「なぁ、桃野。」「うん、何?」「お前さぁー、もっかい大会でてみたら?ピアノ。」「……。」
一気に心のなかに霧りがかかるようだった。
「無理だよ。どれだけ頑張っても駄目だったから。どれだけ演奏の練習に時間を費やしても駄目だったから…………………。」
あの時は本当にピアノを弾くことだけに意識を向けていた。
どれだけ音が完璧でも、どれだけ綺麗な演奏でも、これじゃ駄目だったと思って何度も何度も限界に挑戦した。
「それでも無理だったら、次も絶対無理だし…。」「バカ。」「はい?」「1人で行けとは言ってねーだろ。」
青野君が、スマホをこちらに向けた。
画面の中には「ピティナ・ピアノコンペティション」の文字が…。
「はぁ!?これを?」「俺とお前で_」「デュオ部門の上級でしょ!?これ2人で出るんでしょ!?レベル高すぎじゃない!?」「バカ。」「はぁー?」「お前だったらダイジョブだろ。それに、お前、大会の前結構ヤバいほど練習したんだろ?」「……そうだけど…………。」「そのお前と、そのお前にピアノ勝負で勝った俺なら優勝、狙えるんじゃね?」「…そ、そうなのかな………?」「バカ。普通に行けるだろ。」「いちいち返信にバカ入れなくていいから!ってか今の返しでバカはいらないでしょ!」「うるせーよ。とりま1回話してみたら?」
ピティナ・ピアノコンペティションは、日本最大のピアノコンクール。全国200カ所で予選が行われる。姉さんが一度ソロ部門で出たことあるけど……
「あ、茜さん。」[望雲ちゃん。どうしたの?]「あのさ…クラスメイトに、ピティナのデュオ部門誘われたんですけど……」[えーっ!?ピティナ誘われたってすごくない!?]「うん…正直びっくりなんですけど、どうすればいいですかね?」[どうすればって、普通に一緒に行けばいいじゃない。]「でも、私そのクラスメイトとあんまり喋ったこともないし、ピアノ上手なのは知ってるけど、私足引っ張りそうで怖いし、てかそもそも男子だし……。」[ええええーっ!?だ、だ、だだだ男子ぃぃい!?]「はい。」[え、付き合ってんの?]「私の話聞いてました?あんまり喋ったことないって言いましたよね…?」[あぁ、そうだったわね。でも、オッケーしたらいいんじゃない?百々子ちゃんも行ってたし、姉妹で行けたらよかったけど……。まぁせっかくのお誘いなんだし、引き受けてあげても。てか普通に望雲ちゃんの演奏もっかい聞きたいし!]「5年前の発表会以来ですよね。」[そうね。]