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どのくらいの時間が経過しただろうか?


私はルークが泣き止むまでずっと彼を優しく抱擁し続けた。


フクロウが、ホー、ホー、と鳴くのと同時に、ルークはゆっくりと私から離れた。


「もう大丈夫。ありがとう、ミア。おかげで心がスッキリしたよ」


ルークははにかみながらそう言って嬉しそうに笑った。


もう彼の表情から不安な色は消えていた。さっきまでいた弱々しい男の子はもういない。逞しいオーラを放ち、精悍な顔立ちになっている。


「私は何もしていないわ。でも、元気になってくれて私も嬉しい」


その時、私はふと気付く。何故、ルークはあんなに泣きじゃくっていたのだろうかって。


「ねえ、ルーク。何か悲しいことでもあったの?」


「うん、先日、父上と母上が民を守るために魔物と戦って亡くなってしまったんだよ」


「ルークのお父様とお母様が……⁉ そんなことって……!」


私は驚きのあまり両手で開いた口を押えた。


ルークに無神経なことを聞いてしまったわ。もしも私もお父様やニーノが亡くなってしまったなら、どれほど悲しんだだろうか。恐らく、さっきのルークとは比べようもないくらいにワンワンと泣きじゃくっていたに違いない。


私の瞳からたちまち熱い涙がポロポロと零れ落ちるのが分かった。罪悪感でいっぱいになり、嗚咽を洩らしながら「ごめんなさい」とルークに何度も謝罪の言葉を口にした・


すると、ルークは驚きの表情を浮かべると、今度は代わりに彼が私を胸に抱き寄せ優しく抱擁してくる。


「謝る必要なんかないよ。だってミアはボクのことを心配して訊ねてくれたんだろう? ボクはそれが嬉しいんだ」


そう言ってルークは力強く私をギュッと抱き締めて来る。


「ありがとう、ルーク。うふふ、何だか変な気分ね。さっきは私がルークを慰めていたのに、今度はルークに慰められちゃった」


「誰かが泣いている時に慰めるのはお互い様だよ。おかげでボクは泣き止むことが出来た。ミアだって泣き止んだだろう?」


「そうね。お互い様ね? ルークって優しいね」


「ミアだって優しいよ。さっきまで凍えそうになるくらいに心細かったのに、ミアのおかげでボクの心もあったかいや。ありがとう、ミア」


そうして私達は見つめ合った後、同時に笑い出した。


「ところで、ミアは人間なんでしょう? どうやって夜の国まで来たんだい?」


「ええとね、私、今日、お父様に叱られちゃったの」


「何か悪いことでもしたの?」


「違うわ⁉ 私の大事な妹のニーノを地下牢から出して欲しいってお父様にお願いしたら、あんな汚らわしい魔女のことは二度と口にするな! っていきなり怒鳴りつけられちゃったの」


言いながら私はその時の光景を思い出し、再び怒りと悲しみのあまり涙を零しそうになった。


「ねえ、見て、ルーク。私の髪、銀色でしょう?」


「本当だ……あれ? まさかミアは聖女様なのかい⁉」


白銀の髪は聖女の証。どうやら夜の国にもその情報は伝わっているようだった。


ルークは両目を大きく見開きながら私を凝視する。


「でも、聖女って言われていても私には全然力が無いの。出来るのはさっきみたいな初級ヒールだけ。毎日修行して早く一人前の聖女になろうと努力しているのだけれども、全然上手くいかなくて」


私はそう言って深い溜め息を吐く。


「強くなって妹を助けたいのに、まだ力もなくて……お父様は私が逆らうとニーノに酷いことをしてくるし……」


その時、私の脳裏を家臣や使用人達の心無い言葉を囁きかけて来る幻が過る。


『ミア様は将来立派な聖女になって王国を導いていく御方なのです。ですからあのような忌まわしい者に近づいてはなりませんよ』


『あれはミア様の妹なんかじゃありません。国を亡ぼす汚らわしい魔女なのですから』


私は頭を両手で押さえながら、必死におぞましい囁きを振り払う。


「それで夜になったらニーノを連れてお城から逃げようと思ったの。でも、夜だから道に迷って、気付いたら聖女像の前に立っていて、何処かニーノと幸せに暮らせる場所に行きたいって聖女像にお願いしたら、突然、目の前が眩しくなったの」


その時、私は伝説の双子聖女ランの聖女像の前に佇んでいた。


ニーノと一緒にお城から逃げ出したい。そう願った次の瞬間、目の前に光り輝く門が現れた。


私はそのまま門の中に入り、しばらくさ迷っているとルークと出会った。


この時の私は、自分がとんでもないことを成し遂げたことに気付いていなかった。


後にその門の存在は私とルークの運命を大きく左右することになるのだけれども、それはまだ後のお話だ。


「気が付いたら私は森の中をさ迷っていたの。そうしたらルークと出会って……」


私はその先のことは口に出してはいけないと思い、慌てて口を押さえた。


ルークは何やら思案に耽りながらブツブツと何かを呟いていた。


「もしかしたらミアは太古の時代に失われた転移門ゲートを起動させたのかもしれないね」


転移門ゲート?」


「遥か昔、まだ夜の国と光の国に交流があった時代、転移門ゲートによって二つの世界は繋がっていたと言われているんだ。でも、ある事件をきっかけに転移門ゲートは閉ざされ、夜の国では光の国も人間も伝説上の存在になっていたんだ」


「私の国でもそう。夜の国はお伽噺でしか聞いたことがないわ」


でも、その時、私は夜の国が私達の国を襲ったという伝説が残っていることは口に出さなかった。ルークみたいな優しい獣人が王様の国の人達が悪いことをするとはとても思えなかったからだ。


「ボク達がこうして出会ったのも、もしかしたら運命なのかもしれない」


「運命?」


「そう。夜の国にはね、一つの伝説があるんだ。夜と光の国が再び交わる時、魔王と聖女によって新たなる世界が誕生するであろう、ってね」


呪われた双子聖女の伝説のせいでニーノは死ぬまであの薄暗い牢獄に閉じ込められることになってしまった。


もし、夜の国が善い国で、ニーノが魔女ではないってことを証明することが出来ればニーノを救い出せるはずだと思った。


しかし、そのことを主張しようにも私には誰一人味方はいない。お父様や大勢の家臣や侍女達は私に優しくしてくれる。でも、ニーノのことを口に出した途端、誰もが人が変わったように妹のことを罵る。幼い自分にもニーノが皆に憎まれていることは理解出来た。聖女としても一人の人間としても半人前以下の私の声に耳を傾けてくれる者など居はしないのだ。


すると、突然胸が締め付けられた。底の知れない不安感に苛まれ、たちまち絶望が襲い掛かった。ニーノに死神が襲い掛かる幻影を見てしまい、恐怖のあまり身体が震えだす。


「どうしよう……お城に私の味方は一人もいないだった。一人前の聖女じゃない私にはニーノを助けてあげることも出来ない。私、どうしたらいいの……?」


不安と悲しみのあまり、ボロボロと涙を零すと、ルークは私の頭に手を乗せると優しく撫でて来る。


「泣かないで。ミア、これからはボクがミアの味方になってあげるから」


ルークの穏やかで優し気な微笑が私の胸を突いた。たちまち不安な気持ちは消え失せると、胸の底から今まで味わったことのない熱い気持ちが込み上げて来る。


「え……? それはどうして?」


「ボクも同じだから……ミアの気持ちが分かるんだ」


ルークはそう呟きながら私を優しく抱擁してくる。私は身を委ね彼の温もりを味わった。


「ボクがミアのそばにいるから。辛いことがあったらボクのことを思い出して!」


ルークの真っ直ぐな真紅の双眸に見つめられた瞬間、私の鼓動が大きく高鳴った。


すると、ルークは意を決した様な表情を浮かべると、私の前に膝をついた。おもむろに私の右手を取ると、真剣な眼差しで話しかけて来る。


「ミアにお願いがあるんだ。もしボクが立派な国王になれたら、是非ともボクの尻尾と獣耳をミアに貰ってもらいたい……!」


ほのかにルークの頬が赤く染まるのが見えた。


緊張しているのかな? と、私は思い、微笑みながら返事をする。


「そのふわふわの尻尾と獣耳をもらえるの? ありがとう!」


その時、私達の運命は赤い糸によって結ばれた。


思えばこの時、私はルークのことが大好きになっていたんだと思う。先程込み上げて来た気持ちは、きっと私の初恋の感情だったに違いない。


「ミア、これだけは約束するよ。もし困ったことがあったらボクの名前を呼んで。声を出せなければ心に念じるだけでいい。きっと君の元に駆けつけるから……!」


その瞬間、私の時間は現実に戻った。


目の前には真紅の双眸に穏やかな色を湛えたルークが私を優しく見守るように佇んでいた。


「あの時の男の子が……ルーク!?」


ルークの名を呟いた瞬間、私の胸の中に暖かい感情が溢れ返った。


それがルークに対する愛であることは言うまでもなかった。

汝に我が尾と獣耳を捧げよう──。

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