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管野アリオ
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(食べさせるって……いや、普通に考えて、付き合ってるわけでもない男がする?)
軽くプチパニックを起こして固まっていると、朝陽もようやく亜佑美の異変に気づいたらしい。
「あ……!」
ハッと目を見開き、
「す、すみません!!」
勢いよくスプーンを引っ込め、耳まで赤くしながら慌て始めた。
「俺、少し年の離れた弟がいて、こういう時はよくしてあげてたから、つい癖で……!」
「あ……」
「ご、ごめんなさい! 嫌でしたよね!?」
必死に謝る姿があまりにも分かりやすくて、亜佑美は思わず吹き出した。
「ふふっ……」
「え……?」
「そうだったんだ」
くすくす笑いながら、亜佑美は力の抜けた声で言う。
「それならいいの、謝らないで。私の方こそごめんなさい」
「いや、木葉さんは悪くないです! 本当にすみません!」
「もういいって。それより、せっかくだし……」
亜佑美は少しだけ身体を起こし、差し出されたスプーンへ視線を向けた。
「……一口だけ、お願いしてもいい?」
その言葉に、朝陽は目を丸くするけれどすぐに嬉しそうに笑うと、
「……はい!」
今度はさっきよりもっと慎重に、お粥を冷ましてから亜佑美の口元へ運んだ。
熱すぎず、ちょうどいい温度のお粥を口に含みながら、亜佑美はぼんやり思う。
(……調子狂う……)
そして、ふいに亜佑美の口から、
「……ほんと、変な子」
思わず零れた呟きが聞こえた朝陽は、「え?」と不思議そうに瞬きをした。
「ううん、何でもない」
亜佑美は小さく笑いながら首を振る。
さっきまで頭の中でぐるぐる考えていた“下心”だとか、“狙い”だとか、そういうものが急に馬鹿馬鹿しく思えてきた。
朝陽は今まで亜佑美が出会ってきた男たちとは全然違う。
見返りを求めて距離を詰めてくるわけでもなく、弱っている隙に入り込もうとするわけでもない。
ただ純粋に心配して、助けようとしてくれているだけ。
それが不思議なくらい自然で、だからこそ余計に調子が狂うのだと。
(……何か、私が一人で意識して馬鹿みたい)
少しだけ気恥ずかしくなりながら、亜佑美は残りのお粥を今度は自分でゆっくり食べ進めていった。
その間も朝陽は、「熱くないですか?」とか、「無理しないでくださいね」と時折声を掛けつつ隣で見守っている。
そして食べ終える頃には、身体もかなり楽になっていた。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」
朝陽は空になった食器を受け取ると、そのままキッチンへ向かう。
水の流れる音や食器の触れ合う音を聞きながら、亜佑美はぼんやり時計へ目を向けた。
「……え」
時刻は、午後八時を少し回っている。
電話を掛けたのが昼過ぎ頃だったことを思えば、いつの間にかかなり時間が経っていたらしい。
(そんなに居てくれてたんだ……)
少しして、洗い物を終えた朝陽が戻ってきた。
「それじゃあ、俺はそろそろ帰りますね」
そう言いながら軽く頭を下げる。
「……あの、今日は本当にありがとう」
亜佑美が素直に礼を言うと、朝陽は少し照れたように笑った。
「いえ。ご迷惑にならなかったなら良かったです」
それから安心したように亜佑美の顔を見る。
「それに、だいぶ顔色も良さそうなので安心しました!」
その言葉に、亜佑美の胸は少しだけ胸が温かくなった。
「見送る……」
ベッドから降りようとすると、朝陽は慌てて首を振る。
「あっ、ここで大丈夫です! まだちゃんと休んでてください」
「でも……」
「その、鍵だけ貸してもらえれば、外から閉めてポスト入れておくので」
そこまで言われ、亜佑美は観念して鍵を渡した。
「……本当にありがと」
「はい。それじゃあ、おやすみなさい」
朝陽は柔らかく笑うと、そのまま玄関へ向かう。
扉が閉まるとすぐに鍵の閉まる音が聞こえ、それからカタンとドアポストに鍵が落ちる小さな音が聞こえてくる。
「…………」
一人になった部屋は急に静かだった。
さっきまで誰かがいた気配が消えてしまい、ほんの少しだけ寂しく感じる亜佑美。
(……何なの、これ)
そんなことを思いながらぼんやり天井を見ていると、枕元のスマートフォンが震えた。
画面を見ると、朝陽からのメッセージだった。
《早く良くなると良いですね。だけど無理はしないでください》
《何かあればまたいつでも声掛けてくれたら嬉しいです! いつでも飛んで行きますから》
どこまでも真面目で真っ直ぐな言葉に、
「……ふふ」
亜佑美の口から思わず小さく笑みが漏れる。
その文章を見た瞬間、胸の奥がじんわり温かくなるのと同時に、心臓の奥が微かにきゅっと鳴る。
ただ間違えて電話を掛けただけだったけれど――。
(……相手がこの子で良かったかも)
亜佑美は暫く画面を見つめた後、ゆっくり返信を打ち込んだ。
《ありがとう、助かった。今度ちゃんとお礼させてね》
送信ボタンを押し、スマートフォンをそっと置く。
熱で重かったはずの身体は、不思議なくらい軽くなっていた。
コメント
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# 感想 あーもう、朝陽くん可愛すぎるだろ…!「弟の癖で」っていう言い訳、めっちゃツボったわ。でもあの純粋なお世話に、亜佑美さんがだんだん心開いていく流れがじんわり来た。「調子狂う」って呟くあたり、今までの男事情が透けて見えて切なくもなるんだけど、最後のスマホのやり取りで「相手がこの子で良かったかも」って思うところ、こっちまでほっこりした。具合悪い時にああいう真っ直ぐな優しさに触れるの、めちゃくちゃ沁みるよね。早く2人がどうなるのか気になるー!続き待ってます🔥