキだからこその魅力だろう。だが、何故だろう。いつもよりも酒が甘い気がする。
メニュー表を何回も見直してみるが、自分が頼んだものに間違いはないことはとっくに承知している。
酔いが廻ってきた華のような頭のまま、耳に入るのは聞き慣れた高い声。
「どーしようかなぁ…。」
その人は隣で空っぽのグラスを持って悩んでいるようだった。
「なに?頼むの?」
ヘラりとそっちを見て意地悪っぽく言ってみると、「うーん……悩んでる。」とこっちの様子も気に止めないで真剣に話してくる。
そんなもん一杯でも二杯でも頼んでおけよ、と言いたかったが、テーブルにあるバラエティ豊かなつまみを見たらため息しか口からは出なかった。
そんなことになった原因のやつをじろりと、うざったそうに見ると、眼中にも無かったのに急に捉えてきた。え、なに、怖いんですけど。
「何?」
「え、あー…。この頼み方腹立つからちょっとガン飛ばしてた。」
「俺に?」
「おん。」
「全部いつも食べるんだからいいじゃん」
それ、皆が苦しみながら食べてるのを何度経験したことか分かって言ってんのか?
罵倒の言葉を投げかけようとしたが、直ぐに違う方へ目線は向いていて何処か虚ろな目に蠟燭の火がついていたような、そんな感じの目線だったのでやめておいた。
……あー、なんっか空気が甘ったるい。
「……俺は」
何処となく、この空気に憧れていた。
何度、この空気をあの人と出来ればと押し込めながら考えたことだろう。
誰にも聞こえないような声で呟いて、言いたいことは心の中で吐き出した。
「?どしたの、うっしー?」
「…ん?どゆこと?」
あっけらかんと隣の奴の顔を見つめると一拍悩んでから「重い声がしたから」と返答が帰ってきた。
お前、時々勘がいいの何なの。絶対聞こえてなかったでしょ、そんなガチの心配の目で見ても何もないよ。
溶けた氷の音が響いて頭が痛い。もういっその事と思い、酔いに任せて力を抜いてみると、自分の目線はあっさりと、ある一人の方に向いてしまった。
その先はさっきから酔い潰れてキヨにうざがらみしているおっさん。ついでに付け加えると、俺の元恋人。
何でこの人を好きになったか分からない、とは今更言えっこないんだけど、フラれたときは悔しかったし、そりゃそっかって諦めるしかなかった。
「…ほんまに大丈夫?」
「……え?」
今一人語りしてたんだけど。さっきよりも辛そうな顔で見てんの意味分かんないんですけど。
すると、隣の奴は徐に口ごもんで呟いた。
「だって…うっしー、泣きそうだもん。」
その妙に優しい声色を聴いたとき、目頭がきゅっと熱くなった。
大人になって泣くことはそんなに、ていうか本当に無くて、こんな騒がしい居酒屋で泣きそうになるなんて想っても見なかった。
「あ…そうや、うっしー。」
「…?」
涙を堪えようと必死な俺に対して、その様子を気遣ったかのように話を逸らす。
あからさまだけど、優しいと思わざるを得なかった。
「ゲーム機、持ってる?」
「…持ってるけど」
「ゲーム、しよ」
変わらぬ顔色で見せてくる画面は見慣れたもので、本当に和やかに過ごせた。
こいつの何ら変わらぬ様子で接してくれる優しさが、嬉しかった。
「…俺さ…フラれたときね。」
「うん。」
「『愛してよかった』ってさ、言われたんだよね。」
「…いい人じゃん。」
「そう…?なんか…俺にはさぁ…無理矢理愛してました感が強すぎでさ。…グッッとなったよね。」
「高望みしちゃだめだよ。言ってもらえるだけ幸せなんじゃん。」
「それはそうなんだけど…。『愛せてよかった』って言われた方が…こう…無意識に愛に向いてましたって感じがするのよ。」
「…なんとなく、言いたいことは分かるわ。」
「だろ?」
あぁ、何でこんなにもペラペラと。
俺とあの人の過去は開けたくないのに。
何で自分から開けてるんだ、俺。
「……レトルトさんはさ、『愛してよかった』って言われて、後悔しない?」
「…多分ね。」
俺、そんなこと言われる相手いないし。
毒が溜まりきって腐りきった、諦めているようなそんな顔で一瞬告げた。
分かっちゃったかも、俺。
此奴を、こんなに優しい人を、後悔させたくないんだ。毒は強いけど普通に優しくて、人生楽しそうな此奴を、護りたかった。
そんなとき、不意に目が合う奴。気づいてないふりをして逸らしたけど。
お前、伝えるんだったら言葉、間違えんなよ。
応援は一応、してるから。
ーーー
続