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彼らはそうやって、
僕を騙そうとしているのかもしれない。
けれど、幾度となく登り続け、
一本の廊下が現れる。
それは一番奥の部屋にしか通じていないようで、
窓も他の扉も取り払われている。
「さあ、巨人殿。我らについて来るといい」
目閉じた瞬間、声と共にあたたかな光を感じる。
「僕らが案内するよ!光についてきてね!」
肩や頭の上、
身体のあちこちを光がじんわりと照っているのが分かる。
小人達自身が光っているのだ。
…コツッ…コツッ…。
…。
テクテク…ポトポト…。
…。
僕以外の足音も聞こえてくる。
ピットッ…ペタッ…。
陽気で明るい小人の足音が、
僕を囲んでいるようだ。
瞼越しの光に導かれるように、進んでいく。
「先程は、あなたの私物を盗んで申し訳なかったわ」
「すまん、俺からも謝らせてくれ」
「君のそのブローチの輝きがあれば、あれは完成すると思ったんだ」
下から上から聞こえる声を聞きながら、
歩みを止める。
光が消えたからだ。
「さあ、つきましたぞ。手を伸ばして取手を掴んでくださいな」
言う通りのまま、扉を開ける。
しかし、待っていたのは暗闇だった。
「いい子いい子。すぐに目を開けないのは、大人だね」
「まあ、いま目を開けても…何もないけど…」
彼らには準備が必要だったようだ。
カチッパチッ…パチパチッ。
小人達の声が離れ、小刻みにスイッチを鳴らすような音が聞こえる。
それはすぐ頭上からなったり、離れたところで弾けたりしている。
夜景で見るマンションの部屋の明かりが、
見えるようだった。
「いいわよぉ。準備OK~。目をぱちくりとさせちゃいなさぁーい」
「さ、さ、巨人さん!目を開けて!とってもきれいで驚くよきっと」
「感動したら盗んだ件、一つ許しちゃくれねぇか」
「甘ったれを言うな。許すも何も、俺らは悪い事してねぇ」
小人の声を合図に、目を開ける。
彼らの声と引き換えに、息を飲む美しさに出会った。
…ランッ…ラン…。
星の瞬きが聞こえるような空だった。
プラネタリウムの美しさに飲み込まれながら、
僕はその一つ一つをよく観察した。
その星に似た輝きは、
僕のブローチと同じだった。
その一つに手を伸ばすと、
星が宝石で出来ていると分かった。
「あ、巨人殿!勝手に星を取らないでくれないか」
「私達だとその星をはめ込むのに、途方もない時間がかかるの」
目を閉じると、
手の中には宝石と小人の足踏みを感じた。
小人達はこれを守ろうとしているようだ。
「貴方の宝石を奪ってしまって悪いと思っているわ」
「このプラネタリウムに、君の宝石をはめ込んで星にしたかったんだ…」
「ここは素敵な場所でしょ!ここがあるから、新しい屋敷の主様が誕生するんだ!」
その時、 僕の立っている場所がガラス張り
だと言うことに気付く。
「そう!ちょうど、この真下なんだ!」
肩に乗る小人がそう言ったかと思うと、
ガラスの先には真っ黒な空間があった。
「ふふ、落とし穴じゃなーいよっ。暗すぎて先が見えないだけだよー」
「この先は玄関だ。屋敷の構図を考えてみれば分かることだ」
「屋敷に入ってきたお客様が思わず頭上を見たら、この美しさが飛び込んでくるというわけですね」
「ふむふむ。興味深いですよね…魅了されたお客様はもう。屋敷の主様になるんですよね」
彼らの言う先はどうみても、ただの暗闇だった。
僕は本当か確かめに行った。
小人達の言葉を信じるために、
長い長い階段を下っていく。
道中、小人を待たずに駆けていた事に気付く。
しかし、目を閉じると彼らは
僕の身体のあちこちに乗っていたようだった。
「お気になさらず。そのまま下って行くといいです」
「私達が着いてきてるか心配になった?大丈夫よ、あなたという乗り物に乗っているから」
「うえぇ…き、気持ち悪いぃ…こんなアトラクションは、初めてだ…」
「という訳だ巨人くん。少し手加減してやってくれないか」
彼らは都合よく僕を扱っているようだ。
そんな小人達を乗せたまま、
屋敷の玄関の前までやって来た。
「おやおや、お早い到着だな!」
「はい、おつかれさん。またよろしく頼むよ」
「だいぶリスキーな旅だったー。何度振り落とされるかと思ったか」
目の前には、ノッカー付きの両開の扉が
僕達を待ち構えていた。