「トムと申したな?喜べ。お前の後ろ盾に、王国にその人ありと言われておるこのワシ、ハリノ・ムシロ公爵が付いてやるぞ!」
倉庫内でそんな風にいきなり言われてもなぁ……
俺へ向けて偉そうに言ってくる壮年の男はどうやら公爵らしい。
兵も何も言わないから事実なのだろうが……
針の筵って…えらく肩身が狭そうな名前だな。
「我が公爵家の屈強な兵達を見ては声も出んか。まぁ仕方なかろう。コイツらはあの連邦を退けた少数精鋭だからな」
何か言っているが、どうでもいい。
コイツは国を守ろうと心血注いでいる軍務卿達の努力や思いを踏み躙っている。
ただそれだけのゴミだ。
「ワシは軍務卿より高値で買うぞ。有り難く品を出せ」
「…ここにあるはずのモノがないのだが?」
「漸く口を開いたか。不遜な物言いだが、ワシは器が大きいから許してやろう。あんなゴミではなく、ワシなら金銀財宝を対価に贈ってやるぞ?さあ!あの爆発する武器でも構わん!持っている物をだせっ!」
金銀財宝?それはいらんな。
カガリ軍務卿が嵩張るあの品々を何故対価に差し出しているのかも調べていないとは…コイツはゴミ以下だ。
「ほらっコイツだ」ポイッ
俺は武器をゴミに投げ渡した。
何だかんだと言いビビっているのか、俺から10m程距離を取っている公爵は、投げ渡された武器を何とか落とさずにキャッチした。
「おっ…と。ん?これは…」
「お前が欲しがっていた手榴弾だ。安全ピンを抜いたな」
人生最後の疑問くらいには答えてやろう。
俺は優しいからな。
「えっ…」
ドンッ
「ギャーーッ!?」「い、いてぇ…は、破片が…」「何が起こった!?」「公爵は!?」
公爵はその辺にぶちまけられたよ。
お前の鎧にくっ付いているのが公爵の目ん玉じゃないのか?
俺は耳を塞いでいたが、兵達はそんな暇もなく、恐らく今は何も聴こえていない状態だろう。
思い思いにのたうち回ったり、何が起こったのか分からず立ちすくんだりしている。
そんな兵達へと、俺は魔法の鞄から剣を取り出して斬りかかる。
別に素手や魔法でも良かったが、これから殺されることを最後の情けとして理解させてやる。
こんな奴に仕えているが、連邦と戦ったらしいからな。
・
・
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全ての兵を斬り殺した俺は、血に塗れた身体を隠しもせず倉庫を出た。
そこで見た光景は先ほどとそう変わらなかった。
「と、止まれ!」
俺に静止の声を掛けるのはまたも王国兵士。
あれだけ大騒ぎしたのだから、兵達が集まっていても不思議ではないか。
「大きな音と悲鳴の様な声が聞こえたと通報があったが…何があった?」
「軍務卿との約束では”誰もいないはずの倉庫“に人がいたんでな。……殺した」
「「「「っ!!?」」」」
兵達が息を呑む音が、少し離れたここまで聞こえてきた。
「こ、公爵様が静止を振り払って入られたが……」
「ああ。ムシロ公爵か?」
「そ、そうだ。まさか…」
「死んだよ」
「……」
俺が突き付けた現実に先程よりも動揺は感じられなかった。
軍務卿は知る由もない俺達の本当の強さだが、不気味さは兵達にしっかりと伝えていたのだろう。
『何をするか分からん奴ら』と。
「軍務卿に伝えといてくれ。今回の取引違反はアイツの独断ということで大目にみてやる。
それから足りない分は請求はしない。元々次はないが、次もないとしっかり伝えておいてくれ」
取引はこれで最後だが、次の舐めた王国の行動は取り返しがつかないことになると釘を刺しておいた。
「わ、わかった」
「じゃあな」
俺は兵にそう告げると、街の中へと姿をくらませた。
「馬鹿な奴だね」
城に戻ってきた俺の顔を見て、聖奈が事情を聞いてきた。
俺自身では分からないが、目が怖いらしい。
他の仲間にバレると心配をかけるから、とりあえず話して楽になってとは聖奈の言葉だ。
そんな聖奈に今日あった出来事を話したら、確かに心が楽になった気がする。
「そうだな。どんな国にも自分勝手なことをする奴の一人や二人はいるな」
「うん。ウチにもいるにはいるしね。まだ何もしてないけど」
それは聖奈さんが怖いからでは…?
恐怖政治万歳。
ついつい『さん』付けになってしまったぜ……
「でもニシノアカツキ王国は他国だからセイくんが我慢する必要は全くないね」
「ああ。だから殺したんだ」
嘘です。多分自国で同じことがあっても、何も考えずに殺してました。
いかんな……
魔力依存症になってから短絡的になっている……
後悔は微塵もないからいいけど。
「向こうの国の為にもなったんだから、あまり気にしたらダメだよ?」
「そう、だな」
あんなダメ貴族にもその死を悲しむ人がいるのだろうか……
魔力が渦巻き短絡的な行動をしたけど、後からこんな風に悩むんだから、俺って小者だよな。
誰だよ、こんな俺を王様にした奴は……
まぁ小者な俺は魔王様に文句など言えぬが。ぐぬぬっ……
聖奈に話を聞いてもらい表情が柔らかくなったところで、他の仲間達の待つリビングへと向かうことになった。
「じゃあ、また在庫が増えたんだな?」
俺の報告を聞いたライルが、嬉しそうに成果を聞いてきた。
誰だよ、こんな根っからの商人に剣を持たせたのは。
「ああ。その表情ってことは、あの王国の商品は売れているのか?」
「売れてるってもんじゃないぜ?エンガード王国の王都支店や水都支店、その他の支店からも在庫がないか問い合わせの書状が届いてるぜ」
「おお。凄いな。手紙なんて届くのに半月近く掛かる所もあるのに」
バーランド王国内であれば、他の国と比べて手紙が届く早さは速達くらいの早さがある。
つまるところ、他国は相変わらず遅い為、在庫確認の手紙を送ったところでかなり待たないといけない。
それでも確認の手紙を送るくらいだから、まだまだ売れると見込んでいるのだろう。
この話を聞いただけでも、王国と取引したのは良かったと思える。
しかし……
「悪いな。色々とあって、今回は少し少な目になっている」
「ん?構わねぇよ。嬉しいのは嬉しいけど、一流の商人は商品を選ばないっていうしな」
誰だよ、コイツにバイクなんかあげた奴は。
ツーリングにハマらないで仕事してね?
「次に地球へ行くのはいつです?」
「…配送では定期的に行くが、長居する予定はないな」
エリーは地球のスイーツにしか興味を示さない。
ブレないっていいね。おじさん安心するよ。
「ヨーロッパの各支店で話し合いましたが、丁度良い感じに残る人と独立する人が立候補で分かれました。
つきましては私の業務量が著しく下がりますので、こちらの業務に復職しようかと考えています」
…ミランさん。そんなに急いで大人にならないでください……
エリー程子供のままでいられても、聖奈が困るだろうが。
「ミランちゃん。それは少し待って。して欲しいことがもう少しで出て来るから、それをして欲しいの。間違いなくミランちゃんがしたい仕事だから、それまでは秘密だけどねっ!」
「そこまで言われると気になりますが……わかりました。フランチャイズ化が終わるのを楽しみにしておきます」
堅い……
まぁ元々堅かったし、委員長タイプのミランには似合っているけど……
聖奈が何を企んでいるのかは全くわからんが、まぁ悪い様にはしないだろう。
「話は戻りますが、王国は連邦を攻めるのでしょうか?」
「間違いないよ。これで攻めなかったら、身元不明の私達から武器を買った意味がなくなるもん。
問題はそれがいつになるのかだけど、私達を探していたくらいだからそれも問題なさそうだね」
「どれくらい落とすと思われますか?」
「最悪は一つの街で手打ちにすることだけど、王国も馬鹿じゃないだろうから、三つくらいは落とすと思うよ。今の王国と同じ規模くらいかな」
街一つ落としたくらいだと、連邦は最悪無視するだろう。
そうなると手を貸した意味がなくなる。
王国からすれば、ただ一つの街を落として連邦を本格的に敵に回すくらいなら、落とせる所まで落とすのが普通な感じもする。
王国の間諜がしっかりと機能していれば、北西部方面へ連邦兵が集まったタイミングで、連邦攻めをするのだろう。
そうなると、速度重視で連邦軍が奪還しづらい要所まで落とすだろう。だよね?
まさかあの公爵みたいな連中ばかりじゃないよね?
「そうですか。連邦の国民には悪いですが、王国の民になった方が幸せだと諦めてもらいましょう」
「そうだよ。偶々だけど、ある意味これは連邦国民の解放運動だね」
「ものは言いようだな…」
解放運動なら大義名分は我等にありだな。
「失敗に終われば滅びるのは王国だけどねっ!」
そーだね。そうなったら介入するんでしょ?
わーい。マッチポンプ万歳っ!
「そうなったら、セイさんを防衛に残して私達だけで行きましょう」
「勿論だよ」
えっ…?
思いもよらない会話に、俺は言葉を失った。
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