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夕方。
ピザ屋はいつも通り忙しい。
オーブンの音。
客の声。
焼けたチーズの匂い。
エリオットはカウンターで笑顔を浮かべていた。
「マルゲリータ一枚、お待たせしました!」
客にピザを渡す。
にこっと笑う。
いつも通り。
……のはずだった。
でも。
エリオットはちらっと入口を見る。
ドア。
ベル。
まだ鳴らない。
「……」
時計を見る。
18:20。
いつもなら――
とっくに来ている時間。
エリオットはピザを切りながら思う。
(遅い)
チャンスはだいたい同じ時間に来る。
カウンターに座って。
軽い顔で言う。
「いつもの」
そして。
エリオットはネクタイを引っ張る。
それがいつもの流れ。
でも今日は――
来ない。
「……」
エリオットはまたドアを見る。
客が入ってくる。
でも。
違う。
「いらっしゃいませー」
笑顔で対応する。
でも目は少しだけ入口を気にしている。
19:00。
まだ来ない。
エリオットはピザを箱に入れながら思う。
(マフィア)
頭をよぎる。
銀髪。
軽い笑顔。
「慣れてる」
昨日の言葉。
エリオットは小さく息を吐く。
「……大丈夫だよな」
客が言う。
「お兄さん」
「はい?」
「ぼーっとしてるよ」
エリオットは笑う。
「あ、すみません」
でもまた。
ドアを見る。
19:40。
ベルが鳴る。
チリン
エリオットが反射的に顔を上げる。
でも。
違う客。
「……」
少しだけ肩が落ちる。
隣で同僚が言う。
「エリオット」
「ん?」
「今日落ち着かないね」
エリオットは笑う。
「そう?」
「五分に一回ドア見てる」
「うそ」
「ほんと」
エリオットは肩をすくめる。
「常連待ってる」
同僚が笑う。
「恋人?」
エリオットは即答する。
「違う」
でも。
少しだけ考える。
ネクタイ。
銀髪。
軽い笑い方。
「……」
20:10。
店が少し落ち着く。
エリオットはカウンターを拭く。
そしてまた。
ドアを見る。
「……」
来ない。
胸の奥が少し落ち着かない。
理由はよく分からない。
ただ。
気になる。
(……怪我してないよな)
マフィア。
銃。
夜の路地。
エリオットは手を止める。
その時。
チリン
ベルが鳴る。
エリオットは反射で顔を上げる。
そして。
固まる。
入口に立っていたのは――
チャンス。
銀髪。
少し乱れた髪。
ネクタイ。
いつもの軽い顔。
「……」
エリオットは数秒動かなかった。
チャンスが言う。
「ピザ」
エリオットは歩いていく。
そして。
何も言わずに。
ネクタイ。
ぐい
チャンスが少しよろける。
「……」
エリオットは少し眉を寄せて言う。
「遅い」
チャンスが笑う。
「待ってた?」
エリオットはそっぽ向く。
「別に」
でも。
ネクタイは離さない。
チャンスは少し笑って言う。
「悪かった」
エリオットはやっと少し笑う。
「……ピザ焼く」
そして。
また。
ぐい
チャンスが言う。
「それ」
「ん?」
「今日強い」
エリオットは小さく言う。
「……来ないかと思った」
チャンスは少し黙って。
それから言う。
「来るよ」
エリオットはにこっと笑う。
オーブンにピザを入れながら。
ネクタイをまだ掴んだまま。