僕、ラキアス・レオハードは帝国の第3皇子として生まれた。
上2人の兄は側室から生まれていて、僕は皇后陛下の息子だ。
しかも、皇族の血が濃いという紫色の瞳を持って生まれた。
皇后陛下は帝国唯一の公爵家の出身で、彼女の母親は元皇女だ。
皇后陛下は自分の妹の娘である1歳年下のステラ・カルマンと僕を婚約させたがっていた。
僕の弟で僕と同じ紫色の瞳を持つスコット・レオハードは皇帝になりたいようだった。
彼が皇帝になるには紫色の瞳をもつステラと婚約するしかない。
そうすれば、カルマン公爵家の後ろ盾と自分の子供が紫色の瞳になるという保証が得られる。
だから、僕はステラと婚約する気はなかった。
皇帝などなりたい人間がなれば良いと思っていた。
「ラキアス皇子殿下、お慕い申しておりました」
6歳の時、帝国の建国祭で僕に近づいてきたのはミランダ王女の方だった。
彼女が僕に心を寄せていたというのは嘘だろう。
何しろそれが僕たちの初めましてだった。
その上、そのようなことを言いながら僕に近づいてくる女の子は彼女が初めてではない。
初めて彼女に出会ったと時、彼女が驚くほど可愛いかったので僕は衝撃を受けた。
ふわふわのピンク色の髪に触れてみたくて、思わず彼女の作り話でも聞いてあげようという気になった。
彼女の空色の瞳に映った頬を染めた自分を見た時、僕は自分が彼女に一目惚れしてしまったのを知った。
「私はラキアス皇子殿下のお嫁さんになりたいです。ミラ国にいたら他国にいつ攻められか分からないので怖いのです」
他の女の子が同じことを言ったら、下心を察して不快に思っただろう。
しかし、なぜだかミランダの分かりやすいアプローチは可愛かった。
「では、僕と結婚しますか? 帝国で暮らせば安全ですよ」
彼女は僕に惚れているのではなく、僕の地位目当てだと思った。
「私とミラ国を守ってくれるのですか?」
彼女は帝国で僕と暮らして、帝国の庇護の元自分の国も守りたいのだろうと考えた。
自分の贅沢な暮らしのためだけではない。
自国の安全を背負って、幼い彼女が意を決して僕に近づいてきたのを哀れに思った。
「もちろんです」
母上が、僕は欲しいものは全て手に入ると言っていたのを思いだした。
だったら、結婚する相手だって好きな子を選んで良いはずだと考えた。
しかし、父上も母上も僕をステラと結婚させて皇帝にさせたいといつも言っていた。
僕は父上と母上の了承を得られないまま、ミランダと婚約をしにいった。
確かに一目惚れはしたけれど、そこまで彼女にこだわっていなかった。
しかし、1年ぶりに会った彼女は別人のようになっていた。
僕との婚約はできないと主張し、自分は女王になると言い張った。
僕は自分を欲さない彼女がどうしても欲しくなった。
地位も名誉も美しさも持っている僕を皆が欲するのに、彼女だけはいらないと言う。
どうして彼女は態度を変えたのか気になって仕方がなかった。
僕も彼女に一目惚れしたが、彼女も僕に一目惚れしてくれていた確信があった。
彼女が駆け引きをしているようには見えなくて、彼女に他に想い人ができたのではないかと不安になった。
僕は改めて帝国に戻り、父上か母上を連れて正式にミラ国に行きミランダと婚約しようと思った。
「僕は皇帝になる気はありません。ミランダ王女と婚約したいです。父上も母上も認めてください」
父上も母上も首を縦にふらなかった。
「ステラ・カルマン公女を正妻に迎えて、ミランダ・ミラ王女を側室にすれば良いだろう」
「僕はステラと婚約する気はありません。ミランダ王女との仲を認めてもらえないのでしたら、僕がミラ国に婿入りします」
紫色の瞳を持った僕が他国に婿入りするなど許されないと分かっていた。
不可能なことを言った僕に父上が顔を顰めた。
「まあ、婚約など急がなくて良いでしょう」
母上はステラと僕の婚約を諦められず、とりあえず先延ばしにした。
弟には厳しい母上も僕には依存しているかのように甘い。
だから、僕がミラ国に行きたいと言えば良い顔をしないが送り出してくれた。
ミランダは、紫色の瞳に根拠がないと紫色の瞳をした皇子である僕に言い放った。
僕は彼女を絶対に手放せないと思った。
両親でさえ、皆どこか僕の顔色をうかがいながら話した。
それなのに、明らかにミランダは僕に意見をして対等に話をしてきている。
今後、彼女のような人は現れないだろう。
「護衛騎士にミラリネをつけているのですか? やめた方が良いですよ。彼らはミラ国の人間を恨んでいて、いつ裏切るかも分からないです」
僕は彼女が態度を変えたことの可能性として、他の男の存在を考えていた。
彼女は先ほどから同じ年でありながら、7歳の子だと僕を幼い子供のように扱ってくる。
そして、彼女の後ろには見慣れないミラリネの若く背の高い護衛騎士がついていた。
ミラリネは黄土色の髪に金色の瞳、褐色の肌と分かりやすい特徴がある。
そのミラリネ護衛騎士はまるで彼女の恋人かのように、気がつくと僕を睨んでいた。