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僕等の日常法則
!某レンガ本妖怪小説パロディなお話。
※時代背景は全く現れてませんが昭和中期頃
文字数多め、あいたたたな感じです笑
古書店主人黄さん
小説家桃さん
探偵青さん
刑事白さん
出版社社員赤さん
ほぼほぼ設定を拝借させて頂いた、過去のハイブリッドリサイクル。またもや私だけが楽しいやつ。ほんとすいません、、
何でも大丈夫!な 方のみお進みください…
[僕等の日常法則]
______…この長い長い坂を登って、その先にある下手なのか達筆なのか判断の付かぬ看板を探そう。
きっと其処には、俺の求める物全てが揃っているのだ。
古書店”夢幻堂”。その店に併設された家屋内の座敷で、佐野は何をするでも無くぼうっと座り込んで居た。
________…みゃー
そんな佐野の前を、不意に三毛猫が足早に横切る。それを追うようにして現れた人物もまた、佐野の前を横切ろうとして立ち止まった。
「なになにぃ?こんな処にでっかいゴリラのオキモノ有るやぁん。ヨシダさんシュミわっるぅ!」
その人物は、佐野の前を横切る際大きな声で言ってあっはっはと大笑いし、ついでに彼の肩口をばしんと叩く。
「いっっだ!…おま、なにすんだコラ!」
「あははは!ごりらがキレたぁ!」
「誰がゴリラじゃ!」
いきなりの不意打ちに、弛緩仕切っていた佐野はやっと我に帰り、尚も笑いながら座敷の隅へと走り去った人物に向かい怒鳴りつける。
その一連の流れを、座卓の前に座し、本を読みつつ黙って聞いていたこの店の主人吉田は、呆れ返ったように深く深く溜め息を落とした。
「…呑気にそんな事してる場合かよ。一体何時間此処に居座る積りなのお前。もう夕方だぞ。…って、聞いてんのかお前もだぞ太智!」
太智と呼ばれた男、塩﨑は、聴いているのか居無いのか、うにゃあと猫の様な鳴き声を返す。
「ふらりと朝早くにやって来たかと思えば、片方はぼおっと座った儘だし、もう片方は猫追い掛け廻すだけだし…。此処は公園でも触れ合い動物園でもねぇから。用無いんならさっさと出てってくれよ」
読んでいた本から一度も視線を外さぬ儘、吉田は不機嫌さを隠そうともせず、ぶすりと言い捨てた。
「いいだろべつに。どうせお前はそうやって本読んでるだけなんだからさ」
「暇してるみたいに言うなよ。これはさっき仕入れた商品で、売るのに差支えないか俺が直接読んで点検してんの。れっきとした仕事です」
「えぇ〜、めっちゃつまんなそぉ!そんなん一体ダレが買うん?」
「…お前以外の誰かでしょうねぇ太智くん」
「そんなん言っても結局は読書やん。お前の読書の邪魔はしてねぇだろ、なぁ太智?」
「そおやそおやぁ!ヨシダさんのジャマはしてへんやんかぁ」
「……存在自体が邪魔なんだけど。」
ぼそりと呟かれた言葉に聞こえない振りをして、佐野はう〜んと背伸びをしながら周りを見渡す。
ついさっき朝食兼昼食の蕎麦を出前して食べたばかりだと思って居たが。成る程、気づいてみれば座敷には西日が差し込んでいる。
いつの間にか、もう一人の人物は猫と共に何処かへ姿を消していた。
「てゆーか、柔太朗まだ来ねぇの?何で?」
先程の会話など無かった事の様に飄々と話題を変えた佐野へ、最早帰らせるのを諦めた吉田は、憮然とした表情で本の頁を睨み付けながら応える。
「いや、逆に何でお前は柔太朗が来る前提で話してんだよ。約束も何もしてないだろ」
「俺がいんだぞ?来るやろ普通」
「…お前の言う普通が何かは知らんけど、そう簡単に来られても困るわ。アイツ、まがりなりにも桜田門背負ってんだぞ」
「え〜」
「え〜、じゃねぇよ」
「じゃあ柔太朗来るまで此処で待とっかなぁ。今日泊めてな、仁人」
「……………あのなぁ」
無茶苦茶な言い分に、和装に身を包んだ主人は再び溜息を吐き出し、やっと開いていた本を閉じて佐野の方へ視線を向ける。
「此処は俺の家だし俺の店。何が悲しくてお前らの待合所にされなきゃなんねんだよ。そもそも、俺が来て欲しいのは書籍を求める客人であって、日がな一日惚けてる三文小説家でも阿呆みたいに猫追っかけてる変人探偵でもない。朝から今迄でどんだけ時間無駄にしたと思ってんだ。これで商売立ちいかなくなったらお前等の所為だからな。責任取って貰うぞ」
「ミセ流行ってねぇの俺らの所為にすんなよ」
「おまッ、流行ってなくはないわ!大体なぁ、」
吉田がむきになって言い返していると、不意に玄関先で声が響いた。
「お邪魔しまーす」
「あ!」
「ちょ、勇斗!まだ話終わってない!」
その声にまるで猫の様に素早く反応し、佐野はまだ言い足りない様子の吉田を無視して立ち上がり、玄関の方へすたたたたと駆けて行く。
「なになに、喧嘩でもしてた?」
そう言いながら座敷に入って来た人物は、仏頂面をした吉田の顔を半笑いで覗き込んだ。佐野はそんな彼の後ろへ隠れながら、吉田へ向かってガンを飛ばしている。
「そんなんじゃないわ」
「そうなの?ならいいけど」
「て言うか、お前は何しに来たんだよ」
「何しにって、失礼だなぁ。仁ちゃんがちゃんと生きてるか如何か、わざわざ顔見に来てあげたのに」
先ほど話題に上がっていた山中は、むつかしい顔をした吉田に笑いかける。
「お前に心配されんでも勝手に生きて勝手に死ぬわ。そんな事より、天下の公僕様がこんな場所で油売ってて良いんですかねぇ。桜の代紋が泣いてんぞ」
「あのねぇ、こちとら非番だったのに呼び出されて、たった今御役御免になったとこなのよ。ちょっとぐらい休んでもよくない?」
「休むなお前の給料誰が払ってると思ってんだ国民の為に働け」
「うっわ、サイテー。仁ちゃん、それ今時で言うとセクシャルハラスメントだからね」
「それを言うならモラルハラスメントだ。頭弱い癖にハイカラなこと言、」
「あ!じゅうちゃんやんおはよぉ!!」
吉田が言い掛けたのを遮る様に、いつの間に戻って来たのか、暴れ廻る猫を無理矢理抱き締めた塩﨑が、山中へ向かって嬉々として叫ぶ。
「あ、だいちゃんも来てたんだ?」
「おん来てたっ!じゅうちゃん最近物騒やから忙しかったんやろ?元気してたぁ?」
「うん、めちゃくちゃ元気元気」
目の前できゃっきゃと交わされる会話に、益々ご機嫌斜めになって行く吉田の元へ、再び玄関先から声が飛び込んで来る。
「師匠、お邪魔しますよ〜…って、何や、皆居るやん!」
首からキャメラを提げた人物は、座敷を覗き込んで4人を見るなり顔を綻ばせた。
「舜太じゃん、お疲れ」
「しゅんちゃん久しぶりぃ〜!」
「柔太朗にだいちゃん!うわぁほんまひさしぶりやねぇ」
「…舜太、お前まで何しに来たんだよ」
「何しにってはやちゃん、俺編集部なんよ?そんなん、はやちゃんの原稿取りに来たに決まってますやんかぁ」
「んなもん有るか」
「えぇ?!ちょっとせんせぇ〜!もう締め切り大分過ぎてるん…」
「あ”?」
「す…んませぇぇん…(涙)」
「佐野サン、あんましゅんちゃん困らせたあかんで」
「だ、だいちゃん…っ!」
「そうそう。舜太は如何でもいいけど、はやちゃんの生活も掛かってんだから」
「うへぇ!そりゃ無いわぁ〜」
座敷で交わされるわいわいと賑やかな会話の中へは入らず、その様子を遠い目で眺めて居た吉田の隣へ、佐野がそっと腰を下ろす。
「な?」
「…は?」
眉間に皺を寄せて自分を見る吉田に、佐野は得意げな顔をする。
「来ただろ、柔太朗。」
「……お前が此処にいたから、な」
「其れも有るけど、あともいっこ」
「?」
「柔太朗言ってたろ、仁人の顔見に来たって。まぁ、柔太朗以外の奴もオマケで付いて来たけど」
「…何が言いたいの」
「別に何も?唯さぁ、結局皆此処に集まんだよなぁ。お前の側って、居心地いいから。」
佐野の言葉にきょとんと目を見開いた後、吉田はぱちくりとふたつみっつ瞬きをして、ギクシャクとした動作で座卓に投げ出されていた本を手に取り、読書を再開しだした。
「………店潰れたら、此処に居る全員業務妨害で訴えるからな」
覚悟しとけよ、苦し紛れにそう宣った吉田の、ほんのりと赤くなっている耳と頬を横目で見ながら、佐野はにやりと笑う。
「上等じゃん、何時でもかかってこいや」
日暮れる座敷で何時もの場所に。それからお前達が居て。
其処がほら。
何時の間にか、俺の居場所になった。
終