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日照りの強い昼下がり、清心は買い物に出掛けた。
匡をひとり家に残すことには色々な不安がつきまとったが、困ったことに冷蔵庫には何も入ってない。やむを得ず、病人でも食べれそうなものを買ってくることにした。
匡……。
彼は無理して恋人を見つける必要はない気がする。彼は優しいから。
普通に生きていてもきっと彼に惹かれる人間が現れるはずだ。
だが強いて言うなら危なかっしくて、感情の起伏に乏しい青年だ。だからこそ必要以上に世話を焼きたくなるんだろうけど……。
近所のスーパーに着き、お粥の付け合わせになりそうなものや、ゼリー等の食べやすいものを購入した。昼とはいえ店の中は空いている。あっという間にレジを通し、ビニール袋片手に外へ出た。
暑い。夜は凍えるほど寒いのに、日中の気温は異常なまでに高かった。この気温差で体調を崩す人がいるのも仕方ないと思う。
まるで蜃気楼のように視界が歪んで、アスファルトがじりじりと焼けている。日傘をさしてる女性が羨ましい。
なるべく早く家に着きたくて歩くペースを速めた。そのときだった。
「……?」
向かい側の歩道を見てビニール袋を落としかける。
“また”。
何の変哲もない歩道には、自分と全く同じ姿の青年が歩いていた。
今度は以前よりもずっと近い距離にいる。だからこそ確信できた。似てるとか、そういう次元の話ではない。間違いなく向かい側で歩いているのは“自分自身”だった。
服装も、今日の清心は黒のパーカーと赤のインナー。向こうも何一つ違わず同じ格好だ。
「ちょっ、ちょっと……!」
混乱の度合いは以前と変わらないが、今回は呼び止めようとする冷静さがあった。ガードレールに手をかける。本当なら乗り越えて向かい側に行きたかったが、車が途切れる気配はない。
青年はこちらの声に気付くことなく、角を曲がって消えてしまった。
奇妙な現象。
確かに、自分が同じ街中を歩いている。
さっきまでかいていた汗は引いて、背筋が凍った。
「う……っ!」
すると突然、強い目眩と吐き気に襲われた。
ガードレールを掴んでいたから良かったものの、少し気を抜いたら倒れそうだ。
道行く人に心配そうな視線を向けられる。その場で少し立ち止まっていると、目眩はやんだ。だが吐き気はまだ止まらない。
今すぐトイレに駆け込みたい。
倒れそうな身体に力を入れ、急いで自宅を目指した。