コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「――ってのは、冗談で。話が長引くと、こっちも大変だから、簡潔に話そうか」
「はじめからそうしてよ……って、やっぱり、アンタは、ヘウンデウン教の幹部で……幹部としてやることが一杯あるってわけ?」
「うーん、違う。正確には、兄さんの元に行ってちょっかいをかけようかなって」
と、ラヴァインはキャピッと笑うように自分の頬を指さした。今時のギャルでもやらない。なんて思いつつも、相変わらず、アルベド一筋なところに呆れ、ため息が出てきかけた。というか、アルベドにちょっかいって、また殺し合いに発展しないだろうかと心配で仕方がない。今現在、アルベドはレイ公爵邸にいるんだろうけれど、それでも不安でしかたがなかった。留められるものなら止めたいけれど、足止めのあの字もできないと思う。多分、ラヴァインは、転移魔法で転移しちゃうだろうし……
(それよりも、今は情報!)
エトワール・ヴィアラッテアについて知っていることがあるのなら、と聞き出したが、幹部であっても、ヘウンデウン教自体、統率が取れた組織ではないため知らないことが多いのだとか。ただ、あの人工魔物の件に関しては、もの凄く関わりがある為、ここまで来たと。実際、あの魔物に命を吹き込んだのは、ラアル・ギフトなんだろうが、それはまた別として、ラヴァインが関わった事件というのは、かなり多いのではないかと。
「アルベドは、強いから……心配ないけど、あまりお兄さんを困らせない方がいいと思う……アンタが、恐怖とか、嫌がらせとかで、彼の記憶に残ろうとしていることは知っているけれど……他の方法だって考えられると思うから」
「他の方法って?」
「仲直りするとか……役に立つとか」
「そんなこと、できているなら、とっくにしてるよ。でも、そんな仲良しこよしがしたいわけじゃないから、この関係でいいの。ステラが、口挟まなくてもよくない?」
「……見てる方が辛いの」
「偽善?」
「違う。アンタを……よくはしらないけれど、知っている部分があるから……それは、何だか悲しいと思っちゃう……から」
「何それ。変なの」
と、ラヴァインはつまらなそうに返事をする。実際、そうなのだから仕方がない。ただ、よく知っているとか、知っているフリをすると、ラヴァインの琴線に触れる気がしていわなかった。ここまで来てしまったら、私が彼の記憶を取り戻すよりも、アルベドが、彼の記憶を取り戻してくれた方がいいのでは? と思ってしまう。でも、アルベドは、私がやらなければならない、みたいなことを言っていたし、複雑だ。
「ああ、それで、聖女様が、ヘウンデウン教と繋がっている件に関してだったよね。忘れるところだった」
「そこが、重要なんだけど」
「でも、知りたいって、ほんと命いらず。さっきも言ったから、そこは省くけど、そう……だね――関係あるよ。俺も、疑いたくなるくらいに」
「……やっぱり」
「どこで、その情報を嗅ぎつけたか、本当に気になって仕方がないんだけど、ステラは教えてくれそうにないしね」
「いっても、理解できないだろうし、あと、いえないってさっきも言ったとおりなんだけど」
そうだったけ? ととぼけられて、私はまた殴りたい気持ちで一杯になった。都合の悪いことは、聞き逃す耳なのだろうかとか思ってしまう。
ただ、得られた情報……核心的な情報で私もほっとした。ラヴァインが……まあ、彼は嘘をつくけれど、こんな嘘をつく理由が分からない。だからこそ、この情報は信じて良いものなのだろう。
(エトワール・ヴィアラッテアは……やっぱり、ヘウンデウン教と関わりがある。混沌の権能を持っているわけだし……まあ、当然といえば、当然)
ファウダーから得た情報をくっつけて考え、エトワール・ヴィアラッテアが、自らの意思でヘウンデウン教と関わりを持っていることは確実だった。第三者からの情報を得て、それが確証へと変わる。ただ、何故関わりがあるのか、関わろうとするのか、中心にいるのかは、私には理解できない。やはり、彼女の行動は謎だらけなのだ。彼女の行動理由は、主に愛されることなんだろうが、どうしても、ヘウンデウン教と手を組む理由が分からないのだ。ある意味、光側からも、闇側からも好かれ、必要とされているという点に関しては、彼女の愛されるという目的は達成されていると言えなくもないが……
何度もそこで考えては、立ち止まって、答えは出なかった。そもそも、光魔法の聖女が、ヘウンデウン教に愛される理由が分からないのだ。ヘウンデウン教からしてみれば、聖女は忌むべき存在で、敵であるはずなのに。そんな彼女を賞賛するわけがわけが分からない。だったら、ヘウンデウン教の教徒皆、光落ちさせればそれで丸く収まるのに、そういうことはない。
だからこそ、闇に好かれる理由が分からないし、手を組むというか、声をかけるというか、そういう理由も分からないのだ。
「そう。まあ、いいけど、関わりあるよ。直接顔を見たわけじゃないけどね」
「会えないお方、みたいな? 幹部よりも上の存在がいる……とか?」
「たんに興味がないからというか、確かに、俺みたいな人間を会わせたくないって、教団側の判断でもあるね。聖女様が、世界を滅ぼそうとしている、ヘウンデウン教になんの用だって思ったし。まあ、それは、興味というか、面白いところだよね。聖女が、闇に落ちたのかなって」
「聖女は……光魔法を使うんじゃないの?」
「あ……ああ、そうか。じゃあ、まだ完全に闇に落ちていないのかも」
ラヴァインは付け足すようにそう言うと、じゃあ、自分の考えは間違っているのか? と、顎に手を当てていた。本当に謎なことだらけで、得た情報も、自分で正しいのか見極めなくてはと思うくらいには、信憑性がなくなってきた。
(まだ、光魔法ってこと?でも、光魔法じゃ、洗脳魔法は使えないのよね……)
本当に何がどうなっているんだという話だ。光魔法であるなら、洗脳魔法は使えない。しかし、エトワール・ヴィアラッテアは、どう考えても、洗脳魔法を使っている。光魔法に偽造する魔法でも使っているのだろうか。そんな魔法が果たしてあるのか。
「んで、話はしたけどこれでいいの?」
「え、ああ……うん。ありがとう……気になるところは多いし、アンタも知らないことがあるって分かったから……ありがとう」
「敵なのに、ありがとうっておかしいね。ステラは」
「敵……そう、なのか……な。敵……」
ラヴァインの口から、自分と、私は敵だとそう言われてしまい、何だか胸の奥がズキンといたんだ。確かに今は、敵同士かも知れないけれど、いずれは――
「でも、本当にステラは不思議だね。前までは、一緒にいても、憎悪しかなかったのに、今はそんな気しないんだもん。なんか、俺がおかしくなったみたいに……いや、違う……これは」
「ラヴィ?」
「……っ、愛称。俺、そう呼んでって、いったっけ?」
自然と口から出ていたのは、彼の愛称だった。愛称で呼んで欲しいと言ったのは、あっちであり、そう呼んでいく内に、それが定着してしまった感じだった。彼は、驚いたように、目を丸くしていたけれど「いいよ」と吹き出すように笑った。
「なんか、懐かしいっていうか。俺、そう呼んでって、いったはずないのに、なんか、そっちの方がしっくりくるね。ステラが俺のこと、ラヴィって……兄さんでも、あんまり呼んでくれないのにさ」
「……駄目なら、いわないけど」
「なんでよ、もう一回いって?ね、ステラ」
と、彼は、期待の目を私に向けてきた。純粋な、子犬のようなその目を見て、私まで笑えてきてしまった。
「――ラヴィ。これでいい?」
「うん、いいね、ステラ」
彼の好感度は解除されないままだったが、確かに、好感度が上がったような、そんな感覚がした。